救宝士と水天の金字塔7
この物語はフィクションです。登場する地名、人名、団体名等の名称は実在のものとは一切関係ありません。
また、史跡破壊、殺人等の描写がありますがこれらを助長、推進するものでも無いということを予めご了承ください。
超技術蒐集犯罪秘密結社『イルミナティス』。
この世界に存在する様々な技術は、一度滅びた過去の文明の技術を模倣、再現しているものが多数を占める。
例えばディーンたちが乗ってきたジープ型車両や、シェルマが所持していた拳銃。それからMPもその類。
これらは一括りに『リシング』と呼ばれるモノで、少し値は張るがその利便性から世界中に普及している代物である。
だがこれらとは別に、現行の科学力・技術力では再現・制御できない、それこそ魔法や奇跡のような現象を引き起こすモノたちが存在していた。
『旧世界の魔術』、『奇跡の遺物』、『禁忌』とも呼ばれるものは『超技術』と総称され、現在も世界各地で発掘、研究、あるいは未発見のまま眠っている。
それらを追い求め、手に入れるためなら殺人、強奪、器物損壊、この他あらゆる犯罪すら厭わない組織。
それこそがディーンたちの宿敵、『イルミナティス』である。
イルミナティスは世界中に構成員が存在しており常に『超技術』を手に入れようと日夜暗躍している。
そのためなら他の組織や活動にも手を貸し、逆に民間人であろうと容赦なく拉致や殺害といった違法行為にも打って出る程だ。
最初期こそその活動を、組織の手の者により隠蔽工作が為されていたこともあり、JPNの対応も遅れに遅れた。
しかし、ディーンとコーチが関わった『ある事件』を切欠に、その多種多様且つ膨大な量な犯罪経歴が明るみに出たことで組織ごと国際指名手配され、コーチはその専任捜査官に任命、イルミナティスが関与しているとみられる事案には天下御免の捜査権が与えられるようになった。
ディーンもその一件以来、様々な『超技術』に触れる機会があり、その度にイルミナティスと小競り合いを繰り広げて来たのである。
――――――
「また連中か…仕事柄とはいえお前も難儀なものだよな」
同情したようにコーチが自分のデスクを指で叩きながらため息をつく。
『おやっさんもな…』
イルミナティス専任捜査官と言う役職にこそ就いたコーチではあったが、その実は閑職に追いやられたと言っても過言ではない。
署内の薄暗い一室。
元々資料室として使われていた部屋を改装してイルミナティス対策捜査本部、通称『イタソウ』が設立されたものの、コーチはそれ以外での捜査や出動は原則大幅に制限されている。
彼自身元々優秀な刑事であり、上下関係なく信頼も厚く、本来ならばその活躍に相応しい役職に就いているはずだった。
だが、かつての事件。
結果的にイルミナティスの実在と危険性を証明こそしたものの、それと同時にコーチは取り返しのつかない大失態も犯しており、それが彼の華々しい経歴に影を落とすこととなった。
元々コーチの活躍を疎んじていた組織内の人間にとってコレは彼を追いやる格好のネタとされ、上層部はやむなくコーチに現在の処遇を下した。
「…すまなかったな…知らなかったとは言え俺達がもっと早く動いていれば、あんなことには…」
謝罪するコーチの声には強い悔恨が混じり、当時を想起する彼の視線の先には、まだ駆け出しだった頃の自身とディーン、そしてディーンの父親である先代の教授が肩を組んでいる写真が飾られている。
『…昔のことさ。気に病んでも仕方がない』
姿は見えないが、きっと肩を竦めていつものふてぶてしい笑みをしているディーンの顔が目に浮かび、思わず苦笑するコーチ。
「そう…そうだな…」
『そうさ。それよりも、今は連中がベアオルドスと組んで何を企んでいるかを突き止めなきゃだ』
シェルマからの依頼もあるしな、とディーンが話を戻す。
「ああ。その、水天神の錐墓だったか?そこに何があるかは分からんがイルミナティスが関与している可能性がある以上、ろくなことにならんだろうな」
『同感だ。取り敢えず人員を回せるだけ回して欲しい。出来ればおやっさんにも来て欲しいんだけど…』
言葉を濁すディーン。
恐らく臨月が近いサーニャとのことを慮ってのことだろう。散々振り回す癖に、こういう所で変に気を回す奴だと鼻を鳴らした。
「気にすんな。むしろそんな状況で動かなかったらそれこそサーニャに怒鳴られるところだ。『私が惚れた熱血刑事はどこに行ったの?』ってな」
『…相変わらず逞しい夫婦ですこと。じゃあ遠慮なく、こき使わせてもらいますかね』
「へいへい、こき使われますよ」
手元の呼び鈴を鳴らし、隣室にいる捜査官を呼び出す。
「取り敢えずは公国支部にいる俺の知り合いに人員を割けれるか掛け合ってみよう。俺達も準備ができ次第そちらに向かう」
『恩に…る…なる…け早…』
「ん?なんだ?」
突如ひどいノイズが走り、ディーンの声が遮られた。
『…ディ…!』
「ーーーッ!」
瞬間、つんざくような発砲音とクロの叫びが鼓膜を貫き、椅子から転げ落ちそうになる。
「おい?おいディーン!どうした!」
『……!…!ーーー』
慌てて姿勢を立て直し、呼びかけるもノイズ以外で聞こえるのは銃撃の音と雑音に遮られ、最早言葉として聞き取れない誰かの叫びのみ。
「くそっ!」
してやられたと言わんばかりに受話器を叩きつける。
(まさか連中、もう動きだしたってのか…!?)
頭に浮かんだのは、件のイルミナティスによる襲撃という可能性。
「こうしちゃいられねぇ!」
愛用の赤いコートを羽織るのと同時に扉がノックされ、瓜二つの若い男女の捜査官が入室してきた。
「失礼します、警部!」
「お呼びでしょうか、警部!」
「リオ、スレイ!出動だ!大至急ガーバルベイン公国の大使館と支部に連絡を取れ!」
リオ・サニーデイズとスレイ・サ二ーデイズ。
イタソウ所属の双子の構成員で、コーチを慕う忠実な部下達である。
「「ハッ!承知しました!」」
怒号とも取れる命令にも動じず敬礼を取り、すぐさま踵を返して隣室で待機中の他の捜査官達に指示を飛ばす二人を見て、コーチも幾分か落ち着きを取り戻した。
(いかんいかん、冷静になるんだ俺!)
両頬をピシャリと叩き、出動の為の準備と装備を整える。
「待ってろよ二人共、すぐに助けに行くからな!」
熱血刑事は力強く決意を固め、新たな事件の場へと赴くのであった。
次回更新は11月10日(土)0時更新予定です