3. 待ち遠しい電話
駅のホームであの人と別れた後、夢をみているようなふわふわした気分で自分の部屋に帰ってくると、ベッドの上に制服をきたままダイブした。
ぼふっと音をたてながら柔らかいクッションに受け止められて、そのままゴロンと横になった。
ブラウスの胸ポケットからスマホをとりだし、画面に映る連絡先リストを上から眺め、そして“二階堂誠司”という名前を確かめるように何度も見返した。
駅であったあの人の顔を思い出すと、胸がどきどきしてきて枕を胸にギュッとだいた。
「あああぁ~、どうしよ、どうしよっ」
なんともいえない気持ちを抑えきれず、枕を抱いたままゴロゴロとベッドの上を転がった。
電話をかけてくるっていってたけど、いつごろかけてくるだろうか。
「まだ仕事中だったみたいだし、こっちからかけたら迷惑になるよね……」
ぶつぶつとつぶやいた後、ぬおおとうめき声をあげながら、またゴロゴロと転がった。
それからしばらくの間、もしかしたら、すぐにでも鳴るんじゃないかと思いスマホから目が離せなかった。
「ごはんできたよ~」
晩御飯に呼ぶ声が聞こえてきたが、スマホが気になって動かずにいると、ドアを乱暴に開けられた。
「莉子っ!! ご飯ってよんだでしょ。……まだ制服きてるじゃないの、まったくこの子は子供の頃から進歩がないんだから」
「いまいくよ、もう、うるさいなぁ」
呆れた顔をする母を部屋から追い出して、手早く部屋着に着替えた。
それから、晩御飯をすませても電話がかかってくることはなく、気を紛らわせようと学校の宿題をすすめていた。
机の上に座りながら、目の前に広げたノートの上にシャーペンをさらさらと動かす音が聞こえていた。
いっそのこと自分からかけてしまおうかと思い始めたとき、着信音が流れた。
飛びつくように机の端においていたスマホを手に取ると、画面に表示されたのは“井上千明”という名前だった。
がっかりしながら通話ボタンをタップすると、聞きなれた声が電話から流れてきた。
『もしもし~、今大丈夫?』
「うん、大丈夫だけど、なにか用?」
声が若干不機嫌になりながらも、返事をした。
『もしかして寝起きだった。ごめんごめん』
「いいよ、それよりもどうしたの?」
千明の誤解を訂正するのもめんどくさかったので、先を促した。いつもなら、このまま30分近く話し込むこともあるけど、もしかしたら通話中に二階堂さんから電話がかかってくるかもしれない。
『今度の休みなんだけどさ、修平と一緒に遊びにいかない?』
どうしようか、もしかしたらあの人と会う約束をするかもしれないし。
「う~ん、ちょっと予定があるかもしらないから保留でいい?」
『そうなの? 修平にもいっとかなきゃならないから、返事は早めにお願いね』
そのまま千明は電話を切った。
「はぁ、なんでわたしを誘うんだろ。二人でいけばいいのに」
あの二人の関係を考えるとため息がでた。
それもこれもさっさと千明に告白しない、ヘタレの修平が悪い。
そこにまた、着信音が鳴り出し、びっくりしながらスマホを取った。
画面には待ち望んでいた人の名前が表示されていた。
「も、もしもし」
頬がかっと熱くなり、声が上ずってしまった。
『こんばんは、夜遅くに悪いね。できれば、今日のうちに電話したかったからさ。もし、寝るところだったら、明日にするけれど?』
「だ、だいじょぶです!! この時間はいつも起きてますから」
時計を見ると夜の11時を差していた。
普段は12時過ぎまで起きているので全然だいじょうぶだった。
『あのときはせわしなくてろくに話すこともできなかったら、できればゆっくりと時間を取りたいんだけど、今度の休みとかどうかな?』
どうやら今度の週末は予定が埋まってしまうようだ。すまぬ、千明よ。
それから、電話越しに待ち合わせ場所を決めて、夜も遅いというのであまり話せず電話は終わってしまった。
通話が終了すると、枕を抱えたままうーあーいいながら、ベッドの上をゴロゴロと転がった。
早く日曜日にならないかと楽しみで仕方なかった。




