城2
路地裏を出て、明るい場所で俺達は話し合った。
「さっき、イノリを捕まえてた奴らが、初心者は王様のところに行けって、
言ってたんだけど、おそらく城に行くといいじゃないかな?」
「そうだね、ゲームの王道だもんね、行ってみようよ」
俺達は、街の中心に見えている城に向かう事にした。
石畳の上を歩いていると、海外にいるような気持ちになる。
出会ったばかりの女の子と並んで綺麗な街を歩くなんて、
なんか、俺、Lvが上がった気がします!
でも、意識せずに、自然に歩こう。
空も見よう。
「イツキって、ゲームはよくするの?」
「ああ、大好きだよ…おおげさじゃなくて、ゲームの為に今は生きてるかな」
「そうなんだ!私もゲーム大好き!ゲームって、リアルと違って夢があるよね!
なんか、友達とかにゲームやってるって言うと、オタクだーとか、暗いとか言われるけど、
なんなんだろうね?現実より、絶対こっちの方が面白いのに…」
「ま、いいんじゃない?わからない人は、気にしないでさ…俺達が楽しめればいいよ」
俺は、すこぶる楽しいっす!
「そうだね…せっかく、夢の「ギル2」に参加できたんだもん!楽しまなきゃバチが当たるよね!」
「ああ」
良かった…イノリは結構、普通のやつみたいだ、素直そうだし。
VRMMOって変な奴も多いから、ソロプレーの方が性に合ってたけど、
こんな感じの奴となら、一緒にいても害は少なそうだな。
さっきの男達みたいに、マナーの悪いのもいるって事は、やっぱ厳しい審査も万能じゃないって事だろうし。
システムに慣れるまでは、複数でプレイした方が、レベル上げも楽だし、情報も入って来そうだしな。
ちょっと持ちかけてみるか?
「イノリ…」
「なに?」
「良かったらさ、しばらく一緒にプレイしないか?」
「一緒に?」
「ああ…さっきの奴らに、イノリは一人でプレイする、って言ってたのを聞いたんだけどさ、俺らまだ、Lv1だろ?
もう少し成長するまでは、二人とかの方が効率いいかなって…もちろん、断ってくれてもいいけど、どうか な?」
イノリは、手をアゴの下に当てて少し考えている。
言うの早すぎたかな?
でも、こういうのは、思った時に言っておかないと、なんか色々考え過ぎて、言えなくなっちゃうんだよな。
特に俺なんか、考え過ぎてしまうタイプだからな。
まぁ…ダメモトだし、断られたっていいんだけど。
別に告白してるわけじゃないんだから、全然いいんだけど。
さっき会ったばっかりで、急に好きになるワケないんだから、別にいいんだけど。
見た感じは可愛いし、今の所は女の子っぽいけど、ネカマの可能性もあるから、断られたって別にいいんだけど。
キャラメイクで、髪がピンクっていうのは、少しなんで?って思うけど、まぁ似合って……
「いいよ!」
「え?…マジで?」
「うん…最初は私もソロプレイ派だから、一人でって思ってたけど、イツキみたいな感じの人となら、うまくやれるかも」
「良かった…断られたら、どうしようって思ってたよ…ハハ」
「うん、ごめんね!私ちょっと考え過ぎなところあるから」
「いや、俺も」
「クスッ」
イノリが笑ってる。
ゲームだってわかってるけど、なんか嬉しくなるな。
現実でも、俺がこのくらい自然に自分を出せたら、もっと楽になるのかな?
っつっても、実際はそうもいかないもんなぁ…
なんでだろ……って、イカンイカン。
また余計な事を考えてる。
素直に楽しもうっと!
俺達は城について、中に入ってしばらく歩き、玉座の間についた。
大きな扉を開けると、王様の姿をした人がパソコンでなんかしてる。
「イツキ…あの人かな?」
「た…ぶんな…なんかイメージと会ってないけど」
入り口で、コソコソ話している俺達に気づいて、王様が大声を出す。
「あ…初めての方ですよね?……どうぞこちらへ!」
おお…王様っぽさナシか。
俺達は言われるまま王様の前に行った。
近づくと、王様は明らかなつけ髭をした、女の人だ。
なんだ?
「どーも、ようこそ「ギルティ&ギルド」の世界へ、わしが王様じゃ…お前達は勇者としてこれか…ぶん…あれ?…え〜と…」
王様は、画面を見ながら棒読みで言い、おそらくセリフを見失ったんだろう。
なんだよ、運営はどうなってるんだよ……ったく…
「あの…別にいいっすよ?俺達が今から何をすればいいかだけ、教えてもらえれば…」
「……そう?済みませんね!ちょっと本職の人が急に病欠になっちゃって、あたし初めてこれやらされたんですよ?
ひどいでしょ?ってのは、関係ないですね…汗汗…」
汗って…
「えっと、なんか二人とも賢そうなんで、細かい設定は、はしょりますね!
あの……察してください!
え〜私は、いつもは事務職してます、レイナって言います。
知ってると思いますけど、二人にはこれから、罪人をやっつけてもらいます。
もし死んだら、月に3回までは生き返れます。
4回目死ぬと、来月まで復活できませんので、気をつけてください。
場所は、街の教会に行きますので、よろしく。
あと、街にある酒場の中にギルドがありますから、仲間とか情報はそこで、どーぞ。
あと……なんか、あります?」
なんかありますって……てきとーだな、この人。
それに、喋ってるとヒゲが取れるみたいで、何度も付け直してる。
世界観…どうした…
イノリが、質問をする。
「あの、経験値とかお金とかは、どうなるんですか?」
「ああ…ステータスは、見ました?」
「ええ」
「同じです。おかねーって考えてもらえれば、出ますから」
「ああ…そうなんですね」
「物を買いたい時も、お店の人に買いたいって思えば、払えますから」
「はぁ…」
「そして、今二人には3万ルギあげましたので、これで初めの装備を揃えてください……
あっ、あとコレは重要、ここは『ギルティア』って言う街なんですが、ここには罪人はいなくって、
罪人のいる『シュラ』までは、船で行きます。
船は、二時間に一回港から出てますから、時間配分を間違えないように。
あと、船も直接『シュラ』には着岸しません。
罪人が船に乗ってくると、危険ですからね。
皆さんは、船で近くまで行って、空を飛んでから『シュラ』に行ってください」
「飛ぶ!?」
俺達は驚いた。
「ええ、魔法っていう設定で飛べるようになってます。
ただ、これは行き帰り用になりますので、それ以外では使えません」
イノリが目を輝かせてる。
「魔法で飛べるんだって!イツキ!すごくない!?」
「すげーな…それだけでも、かなり価値ありそうだよね」
「え〜……そんなとこかな?
あの、もしなんかわかんなければ、いつでも来てください。
もうすぐ、シフトで次の王様が来るので、そっちの方が詳しいと思いますよ」
「あ、はい…イノリなんか聞いとく事ない?」
「うん、とりあえずは」
このレイナに聞いても、仕方なさそうだしな、また気になれば今度来よう。
「レイナさん、ありがとうございました」
「あ、すいませんね…なんか適当で…。
お詫びと言ってはなんですが、二人とも千ルギだけ、サービスしときますね」
「ああ、どーも、では」
俺達は、城をあとにする。