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部活



防具屋を出ると、空は暗くなりかけていた。


「ああ、もう夜になってる…イツキ、あたしもうログアウトしなきゃ」


「そうか、俺もだよ…現実の生活もしなきゃいけないよな。

 今日は、シュラに行けなかったね」


「うん、でも十分楽しかったよ」


「そうだね、イノリは明日もログインするの?」


「明日は夕方から用事があって入れないんだ。

 明後日は、土曜日だから午前中からやりたいな」


「そっか……じゃあ俺も合わせるよ」


「え!?そんなの悪いよ…」


「いいよ、俺も最初の『シュラ』はじっくり楽しみたいし…だったら学校もない土曜がいいからさ」


「ほんと!?じゃあ、土曜日の10時に酒場『明美No2』で待ち合わせとか…いいかな?」


イノリは、顔を少し赤くして、少し上目遣いで俺を見てくる。

なんだか照れているみたいだな。

「待ち合わせ」っていうのが、何かくすぐったいのかも。


俺もですよ、イノリさん!

男子高校生には、『待ち合わせ』って言葉で、2回分はできちゃいますからね!

『男子の半分は、妄想でできてます』って、どっかの製薬会社も言ってますから!

でも、そんな事は少しも感じさせずに、俺はクールに…


「もちろんOK…楽しみにしてるよ」


「うん…私も!

 えっと、ログアウトは街中だったらどこでも出来るみたいだから、ここでお別れしよっか?」


「そうだな、今日はありがとう、イノリ」


「こちらこそ…それに、助けてくれて、ありがとね、イツキ」


「いいって…じゃあ土曜の10時に」


「うん、じゃあね」


イノリは手を振りながら、小さな光の粒になって消えていった。


俺もパラメータを開き、ログアウトを指定した。

スーッと空に登る感覚の後に、自分が横になっている感覚が戻ってきた。


俺は、ブレインリンクを外して、ベッドの枕に顔をうずめる。


「オッッシャーー!!」


いきなり可愛い子と、パーティーが組めました!

しかも、女子高生との話です!

待ち合わせもして、ちょっと照れちゃってました!

イ・ノ・リ!

イ・ノ・リ!


イノリを応援した後、俺は時計を見る。

今の時間は、7時4分か…そろそろ、夕飯の時間だと母さんが呼びに来るだろう…


いや……10分くらいは、時間あるかな……


俺は部屋のドアの内鍵を、そっとかけた。


俺は少し興奮しているようだ…仕方ない。

数分だけバーサーカーになろう。

でないと、舌に血がかよわずに、下に血がたまったままで、

ご飯の味がわからないからな。


£   £   £   £   £


次の日の学校。

昼休み。


いつものように、机につっぷして昼寝をしていると、


「イツキー、寝てるの?」


蘭子の声だ。

ああ、俺は寝てる。

見たらわかるだろ?

なのになぜ聞く?…蘭子よ。


あれか?寝てるのは俺の魂だけで、体は起きてフリーズでもしてるっていうのか?

いや、だとしたら、「イツキ、どうしたの?」となるはずだ。

では、なぜ?

なぜ、こいつは寝ている相手に向かって、寝ているのか確認をするんだ?


どうする?…起きて問い詰めてみるか?

そうすると、こいつが言うことは「いや…寝てるのかと思って…」くらいのものだ。

予想はついてる。


そうだ、分かってるよ…蘭子。

理由なんかないんだろ。

俺が寝ていようが、蘭子は自分が話しかけたい時は、一度声をかけて起こすんだ。

蘭子とは、そういう奴であり、また女とはそんなものだ。

もちろん、女全員がそうだという乱暴な議論をするつもりはない。

ただ、そういう……


ちょっと待て…今はやめとこう。


「……なんだよ、蘭子?」


しかたなく、起きて机に肘をつく。


「なんだ、起きてたんだ」


「お前が起こしたんだろ?」


「へへへ…あのさ、イツキは部活とか入んないの?」


蘭子は、今は教室にいないカズチカの席に座って、おれの机に両肘をつき、

小さな顔を支える。

少しつり気味の大きな目が、楽しそうに光ってる。


「部活?入らないよ…俺がゲーム好きなの知ってるだろ?

 部活なんて入ったらゲームする時間がなくなるじゃん」


「知ってるけど、せっかく高校性になったんだから、青春とかした方が良くない?」


ふっ…安易だな、蘭子。

お前らしいよ。


部活=青春

その方程式…いや、方程式にもなっていない、二段階の思考。

あれと一緒だな。


自分の子供を、グローバルに活躍できる子供にしたい。

だから、英語を学ばせます。


いや、英語ができたって、グローバルな人にはなれませんから。

じゃあ、英語が母国語の国の人は、全員グローバルな人なんですか?

違いますよ。

自分の国の言葉や文化を、しっかりと身につけた人でなければ、他国の人は興味を持ちません。

だから、まずは国語なんですよ。


蘭子。


「国語……いや、蘭子………部活に入れば、青春が出来るわけじゃないだろ?」


「国語??……いや、そうじゃないけど、やっぱり青春って言ったら、部活でしょ?」


「知らん……っつーか、お前がどこかの部活に入りたいんだろ?」


「イエス!アイドゥ!」


「入りゃいいじゃん」


「ん〜もう……だって一人で行くのは恥ずいんだもん!色々巡りたいから…イツキも付き合ってよ」


「はぁ〜?…そんなのお祭り男のカズチカに頼めよ」


「ヤダ!あいつは調子がいいから、一つ目の部活で入ります!って言っちゃうでしょ?」


「ああ、そうなりそうだ。蘭子でも先の事を予想できるんだな」


「やな感じ〜……ねぇ、いいじゃんイツキ〜」


蘭子は上目遣いで、俺を下から覗き込む。

そのせいで、蘭子の胸元が開き、夢の谷間と桃色の魔法の布が目に飛び込んできた。


ヤバい!目線が動いたのを見られただろうか?

俺は体を机から少し離す。


蘭子を見ると、少し不思議そうな顔をしている。

どうやら、バレなかったようだ。


俺はまだ、エロに対する良い対処法を会得していない。

だから、こういう事はできるだけ、避けるしかない状態だ。

クールでいられないのだ。

キャラが定まっていない。


しかし、貰ったものには、お返しをしなきゃな。


仕方ない……


「わかったよ、付き合ってやる」


「やった!」


蘭子は、手を胸の前で小さく叩いた。


「でも、付き合うだけだ。俺は入ったりしないからな」


「まぁ、それは行ってから考えよ?

 じゃ、今日の放課後ね」


そう言って、席を立ち上がって振り向いた蘭子の、スカートの裾が、ゆっくりと回転しながら上昇していく。

ああ…これは、きっと神様がいい事をしたと、微笑んでくれているのだろう。

俺は、この瞬間を何度も再生できるように、全ての感覚を視覚に集中させる。


……桃色……


俺は、今夜も立派なバーサーカーになれる。



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