13. テスト勉強まじつれぇわ~、ところでいつ告白するの?
家に帰りシャワーで汗を流すと、クーラーの効いた自室でごろごろしていた。
期末テストさえ乗り切れば夏休みがまってる~と思いながらも、机の前に座るのがおっくうだった。
そうなると、現実逃避するようにとりとめもない考えばかりが浮かんでは消えていく。
やがて、意識は千明や修平に向かっていった。
中学の終わりごろに修平から千明のことで相談を受け、千明に単刀直入に聞いてみたことがあった。
「ねえ、千明って好きなひとはいるの?」
少しの間を空けた後、「いないよ」と、静かな声が帰ってきた。。
そのときの千明は右手でもみあげの髪をなでていた。それは、何かいいたいけど遠慮しているときやウソをついているときの千明の癖だった。本人は気づいていないようだったが。
何か答えたくないってことなんだろうと、かまをかけて、いろいろな人の話題をだしてみたが、反応は芳しくなかった。
本当にいないのかと思ってもみたが、やっぱりどこか引っかかった。
「ううむ……、わからん!!」
ゴロンゴロンとベッドの上で寝返りを打ちながら、半年近く前のことを思い出してみたが、千明の考えていることはやっぱりわからなかった。
そのままごろんごろんとしながら、そろそろテスト勉強しないとなーと思っているうちに夕方になっていた。
よしやろう、と起き上がったところでスマホが鳴り出した。画面を見ると修平からだった。
出鼻をくじかれ少々不機嫌になりながらも、電話にでると、5分間に渡って話を聞かされた。
要約すると、千明との仲は進展していなかったようだ。
せっかく、勉強会という二人きりになれる口実を作ってやったというのに……。いままで背を押してやろうとしていたが、それでは足りないようだ。
「修平君や、わたしはテスト勉強で忙しいわけですよ」
『ホントか? どうせごろごろしてただけだろ』
図星をつかれた。さすが、幼馴染。
「それでですね。期末テストを無事に乗り越えれば、楽しい楽しい夏休みがくるわけです。高校生になって初の夏休みですよ。わかりますか?」
『お、おう』とたじろいだ声が聞こえてきた。
「夏休みに入ればイベントもりだくさんです。いろいろな場所に遊びにいったりしたいものですね~。そこで、修平君に質問です。高校の夏の思い出を千明と作りたいと思いませんか、彼氏と彼女として!!」
『いや、部活で夏休み忙しいし、そんなには遊べそうも……』
「しゃーらーっぷ。返事はイエスかはいしか受け付けませーん」
『わかったよ……』
「おー、やっと、決心したか。まあ、99%大丈夫だと思うから、報告期待してるね~」
電話を切ると、ふうと肺にたまった空気を吐き出した。
よりかかったイスの背もたれがぎしぎしと音を立てていた。
このイスも昔から使っている回転イスで、小学校の頃はこれを使ってコーヒーカップごっこをして遊んだものだった。
イスに座らせた修平をわたしと千明でくるくると回して遊んでいた。目をまわした修平をみて、千明と二人で笑っていた。
千明はなかなか笑顔を見せない子だったけど、3人で遊んでいるときには時折笑顔を見せてくれた。
「千明って普段クールだけど、付き合い始めたらきっとデレデレになりそうだな~」
千明にはもっと楽しそうな顔をしてほしかった。普段から何かを我慢しているようで、じれったくなるときがあった。
わたしの予想では千明が修平を好きだというのは、普段の様子からほぼほぼ確定といっていいだろう。
だけど、どうしてか、千明はわたしと修平を一緒にいさせようとする。もう、大分長いつきあいだというのに、どこか遠慮している節もあるし、やっぱり、引っかかる。
「うーむ、わからん」
ぐるんぐるんとイスを回転させて視界もぐるんぐるんと回してみたが、答えはでなかった。
夜の0時前になり、二階堂さんから電話がかかってきた。
「こんばんは」とスマホから聞こえてくる声は、先週よりは元気な気がした。恥ずかしかったが、膝枕をした甲斐もあるってものだ。
そんなことを考えていると、「きっと膝枕してもらったからかもね」なんて言われてしまった。あのときのことを思い出すと顔が熱くなり、あうあうと声にならない音がわたしの口からでてきた。
『中里さんと話してると、なんだか肩の力が抜けてくるよ』
電話越しに楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「あのですね。そろそろ、あれですよ。名前でよんでほしいなって……」
勇気を出して切り出してみると、一瞬の間のあと、優しげな声で『莉子』と名前を呼ばれた。
なんだろうな、これ。ふわっとしたような気持ちが湧き上がり、心臓がどくどくと脈打つのを感じた。
『どうしたんだ? おーい、莉子、莉子さ~ん』
「い、いえいえ、な、なんでもないです……、はい。というか、あんまり連呼しないでください」
恥ずかしさでもだえ死にそうになった。ようやく落ち着きを取り戻し返事をすることができた。
『それで、ボクのことは名前でよんでくれないのかな?』
「え、えっと、しばし猶予をくださいませ。練習するので」
『そっか、楽しみにしてるよ』
含み笑いが向こうから聞こえてきた。見てろよ、次には最初から名前で呼んで、恥ずかしがらせてやろう。
それからとりとめもない話題で雑談をした後、千明と修平のことを相談してみることにした。
でも、二人のことだとわからないように「友達から恋愛相談を受けたから大人の意見を聞かせてほしい」と前置きをしてから話し始めた。
「幼馴染の男子と女子が二人います。たぶん、二人は両思いなのですが、なかなか思い切ろうとしません」
『ふむふむ、幼馴染二人ね。そういえば、莉子にも二人友達がいたね』
「ちがいますぅ~。友達のはなしですぅ~」
『そうか、そうか、設定ね。ついこの前、似たような話を聞いたけれど、はやってるのかな』
「え、そうなんですか? まあ、よくある設定ですから」
口をとがらせながら抗議すると笑い声が聞こえたが、構わず続けることにした。
「それで、しゅうへ……じゃなくて男子は女子のほうにアプローチしようとするんだけど上手くいきません。ちあ……ゴホンゴホン、女子の方が男子になぜか遠慮しているようです。なんでかな~って思ってさ」
『ふむ……、その女の子の方はどんな性格かな?』
「えーっと、落ち着いていて、控えめかな? あんまり自分から前に出て行かないタイプの子だよ」
二階堂さんは悩んでいるのか数秒無言になった。
『うん、わからないな』
「そ、そうですか。ごめん、変なこときいちゃって」
あっけらかんとした声でいわれて、ずっこけそうになった。まあ、そりゃそうか。あんな情報の切れ端だけでいきなりアドバイスできるなんて、超能力者じゃなければ無理だよね。
『でも、その話にはもう一人登場人物がいるね。話に出てきた男子と女子を心配する人自身だよ』
「え、わたしも?」
『莉子が井上さんからどう思われているかってのも考えたら何かわかるんじゃないかな。いつも一緒にいた3人なんだから、井上さんが遠慮するとしたら、……たぶん、莉子、キミに対してだよ』
「千明が、わたしに対して遠慮……?」
『何に遠慮してるかはボクにはちょっとわかりそうもないから、あとは直接聞いてみるしかないだろうね』
時計がいつの間にか進んでいたので本日の電話はここまでとなり、相談に乗ってもらったお礼をいって電話を切った。
「うーむ、千明が……、なんで?」
二階堂さんに言われたことを腕を組みながら考えてみたが、全然見当がつかなかった。
そういえば、いつのまにか二階堂さんも修平と千明の名前で呼んでいたな。どうやら、ばればれだったらしい。




