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蒼黒の救宝士  作者: 柘榴 鉄犬
2/8

救宝士と水天の金字塔2

街に到着したディーンとクロ。

彼らを待ち受けるのは鬼か蛇か。


「おおー。なかなか賑わってるじゃないか!!」

キネユッデの街に辿り着いたディーンとクロ。

街の活気はディーンの言う通りなかなかのものであった。

大通りには買い物客や観光客と思しき人々が往来している。

露店も数多く存在しており、通行人に我ここにありと大声でアピールし、果物や土地の名産品などを一つでも多く売ろうと躍起になっている。

白い石造りの建物には色とりどりの特大タペストリーが掛けられており、見るものを飽きさせない工夫が感じ取られる。

「いいですね、こう言うの!何かワクワクします!ディーン、早く車を宿に停めて、街を散策しましょう!!」

「ああ、そうしよう。っと」

バックミラー越しに何かを発見し、途端に眉をしかめるディーン。

「どうしましたディーン?」

急に黙り込んで顔色を変えたディーンにクロがキョトンとした様子で問い掛ける。

「今の、見てなかったか?すっげえ美人なお姉さんが居たろ!?」

が、それほど深刻な問題でも無かったようだ。

「っ、知りませんよ!このバカっ!」

「なっ、バカはないだろ!?男ならキレイなお姉さんに誰だって反応しちまうもんだろう!」

「そういうところがバカだって言ってるんです!この万年発情期!ケダモノ!変態!」

「なっ、そこまで言うこたぁねえだろ!それに変態だって言うならお前さんだってーーー」

「ぎゃあああ!!うるさぁぁい!!皆まで言うんじゃねえええ!!」

あーだこーだと言い合いながら宿へと向かう2人。


ーーーーーー


そんな彼らを物陰より尾行する複数の人影があった。

『こちら1番隊、奴ら街に入りました。引き続き追跡を続けます』

『気付かれておらんだろうな?』

『問題ありません』

『ならば良い。宿に入ったら夜陰に乗じて始末しろ。首尾よくな』

『お任せあれ。我らが水天神の御心のままに』


ーーーーーー


宿屋に到着したディーンとクロ。

荷物を下ろし、ロビーにて受付を済ますと同時の事だった。

「お待ちしておりました、フォードバーグ教授」

「っ!?」

余りにも唐突に背後から声を掛けられた2人は咄嗟に身構える。

クロに至っては振り向きざまにすぐさま攻撃できるように服の下に隠してある武器に手を掛けている程だ。

だが2人の目に写ったのは、銀髪を纏め、襟に羽根ペン型のピンバッジを付けたスーツに眼鏡、ビジネスバッグとハイヒール、といかにも仕事一辺倒な感じの褐色肌の女性であった。

「こ、こりゃどうも。えっと、貴女は?」

どこか拭い切れない違和感を抑え、ディーンが女性に尋ねる。

「私が今回の調査を依頼した公国立エンシェ学術院考古学科所属員、シェルマ・グラリアルです。以後お見知り置きを、教授」

そういうなりシェルマと名乗った女性はスーツの懐から名刺を取り出す。

(これは…!?)

その瞬間、ディーンは見逃さなかった。

「?どうかされましたか、教授?」

訝しげな表情でディーンを窺うシェルマ。

「あ、ああ!いえ、何でもありません!ご丁寧にどうも。こちらこそよろしく、ミス・グラリアル」

慌ててディーンもケースから名刺を取り出しお辞儀と共に差し出す。が、この男の目線はお辞儀をする振りをしつつ、バッチリとシェルマの胸元へと向けられていた。

「『スピルカ合州国立ジョーティ大学文学部歴史学科教授 ディーン・フォードバーグⅣ世』…」

名刺を受け取り小声で読み上げるシェルマの隙をつき、こちらも名刺を受け取り読む…振りをしながら、目線は一切胸元から離さない。

(間違いない。この姉ちゃん、スーツで隠れてはいるが、なかなか立派なモノを持ってらっしゃる!)

