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二十一話


 時間は少しさかのぼる―――


「ところでリーゼロッテ、その服で寒くは無い?」

「……あ!私の服」


 アルフレッドに言われて自分の体を見下ろし、寝間着のままであることにようやく気付いたリーゼロッテ。バイオリンを取り戻してから出口を探すのに必死で服の事を考えていなかった。町の人たちが突入した屋敷の中へと戻り、騒ぎで起きた屋敷の者たちに片っ端から聞いて行く。


「私の服はどこ?」


 途中で簀巻きにされた町長が運び出されていくのを見かけた。数人に聞いて世話をしてくれた侍女に当たり、服と着替える場所を用意してもらう。


「申し訳ございません。町長の命令でやったことでございまして……」

「咎める人は誰もいなかったの?」

「町長はいつも周りに護衛と称して乱暴なものを置いてましたから」


 口答えなんてすることは出来なかったと言う。任命された当初は誰もが認める善良な町長だったのに、いつからか変わってしまったのだと侍女は悲しげな表情を浮かべていた。


「誰にでも平等に接する方だったのに。今回だって冒険者ならいきなりいなくなっても誰も文句は言わないだろうって」


 いつの日か冒険者を底辺と言っていたリーゼロッテは自分を恥じる。冒険者の立場でなければ見えないものもあったのに。一歩間違えれば町長のような考え方をしていたかもしれないと気づいてぞっとした。

 自分が曲がりなりにも貴族であることがばれてしまえば、町長にどんな沙汰が下されるのか。入口まで戻ったリーゼロッテは早く町を出ることをリックたちに提案する。



 村同士の公共の交通機関は無いが、そこそこの規模の町同士なら乗合馬車と言う手段がある。大抵は町の入り口付近に乗り場が有って切符を買い利用するのだが、冬の間は雪深いフォレスタへ向けての馬車は止められていた。


 比較的近くにある町なのに、魔石鉱山が特殊な場を作り出しているのかダイクトにはほとんど雪は降らない。


「ダイクトの恩人に対して済まねえが、戻ってこれるかどうかわからないからなあ」


 乗り場の切符売りが申し訳ないと済まなさそうに言った。馬車を借りたとしても返しに来なければならない。


「仕方ない、歩いて帰るか」


 護衛の依頼の馬車もなく、リーゼロッテ達はフォレスタに向かって歩き始めた。


「リーゼロッテ、カエル。ドコヘ?」


 ヴァナルが寄り添うように歩きながらリーゼロッテに聞く。音もなく忍び寄るように歩いてくるので知っていても驚いてしまう時がある。


「フォレスタと言う町よ。ヴァナルはこの後どうするの?」


 ヴァナルは少し目を伏せて低い声で戸惑う様に答えた。


「アビッソ、カエル。リーゼロッテ、マッテル」

「ヴァナルはアビッソを知っているの?私はここにいるよ?」


 ヴァナルの発する単語の繋がりが分からなくて、リーゼロッテは聞き返した。はくはくと口を閉じたり開いたりしながらもう一度、今度は耳を伏せながら考えてヴァナルは答える。


「リーゼロッテ、イルバショ、ヴァナル、カエルバショ」

「うん、フォレスタに一緒に帰ろう」


 やり取りを黙って見ていたリックとアルフレッドは二人でこそこそと話している。


「完全に人間の意識と同じとは考えない方が良いみたいだ」

「屋敷の前に転がされてた時、わけがわからなかったみたいでうろうろしていたもんな。ちょっと気を付けた方が良いかも」

「ナニカ、イッタカ?」

「いいや、なんにもー」


 歩きはじめは何気ないおしゃべりをしながら足を動かしていたが、会話は段々と減っていき暫くすると無言になってザクザクと足音だけが響いている。フォレスタが近くなり雪の降る区域に入った。体力が一番少ないリーゼロッテは口が開きっぱなしになって白い息が漏れている。


