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五十七話

 ヴィートとヴァナルとリーゼロッテは城からグエンの屋敷への転移陣を使いフォレスタに戻った。


 ―――大人の姿のまま。


 初めて来た時とは違う姿で町を歩くのは、かなり勇気が必要だった。同一人物と見抜かれたいようなそうで無いような複雑な気持ちがあり、成長した姿をさらすにあたって中身もきちんと成長できているかという不安もある。短期間で劇的に変われるほど人間は単純ではないが、少しくらい変わっていないとアビッソを飛び出した意味が本当に無くなってしまう。


 全部を話すと言う約束と謝らなければならない事、それから助力を請いにギルドへと立ち寄る。ヴィートもスヴェン達の実力を知っているので頼むつもりだったようだ。

 扉を開ければいつものようにシエラがカウンターで出迎える光景が随分と懐かしく思えた。リーゼロッテの中ではここは既に第二の故郷だ。


「お帰りなさい、中々戻ってこないから心配だったの。話はリックとアルフレッドに聞いているわよ。……災難だったわね。怖かったでしょう?」


 姿を元に戻したリーゼロッテに驚くことなくシエラはいつものように話しかけてきた。きっと状態異常であることはクレフから聞いていたのだろう。

 一瞬何のことかと分からなかったがすぐに砦で有った事だと思い出す。


「いえ、あの時は怖いと思う前に気絶していたようですから。それより二人の事ですよ。冒険者資格を取り上げられたって聞いて謝りたいんですけど、二人がどこにいるか教えてもらえますか?」


 この町に住んでいるのならギルドに住所も登録してあっただろうと、リーゼロッテはシエラに聞いた。ムスタの城へと急がなければならない事は分かっているが、この機会を逃せばもう後は無いかもしれない。貴族の生活に戻れば忙しいだろうし、別の領地への移動が今よりも難しくなるだろう。


「良いわよ。リックー、アルフレッドー、御指名よー」

「え?」


 シエラはカウンターの奥の部屋に呼びかけた。リーゼロッテが不思議に思って見ていると、呆れ顔のアルフレッドと何故かくねくね動くリックが出てくる。


「御指名って、シエラさん。いかがわしいお店じゃないんだから―――」

「はあい、御指名有難うございマース。うふっ」

「リック止めろ気持ち悪い、ってリーゼロッテ……のお姉さん?」

「本人よ」


 シエラが答えると、二人はあんぐりと口を開けて絶句した。対するリーゼロッテも驚きを隠せず二人に問う。冒険者の装備は外していて普段着のままで、ほんの少しだけだがやんちゃな感じが抜けて大人びた表情に見えた。


「なんで二人がカウンターの中にいるの?」

「ギルド職員として研修中よ。未成年だから、できることは限られてくるけれど」


 答えられないほどに固まっている二人に変わってシエラが答えた。ギルド職員。確かに冒険者から職員に転職するものは多い。年齢的な理由だったりけがをしたり、冒険者として限界を感じたりと様々な理由の者が転職する。

 けれど二人は若い。まだまだ成長途中で、挫折するには早すぎるくらいだ。


 リーゼロッテが何とも言えない顔をして黙っていると、驚きから復活したアルフレッドが説明を始めた。


「冒険者資格を剥奪されてもギルドに努めることは出来るんだよ。元冒険者だけでなく一般人もなれる職業だし」

「そうそう、むしろふらふらしている冒険者じゃなくてちゃんと定職に就くことが出来たって、俺んち親なんか泣いて喜んでたもんな」


 リックが肩を竦める。二人の両親も雇われの仕事に就いていて、伝手とはなるかもしれないが後を継ぐような形にはならない。身近にスヴェン達のような人物がいるので冒険者と言う職業に対する忌避は無いが、収入は安定していて危険のすくないギルド職員方が親としては安心できるのだろう。