などと邪な考えを抱きつつ、ひとしきり堪能した後で顔を上げ何食わぬ顔で握手を交わすディーン。

そして自分の後ろから、今度は振り向かずとも分かるほどの強烈な視線を感じ取るのであった。

「デ・ィ・ー・ン…?」

「や、待てクロ。一旦落ち着け、な?」

青筋を浮かべ拳の骨を鳴らすクロ、冷や汗を浮かべるディーンとは対称的に、事情を知らないシェルマが少し困惑気味に尋ねる。

「ところで、こちらの可愛らしい御方は?教授のお子さんですか?祖父から『当代の』教授は独身だと聞いていたのですが…」

「ぶっ!?」

「んなっ!?」

「?」

三者三様のリアクション。

質問の主のシェルマは、はて自分は何かおかしな事を聞いたのかと首を傾げているし、された方のディーンは一瞬吹き出した後に必死に笑いを堪えている。

そしてその対象であるクロは顔を真っ赤にして今にもシェルマに飛びかからんばかりにわなわなと震えていた。

「くくくっ…少し失礼…ふははっ!そうかそうか、傍から見たらクロは俺の息子か…くくくくっ!」

「ちょっと!ディーン!!笑い事じゃありません!!」

「えっと…?」

ひとしきりケラケラと笑った後にディーンが説明し始める。

「くくくっ…いや、失敬。こんなナリをしていますが、コイツは一応私の相棒でしてね。ほらクロ、依頼人にちゃんと挨拶しな」

「『こんなナリ』も『一応』も余計!私こういう者です!」

憤慨しながらもシェルマに名刺を差し出す。

「『スピルカス合州国立ジョーティ大学文学部歴史学科准教授 クロ・ディアナ・アントム』…『准教授』!?」

名刺を読み進める内にシェルマの声色が焦燥へと変化していく。

「そういう事です!『こんなナリ』でも!『一応』!考古学のえらーい准教授なんです!」

「お前さん、ソレさっき自分で余計っつったじゃーーーおっと」

それこそ余計なこと言うなと言わんばかりに睨みつけられ、ディーンは口をつぐむ。

「え、えーっとミス・アントム?失礼を承知で伺いますが、御年齢は…?」

未だに信じられない様相でシェルマがおずおずと尋ねる。

「ふっふーん!実は私、こう見えても15歳なんです!オホホホホ!」

「じゅ、15!?」

更に信じられないと言わんばかりにシェルマが声を上げた。

「ミス・グラリアル。お気持ちは察しますが、コイツの話はマジなんです」

所謂飛び級というヤツですよと、クロの金髪をわしゃわしゃとぶっきらぼうに撫で回すディーン。

「やめれー!」

ディーンの手を振り払いながらも、クロは満更でもなさそうな表情を浮かべる。

「こ、これは大変失礼致しました、ミス・アントム」

シェルマも我に返ったかのように、襟を正しクロに謝罪する。

「わかれば宜しい!良きに計らえです!わっはっは!」

「こら、調子に乗るなクロ坊!ミス・グラリアルは依頼人なんだからな」

気を良くしたクロと、それを諌めるディーン。

「いえ。知らなかったとはいえ、無礼を働いたのはこちらですので」

対するシェルマは先程の取り乱し様から一転、最初の事務的な態度に戻っていた。

「そう言ってもらえると助かります。あー、ミス・グラリアル、仕事の話の前に荷物を部屋に置いて来ても?」

「ええ、では15分後にまたこのロビーで集合ということでどうでしょう。その後私の顔なじみの店が近くにあるので、そこで依頼の件についてお話します。宜しければそのままご夕食も」

態度が仕事モードへと戻ったのを皮切りに、話を依頼へと持っていく。

ディーンはシェルマの提案を承知すると、クロを連れて3階の自分たちの部屋へと足を運ぼうとする。

「あ、時にミス・グラリアル、二つほど指摘しても?」

「はい、何でしょう?」

と、ここでディーンが思い出したかのようにシェルマに顔を向け直した。

「一つ目、クロを『ミス』と呼んでいましたがね。コイツは格好と顔立ちこそこんなですが、れっきとした『ミスター』ですよ」

「なっ!?」

「ちょっ、ディーン!!」

別々の意味で驚く2人を尻目に次の指摘に移る。

「そして二つ目。小型で隠しやすいとはいえ、スーツの内ポケットに銃を入れておくのは感心しませんな。万が一にも暴発したら、取り返しが付きませんよ?そういうのはフィクションだけに留めておくべきだ。隠すのであればその鞄かホルスターに、です」

ではまた後ほど、と更に驚く2人を置いてしてやったりと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、今度こそ荷物を手に部屋へと向かうディーン。ハッとその後をクロが追う。

