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4. 二人だけで行くことになった

 電話をした次の日、帰り道の途中で、莉子が手をパンと手を合わせながら済まなそうな顔をしてきた。


「ごめん!! せっかく誘ってくれたけど、日曜は用事があるからちょっといけそうもないや」


「そっか、わかった。修平にも伝えておくよ」


 修平に伝えなければならないことを考えると気が重くなったが、莉子は何かをひらめいたような顔をした。


「どうせなら、修平と二人でいっちゃいなよ」


「修平と、二人で……、まあ、考えてみるよ」


「うんうん、修平も喜ぶとおもうよ!!」


 なにいってんだか、修平が喜ぶのは莉子と一緒にいけるときでしょうに、と思いながらも表情に出さないようにした。


 

 やがて夜になり修平も部活が終わって家に帰ってる頃を見計らって、自分の部屋から電話をかけた。


「もしもし、修平。いいにくいんだけど、遊びに行く件は莉子から断られました」


『そっか……。まあ、いつでも一緒に遊べるわけじゃないしな。ガキの頃と違って』


 電話口から聞こえる修平の声は憂いを含んでいたが、次に出てきた声は明るかった。


『それなら、オレら二人で遊びにいかないか?』


「えっ、でも、私と一緒にいっても意味なくない?」


 しかし、次に出てきた言葉に戸惑いを隠せなかった。莉子から言われた『二人で遊びにいけばいい』という言葉を思い出した。まさか、修平からも言われるとは思わなかった。


『いいじゃねえか。オレたち二人で遊んでさ、莉子に後から楽しかったことを自慢してやればいいんだよ。きっと、あいつ口惜しがるだろうな』


 正直にいえば、とても嬉しい言葉だった。でも、修平が好きな相手は莉子で、結局私は莉子の代役に過ぎないと思うと素直に喜べなかった。


『それじゃあ、朝10時に駅前集合でよろしくな』


「あ、ちょっと」


 どうしようか迷っているうちに修平が強引に決めて、止める間もなく電話が切られた。


「まったくもう……」


 ため息をつくが、修平と二人きりで出かけられるということに口元がにやついてしまった。


 

 日曜日の朝、約束の時間は10時だったが、私は朝の6時から既に目覚めていた。


「あー、どうしよ、何を着ていこうかな。いつもどおりの服装でいけばいいんだよね。でもたまにはスカートでもはいてみようか」


 学校の制服以外ではめったにはかないスカートを引っ張り出して、姿見の前であわせてみた。

 いろいろと悩んだ結果、結局いつもどおりのカジュアルなパンツスタイルで行くことにした

 妙に意識しているとか思われたくなかった。

 