「休憩するか?」

「だい、じょう、ぶ。体力つけないと。気が紛れるように何か話してくれる?」


 十一歳と二十一歳の体ではどちらが体力があると言われたら微妙な所だ。そしてこの体でつけた体力が元の体に戻った時に果たしてついているのか、リーゼロッテには分からない。無駄になるかもしれないけれど努力はしておくに限る。


 アルフレッドは少し考え、フォレスタについて話すことにした。


「フォレスタは雪が深い町なんだが、今年の冬はそうでもないんだ」

「そうそう。積もるときは一階部分が雪で覆われて、二階の窓から出入りするときもあったりしてなー」


 リックも会話に混じってくる。リーゼロッテがフォレスタに来てからは、ひざ丈ほどしか積もっているのを見たことが無い。できれば一度それほど積もっているのを見てみたいと思ったが、実際に苦労している人達には言えない。


「雪かきに追われてこうして冒険に出るなんてほとんどできないもんなー」

「雪の中のモンスターは数こそ少ないものの凶悪な奴が多くてね」


 アルフレッドが指折り数えて冬のモンスターを上げていく。


「雪狼とか、スノーマンとかアイスゴーレムとか。雪のセイレーンとか、大概は火が弱点だけど魔法使いがパーティーにいないときついらしくって」

「割と巨大なのが多いのも特徴だよな。一面雪野原だと思ったら巨大な雪亀の甲羅だったりなー」

「その、後、どうしたの?」


 リックとアルフレッドは顔を見合わせた後気まずそうな顔をする。


「あ、いやだから冬場は外に出られないから本で読んだり人から聞いた話なんだ」

「すまん、見たことあるみたいに聞こえたか」


 聞いていたヴァナルもがっくりと項垂れた。


「キタイハズレ……」

「でも、ちょっと、見てみたい」

「だよなー。お、フォレスタが見えてきた」


 二人の話のお蔭であまり苦にすることもなくたどり着くことが出来た。そして遠目に見ても分かるほど、ヴァナルを見た門番がぎょっとする。町にすんなり入ることが出来るかどうか、リーゼロッテは心配になった。


 門まで来ると丁度ヴィートが馬車に乗って出かけるところだった。ルディとアイクも一緒で、幌馬車の中から顔をのぞかせている。


「お帰り、リーゼロッテ。随分と大きな狼だなあ」

「旅の途中で懐かれてしまって……。バイオリンを気に行ってくれたようです」

「ヴァナルダ、ヨロシク」

「しゃべった!?」


 ヴィートがヴァナルの鼻先を撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。動物が好きなのかヴィートは顔を緩ませてずっと撫で続けていたが、ルディとアイクに声を掛けられてはっと意識を取り戻した。顔が少しだけ赤い。手を名残惜しそうに放し、咳払いをして誤魔化した。


「すまないがこれからしばらく酒場は休みだ。他所へと出かける用事が出来たからな」

「はい、気を付けて行ってらっしゃい」


 出かける前に会えてよかったと、リーゼロッテは笑顔で手を振って見送る。意外な一面を見れたことを心に仕舞い込んだ。

 それまで黙っていたリックとアルフレッドがリーゼロッテに声を掛ける。


「リーゼロッテ、酒場のマスターと仲良いのか?」

「え、うん。時々酒場で弾いて稼がせてもらっているよ。マスターの料理美味しいし、しばらく食べられないのは残念ね」

「ふうん」

「ふーん」


 普段話す時は明るい声の二人が、少しだけ暗い声になった。豊かな表情に少しだけ影が差している。二人の見たことない顔つきにリーゼロッテは少しだけ不安になった。


「何か私変なこと言った?冒険者としてこういう稼ぎ方は止めた方が良い?」

「いいや、なんでもない。さ、ギルドへ一応報告しに行っとくか」


 二人の不可解な態度に首をひねるリーゼロッテ。いくら考えても分からないので一緒にギルドについて行くしかなかった。


メイド、侍女、使用人……。年齢やイメージで使い分けをしているんですが悩み始めるとキリが無いですね。

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