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二十五話


 冬もそろそろ終わり春が訪れようかとする頃、フォレスタ周辺の森―――


 雪が解け始め、白と黒がマダラになった地面をものすごいスピードで白と黄色の物体が走っていく。リーゼロッテは動きの遅くなる曲を先程から弾き続けているがその速度が落ちることは無い。右へ左へとジグザグ走行をしながら、網を持って追いかけるリックとアルフレッドを翻弄している。


 ギルドで受けた依頼はこの時期にしか現れない、エッグバードを捕獲する事。卵の下部から足が生え、上部が少しだけ割れて目の辺りを出した状態で動き回る。比較的危険の少ない依頼という事で受けたのだが、朝から森へ入って昼過ぎにようやく見つけた一匹だ。


 成長すれば殻は取れ、他の鳥と見分けがつかなくなってしまう。普通の鳥類はもう少し暖かくなってから産卵するのだがエッグには蛇型の天敵がいる。天敵が冬眠から目覚める前に成長すると言う進化を遂げた。


 ヴァナルも先回りしてはエッグの前に立ちはだかる。力の加減が出来なくて怖いのか道を塞ぐだけだ。エッグもヴァナルに体当たりしては一瞬怯んでいるのでリックたちとの距離は縮まる。


 ……役に立っていないの、私だけだ。


 リーゼロッテは焦って次から次へと効果付の曲を弾く。操るもの、速度を落とすもの、混乱させるもの、魅了するもの。弾くのに一生懸命で周りへの注意がおざなりになった。


「リーゼロッテ!」

「へっ?うわわわわわ」


 顔面目掛けて突撃されたリーゼロッテは、咄嗟に頭を下げて少し屈む。エッグはリーゼロッテの頭を飛び越えて、コートのフードへすっぽりと入った。背中でバタバタと暴れるエッグ。慌ててリーゼロッテが子守唄を奏でれば、寝息が聞こえるどころかぴいぴいと歌い始めた。


「いろいろな耐性が付いているのね」

「状態異常の魔法をエッグにかけるなんて誰もしてこなかったからな」


 リックとアルフレッドが駆け寄りフードの中からエッグを取り出した。


 効果無しの曲に変えてバイオリンを弾けば、捕まったと言うのになおもご機嫌でぴいぴいと歌っている。そのうちリーゼロッテの足元には他のエッグたちが五匹ほど集まり始めた。ぴいぴいぴいの大合唱だ。


「すげー。効果付の曲を弾いているのか?」

「ううん、これはただの曲。危害を加えないとわかったから寄ってきたみたい。最初からこうすればよかったかしら」

「ははは……そうだな……疲れた」


 アルフレッドが肩をがっくりと落とした。リーゼロッテがバイオリンを弾きながら歩けば囀りながら後を付いて回るエッグたち。まるで親鳥になった気分で町まで戻って行った。


 町では建物の外でバイオリンを弾くことが出来ないので、門を通る前に布の袋に入れる。入れた後でバイオリンを止めれば、ぴぎゃーっと非難らしい声を上げ始めた。何だせっかく気持ちよく歌っていたのにどうしてこんな事をするんだと言う心の声がきこえるようで、だました形になったリーゼロッテは胸が痛む。


 ギルドに入ればにやけた顔のスヴェンが出迎えた。収穫なしを期待していたようで茶化す気満々だったらしい。毎年この時期に出される恒例の依頼でかなりの報酬が出る為、挑む冒険者は多い。スヴェンにエッグの入った袋を渡せば驚いた顔で中を覗き込む。


「六匹も捕まえたのか!一気に裕福になったなお前ら」

「この子たちこの後どうなるんですか?」

「ん?卵の殻は状態異常の耐性があるからな。粉末にして一時的な効果を得たり、装備品を作るときに混ぜ込んだりするんだ。中身はある程度育てたら森へ返すぞ」


 それを聞いてリーゼロッテはほっとした。自分の後を付いて回る雛たちに情が移ってしまい別れるのさえ名残惜しいのに、もしも残酷な結末が待っているのならこっそり逃がしてしまおうと思っていた。


「報酬はどうする?三等分か?ヴァナルの分はどうするんだ?」


 皆、ヴァナルの方を見る。ダイクトで睡眠薬入りのえさをもらっていたが、ほとんど食事はとらない。森に行った時に、リーゼロッテ達が気付かぬうちに何かしら食べている。宿のおかみさんがヴァナルの分を徴収することもしておらず、あまりお金のかからないペットの様なものだ。