 待ち合わせ場所にいくと、修平が立っていて気軽な感じで手をあげてきた。


「おっす!! さすが千明、時間5分前ぴったりにきたな」


「別に普通でしょ。というか、修平はいつも早いよね」


「あー、オレ、時間調整へただからさ。ぴったりに行こうとすると遅刻しそうになるし、ちょっと早めに行こうとするとだいぶ早めに着くんだ」


 楽しげに話す修平を見ながら、ギリギリまで服を選んでいたせいでちょっと遅刻しそうになっていたというのは秘密にしておくことにした。


「いつもなら、修平は莉子と一緒に走ってくるのに、こうやって落ち着いて待ち合わせできるのって、なんだか新鮮だね」


「あいつ、この前なんか、家にいったらまだパジャマだったことがあってな」


 家が近い莉子と修平が一緒にくるのだが、遅れそうになった莉子と一緒に修平が走ってくるのが年中行事になっていた。


「千明も1年のときは同じクラスで、周りからはあいつの世話係なんて呼ばれてたらしいじゃねえか」


「まあ、しょうがないよ、莉子だし」


 小学校から続く莉子の癖に苦笑すると、そうだなといいながら修平も笑った。

 笑顔の修平を見ながら、このときだけは同じ気持ちを共有できていると思うと胸が満たされた。


 それから、電車にのって二駅先の繁華街のある駅に到着した。


「さて、どこからいくかなぁ。千明は行ってみたい場所とかある?」


「うーん、すぐには思いつかなさそう」


 もともとの計画では莉子と修平の仲を取り持つためのものだったため、特に思いつかなかった。


「それじゃあ、いいところにつれてってやるよ」


 どこだろうかと疑問に思いながら、楽しそうにしている修平の後をついていった。

 ついていくと、駅前から離れていき人通りが少なくなってきた。


「修平、この先ってなんかあったっけ?」


「いってのお楽しみだよ」


 さらに進んでいくと昼間だというのにネオンの光をともしたビルに近づいてきた。


「ちょ、ちょっと、修平、まずいって!! というか、こういうところにくるなら私とじゃなくってさ」


「ん? なにが、ほらはやく来いよ。そこ映画館なんだけどさ、昔の映画ながしてるらしいんだ」


 恥ずかしさで立ち止まる私の前で、修平は隣にある年季のはいった建物を指差した。


「え、あ、そうだよね。そっか、そっか」


 勘違いに気づいた私は誤魔化すように早足で建物に近づいていった。

 中に入ると、人気はなくがらんとしていて、照明を落としているのか薄暗かった。

 目をこらすと奥の方にカウンターが見え、おじいさんが座っているのが見えた。

 さらに部屋の様子をみると、時代をかんじさせるデザインの映画のポスターが張られていた。

 おそらく、あれが上映中のものなのだろう。


「修平、どれにするの?」


「大丈夫、もう決めてあるから」


 修平はポケットからチケットを2枚取り出し、片方を渡してきた。

 チケットには『美容戦隊ポマード 美容師VS理容師』と書かれていた。


「これって……、なつかしいなぁ」


「昔よく3人でポマードごっこしたよなぁ。知り合いからこの映画館のチケットもらってさ、それで千明と見にいこうって思って誘ったんだ」


 公園で集まった私と莉子、修平の3人でポマードごっこをして遊んでいた風景が頭に浮かんできた。


「莉子が正義の美容師やりたいっていってきかなかったよね」


「そうそう、しょうがねえからオレたち二人で悪の理容師役をやってたよな。やられ方がわざとらしいって、何度もやり直しさせられて」


 上映が始まるまでの間、修平と思い出話で盛り上がった。

 やがて、ブザー音が鳴り響き、部屋の中が暗くなると上映が始まった。


『ポマード、美容師のほうが上などという世間の見方、そんなものは認めん。我らが理容師こそが人々に親しまれてきた存在だと証明してくれるわ!!』


 スクリーンでは極彩色のぴっちりしたスーツを身にまとった美容戦隊ポマードと、大きなカミソリの形をした両腕をもつ理容師怪人が戦っていた。

 昔、テレビに映った怪人を見て恐ろしく見えていたが、今はなかなかこった作りをした着ぐるみだと感心しながら見ていた。


 やがて話が進んでいき、ポマードたちが怪人に追い詰められるが、逆転の合体技で怪人に致命打を与えた。


『スタイリッシュシザー!!』


 巨大なハサミで怪人が両断されて、ポマードたちが決めポーズをとった。


『理容師怪人、おまえたちは美容師の光によって生まれた影に過ぎない。オレ達美容師が美容業界を守っていく!!』


 地面に転がった怪人がくやしげな叫び声を揚げながら、ドーンという爆発音ともに四散した。


 光と影か……、いつも明るい莉子のおかげで私は幼い頃から助けられてきた。いまでは、いろいろと抜けている部分を手助けしているが、莉子の存在は私にとって大きなものだった。


「久しぶりに見たけど、おもしろかったな」


 上映が終了して照明が元の明るさに戻ると、修平が伸びをして笑いかけてきた。


 もしも、莉子と修平を取り合うなんて事態になったら、莉子にあっさり負けてあの怪人のように爆発四散するんだろうなと苦笑が浮かんでしまった。


 映画館を出ると、外の日差しが目に入ってきてまぶしかった。


「昼ごはん、どこにするかな」


 時計を見ると丁度12時を過ぎたところで、空腹をかんじた。


「ハンバーガーはこの前いったし、牛丼にでもする?」


「いいのか? 牛丼すきだけどさ……」


 修平はどこか不満げな顔をしていた。おかしいな、修平は丼系好きなはずなのに。

 駅前にある牛丼のチェーン店を出て、次はなにをしようかと歩きながら修平と話していた。


「食後になんか甘いものでも食べにいかないか? 近くにパンケーキがうまいっていう喫茶店があるらしいんだよ」


「いいけど、めずらしいね。修平がそういうところいきたいとか、前に莉子といくときにおしゃれな喫茶店とかどうって聞いたけど嫌がってなかったっけ?」


 だから、さっきは牛丼屋にしたんだけどなぁと不思議に思って聞き返した。


「えっとだな、クラスのやつに聞いてさ、一回に食いにいってみたかったんだ。でも、男同士だとちょっと入りづらいから、いい機会だとおもってさ」


「なるほどね、じゃあ、いこっか」


 妙に早口でしゃべる修平を見て、たぶん頼むのが恥ずかしかったのだろうと思いながら、目指す喫茶店に向かって歩き出した。


「そこの店だけど、ちょっと並んでるみたいだな」


 店の前には10人ほど並んでいて、どうやら人気のある店のようだった。


「あー、それにしても、やっぱり女の人が多いな。千明ときて正解だったよ」


 待っている人々は女子同士や、男女の組み合わせだった。

 同じように男女で並ぶ私達はどんな関係にみえるだろうなと思い、チラリと修平の顔を見た。


「ん? なんかオレの顔についてるか。もしかして、牛丼の米粒でもついてるのか?」


 口の周りを手でぺたぺたと触る修平を見ながら、なんでもないという普段どおりの口調で答えて、目線を店内のほうにずらした。


「え、あれって……?」


「どうしたんだ?」


 店内の座席にいる莉子が見え、その対面には20代半ばぐらいの年上の男が座っていて、莉子と楽しげに話していた。

 男と話す莉子の表情は楽しげで、それも気の合う友人と話しているのとはまた違った感じのものだった。 

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