「…只者じゃないのね…」

1人残されたシェルマが呟きながら、人目につかないロビーの隅まで移動する。

「きゃっ」

「おっと、こりゃすいません」

途中、初老の男性とぶつかるも、軽く会釈を交わし、そそくさとその場を後にする。

隅に着いたシェルマはスーツに手を入れ、冷たい金属の塊の感触を再確認した。

「…あの人達になら…」

そう独りごち、小銃をスーツからハンドバッグへとそっと移し、改めて2人を待つのであった。


ーーーーーー


「鼻の下伸ばしちゃって、ふーんだ!」

部屋に入るなり、悪態をつくクロ。

「オマケにボクのこともバラしちゃうし、一体何考えてるんですかディーン!」

ベッドにダイブし、ジタバタと暴れる彼を差し置いて、ディーンは荷物を置くなりリモコン型の装置を取り出し、部屋の中を調べ始めた。

「ちょっと、聞いてるんですかディーン!?」

「聞いてるよ、後で存分にたっぷりと足腰立たなくなるまで可愛がってやるから少し落ち着けって」

「か、かわっ!?」

『可愛がる』と聞くと、クロは顔を赤らめ、途端に静かになる。

「盗聴器の類の反応は無いな…」

ふむ、と一通り調べ終え、ベッドに腰掛けたディーンは葉巻とマッチを取り出しながらクロに尋ねた。

「さてクロ、お前さんあの女をどう見る?」

「どうって言われても…あ、でも銃を持っていたのは驚きでしたけど」

「そう、そこだよ。一介の考古学者が、普通銃なんか持ち歩くか?ん、火がつかねえ…」

葉巻を咥え、マッチを擦りながら疑問を呈する。

「確かに、護身用にしたって物騒過ぎますね…」

「それだけじゃねえ、って言うか一番最初から気になってた事なんだがな。あの女に声を掛けられた時、足音どころか気配すら感じられなかった。俺達2人ともだ…ちっ、湿気ってやがる」

火を起こすのを諦め、葉巻を咥えたままディーンはベッドに横になった。

「あっ、そう言えば…!」

「普通の靴なら有り得ない訳ではねえがな。でもあの女、ハイヒールだぜ?オマケに床は大理石。それで足音もなく俺達の後ろを取るなんて、それこそ普通は無理ってもんだろ」

初めてシェルマと接触した時のことを思い出す。

ディーンが最初に彼女に抱いた違和感はこれだった。

仮にも2人はこれまでいくつもの危機を乗り越えた冒険者。そんな彼らの背後を、音も気配すらも無く近づくのは、相当の訓練を積んだ者でなければ難しい。

「気になることはまだある」

ベッドに寝転びながらディーンは話を続ける。

「俺が独り身だと彼女は祖父から聞いたって言ってたけど、記憶に間違いがなければ俺の知り合いにグラリアルなんて姓の奴は1人もいねえんだよ」

「あ、そこなんですね?」

割とどうでもいいなと思いつつ相槌を入れるクロ。

「適当に返してるけど、個人情報が漏れてるんだぜ!?」

「いや、それは別におかしくはないでしょう。仮にもあなた大学教授なんですし、あの人のお爺さんだって人伝に聞いた可能性だってあるんですし」

「いやねーわ!例えあったとしてもわざわざ孫娘に言う必要があるか!?『お前と今度仕事するあの男、独身らしいぞ(笑)』なんて!そっちこそ無いだろ!自分で言っててちょっと悲しくなってきたぞちくしょう!」

「知りませんよ!?」

ツッコむクロを置いて、尚も感情任せにヒートアップし、納得いかんと言わんばかりにディーンが自身の髪を無造作にいじる。

「ほら、そろそろ時間です。アホなこと言ってないでさっさと準備してください」

ハア、と溜息をつきながらベッドから起き上がるクロ。

「あ、気になることもう一つあったわ」

不意にテンションが戻るディーン。

「今度は何です?くだらない事だったらぶちますよ?」

若干うんざりしたような目で見てくるクロを横目に、よっこいしょと起き上がる。

「いやまあ、くだらないっちゃくだらないんだがな?」

と前置きし、ディーンは先程シェルマに見せたものと同じ、不敵な笑みを再び浮かべた。

「ピラミッドからこのホテルまで、俺たちどうにも誰かにずっと尾行けられてるみたいなんだわ」

次回更新は6月8日(木)12時(予定)です。

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