「でも、まだ続けるつもりだったのでしょう?巻き込む形でこんな事になってしまって本当にごめんなさい。」


 今の状況がどうであれ、終止符を打たせてしまったのはリーゼロッテだ。頭を深く下げてお詫びすると二人は慌てて手を振って否定した。


「依頼に対して手ごろな冒険者がいなくて、緊急を要する事態となればギルド職員が出ることも有るんだ」

「手段が変わっただけでフォレスタを守るって目的は変わっていないからな。ちょっと事務仕事が増えるだけでやることもそんなに変わらない」

「だから、リーゼロッテが気に病むことなんか何一つとしてないんだ」


 ずっと心に引っかかっていて、もしも働く当てが無かったらどうしようと思っていたところだ。仲間として活動していた時期はそんなに長くは無いけれど、知らないふりなどリーゼロッテには出来なかった。

 二人の優しい声がじんわりと胸にしみる。


「良かった……私、二人から未来を取り上げてしまったのかと思って、本当はもっともっとすごい冒険者になったかもしれないのに」

「や、流石に自分たちの実力は理解できているつもりだからそれは無いよ」

「うんうん、どう考えたってぼちぼちってとこだったもんなぁ」





 会話の途切れたところでヴィートが話題を変えた。ギルドに対しての話なのでスヴェンも交えての話し合いだ。ノーラが対応していた冒険者も外へ出て行って、ギルドの中にはリーゼロッテ達だけになる。


「さてと本題に入るか。国内すべてのギルドに通達したからここにも連絡が来ているはずだが、アビッソの件、聞いているだろう?」

「ああ、しかしここからではかなり遠いから職員が戦いに参加しているギルドのフォローに回ろうかと思っていたところだ」


 他国からいきなり戦争を仕掛けられることは無いだろうが、モンスターはこちらの事情など察してくれない。アビッソにすべての冒険者や兵士、騎士たちなどが集中してしまえば何かあった時に対処できなくなる。

 リーゼロッテは諦めようとしたがヴィートは違った。ユヌ族による襲撃の危険もなくなったことから、有事の際には砦の兵士を動かせるようになったと告げる。


「できればモンスターの専門家に協力を頼みたい。今回の件はリーゼロッテに深く関わってくることなんだ」


 ヴィートの目配せを受けて、リーゼロッテは意を決して自分の身の上話を始める。


「私の父はアビッソの伯爵でした」


 ぽつり、ぽつりとリーゼロッテは順を追って話していく。継母のこと、歌姫アデライードのこと、逃げる為にバイオリンで小さくなっていた事、そして最近知った、ガルム伯に受け継がれる血筋と封印の事。

 貴族だという事は砦の出来事で知っていたリックとアルフレッドも、リーゼロッテのバイオリンの能力の由来を知って驚いていた。


 自分が逃げたことでどれだけの事態に陥っているのか理解しているから、リーゼロッテは自分を弁護するようなことだけは決して言わなかった。あのまま屋敷にいれば心が壊れていたとか、仕方がなかった、限界だったと言うようなことは口にしなかった。王と面会した時に出てきた子供のリーゼロッテは大人しくしている。 


「揺蕩う城を使ってアビッソの近くに移動して乗り込む方法を取りたい。城はまだ元の場所にあるか」

「昨日こっちに来ていたからな。多分まだあると思う」


 ムスタがギルドの終わるすれすれの時間に来て白い鴉亭は今日も閉まっているのか、ヴィートから何か聞いていないかと聞かれたそうだ。


 餌付けと言う言い方、あながち間違ってはいないかもとリーゼロッテは思ってしまった。そのお蔭でフォレスタは吸血鬼に襲撃されることなく平穏を保っていられると言うのもすごい。


 ヴィートは作戦を話していく。王都付近に一度揺蕩う城を止めて戦力増強をした後にアビッソ近郊へと姿を現して乗り込む。戦力の中には吟遊詩人も何人か混じっていて『故郷』を奏でつつ悪魔やモンスターを退治して民を救うと言う方法だ。


「話から察するに、俺たちはリーゼロッテの護衛という事だな。お前はどうするんだ」

「……足を引っ張るのが目に見えているから、後方待機という事になるだろうな」


 ヴィート心底悔しそうな顔で答える。護身術程度の剣技ならば身に付けているが、王族なので守られるだけの人間が一人増えることになる。楽器が奏でられるならば話は違ってくるが―――