「ホウシュウ、リーゼロッテ、バイオリン、キク」

「ヴァナルがそれでいいなら三等分にしてください。あまりお金かからないから大丈夫」


 リーゼロッテがスヴェンに言えば、リックとアルフレッドは顔を見合わせた。


「なら、リーゼロッテの装備品を一つ俺たちで買うとするか」

「俺らが実家暮らしという事を考えると公平とは言えないもんなー。そうすっか」

「皮の鎧を買うべきだろう。胴体部分だけでも防護力を上げた方が良いと思う」

「いーや。ナイフを買って万が一の時に備えるべきだ。反撃の手段を持っておいた方が良い」


 リーゼロッテ本人を置いて何を買うかの相談が始まってしまった。二人の心遣いが嬉しくもあっていらないとは言えず、おたおたとしている。そんな様子を見てシエラとスヴェンが話しかけてきた。


「リーゼロッテは男性に貢がれた事、無いのかしら?」

「何度かありますよ。でも……その……」

「へえ、誰にどんなものをもらったんだ。一番高い物は?」


 二人は興味津々で聞いてきた。二十一と言う齢でこの姿のリーゼロッテがどんなものをもらうのか、気になったためである。

 もらったのは勿論歌姫をして居た頃の話で、ファンからはいろいろなものを贈られては継母に没収された。面と向かって手渡された物は割と覚えている。贈り手の顔は覚えていないけれど。


「誰にもらったかはよく覚えてませんけど……城とか……」


 鉄の輪に複数の鍵が付いた物を渡された。湖畔の古城で月の光に晒されながら歌う貴女の姿を見たいと言われ、半ば押し付けられるようにされたのを覚えている。暗に囲われることを意味していたのだが、リーゼロッテは言葉通りに受け取った。


「城?」

「城って言った?今」

「ええ、鍵の束を渡されました。あ、でもきちんとお断りしましたよ。頂いたとしても遊びに行く暇がなかったので」


 そう言う問題か、とその場の誰もが心の中で突っ込みを入れた。リックとアルフレッドも言い争いを止めて耳をそばだてて聞いている。


「他には?」

「純金の装飾でこのくらいのダイヤが付いているネックレスです。付させていただいたんですが重たくって首が痛くなりました」


 そう言ってリーゼロッテは人差し指と親指で輪っかを作って見せた。かなり大粒のダイヤで、様々な歴史上の人物の手を渡ってきた価値あるものだと聞かされた。歴史をそれほど興味があるわけではないリーゼロッテはさしたる感動もなかった。


「値段はいくらだ」

「詳しい数字は聞きませんでしたけれど、南方の国の国家予算に匹敵すると言われました。何でもいろいろな逸話が付いているそうで」


 あまりピンときませんよねとリーゼロッテは困ったような顔で首を傾げる。スヴェンは愚か、シエラでさえもこれらの答えに言葉を返せないでいた。甘酸っぱい思い出をからかうなんて規模ではなかったのである。


「リーゼロッテって何者だよ」

「さあ……でも皮の鎧やナイフを贈ったくらいじゃ満足しないって事か」

「もう少し背伸びして大人っぽいものの方が良いのかな……」


 ひそひそこそこそと話すリックとアルフレッド。だが会話は丸聞こえでリーゼロッテは居心地悪そうにしている。

 見かねたシエラが助け舟を出した。


「二人とも、贈り物をして喜ばせたいのも分かるけれど、慣れないうちは本人の意見を聞いてからの方が良いわよ」

「ナイフで指をけがしたらバイオリンが弾けなくなるし、皮の鎧を付けながら弾くのも難しいと思うので……」


 いりません、と言う言葉を濁してすまなさそうな顔をするリーゼロッテ。欲しいものも思いつかず、意見を求められても困るばかり。装備を整えることの重要性は分かるのだが冒険者になってほぼ三か月が過ぎてもやってこれたので新しいものは必要ないとも思っている。


「吟遊詩人の装備か……難しいな。三人とも疲れているだろうから今日は解散という事にしたらどうだ」


 スヴェンの言うとおりそれぞれで考えることを課題として、三人はギルドを後にした。

暫く毎日更新していましたが、不定期に戻します。すみません。

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