「音楽はからっきしダメなんだよなぁ。もうちょっとしっかり教わっておけば良かった」


 嗜みとして学ぶ機会は有ったのだが、城を抜け出すようなやんちゃ坊主だったので結果として芸術系の教育が削られた。庶民の生活を見る事で兄弟の危機を救う事にはなったが、実はアデライードの舞台を見る機会も失ってしまっている。リーゼロッテともう少し早く出会うことも出来たかもしれない事にヴィートは気付いていない。


「悪魔もいるならクレフが必要だろ。俺と……シエラはどうする?」

「行くわ、もちろん」

「リックとアルフレッド、ノーラは留守番だ。後を頼む」

「了解でーす。新人二人の教育は任せといてください」


 ノーラは明るく返事をしたが、リックとアルフレッドは納得いかないと不満の声を上げた。


「なんで?リーゼロッテの仲間なんだから行くなら俺らでしょうが」

「冒険者資格を剥奪されているのにか?研修中の身だから職員として動かすことも出来ない。勝手に動くようならここですら働けなくなるぞ」


 自分たちの思うようにいかない立場であるという事がおそらく二人の中では初めてで、それが自分達の選んだ道であることも二人はまだ気づいていないようだった。シエラが静かに諭す。


「ギルドの職員になると、今と同じような思いを何度もしなくてはならないわよ。今のうちに辞めておく?」


 冒険者を見送る立場でしかないという事。自分たちが出ると言う例外はあるがごくわずかであるという事。物言わぬ状態となった冒険者を出迎えることもある。行方不明者として依頼が掛かれば探しに行かなくてはならない時もある。

 何度も歯がゆい思いをしてきた。自分たちが出れば簡単に解決できることも黙って受け流して他の者に割り振る。冒険者をして居た頃とは別の覚悟が無いとできない仕事だ。

 アルフレッドが強い意思の宿った声でそれを拒否する。


「いえ、留守番します。これも仕事の内、なんですよね。リーゼロッテ、気を付けて」

「資格を取り上げるようなことになってしまって、本当に御免なさい」


 見送る者と見送られる者。交わしている言葉はごく普通のもので本人たちは全くその気が無いのだが、恋人同士の別れのような雰囲気を感じ取ってしまう周りのちょっぴりダメな大人達。

 ヴィートがわざと咳払いをして大きな声で言う。


「スヴェン、丁重に扱ってくれよ。未来の嫁なんで」


 ヴィートの言葉にギルドの皆が一斉にリーゼロッテの方を見た。ノーラが「ま、まさか、リーゼロッテちゃん?」と声を漏らす。


「は、い。プロポーズをお受けいたしマシた……」


 真っ赤になったリーゼロッテは視線に耐えきれず、逃げるようにしてヴィートの後ろに隠れた。


「あら、先を越されちゃったわ」


 リーゼロッテと会話を続けながらもしっかりとスヴェンを見ながら話を続ける。スヴェンはうぐぐと呻きながら明後日の方を見た。

 リックがアルフレッドに小声で言う。


「まだプロポーズだけってんなら、略奪のチャンスとか」

「あ、ちなみに俺の身分は王子だぞー。父上も兄上たちもこの結婚には大賛成でな、一国丸ごと相手にする覚悟があるって言うなら受けて立つ」


 リーゼロッテに続いてのカミングアウトにリックとアルフレッドはまたもや絶句する。ちなみにこちらの事はスヴェン達は知っているので無反応だった。

 笑顔で口調も軽いが、心なしかこめかみ辺りに青筋が立って見える。ヴィートの底知れない怒りを感じ取ったのか、リックとアルフレッドが土下座に近い形で謝った。


「や、や、いやいや、め、滅相もございません」

「すいません口が滑りました許してください」


 騒がしいギルドの中、ずっと黙っていたヴァナルがふうっとため息をつき誰にも聞こえない様にぽそりと呟いた。


「ムコドノ、オトナゲナイ……」

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