休みたくなる木曜日 ver1.0 ~ Re Member~
最初、というものはいつも誰にでも重要だ。恋人、自転車、アルコール。二番目や三番目を忘れる人は珍しくもないが、初めの一歩は覚えている。初心忘れるべからずというが、忘れがたき物なのだ。
ユグドラシル騎士団の初めは、二人だった。まぁギルドというものはソロという例外を除けば複数人から始めるのが妥当だが、三人でも四人でもなく二人だった。ちなみに結成したのはサービスイン初日。別のゲームから移住してきた俺とマリナが、勢いで作ったのが始まりだ。
そして2番目は楓さん、オラジオときゅらさんが3番目、そぼろ丸が4番目。それから新しいメンバーがユグドラシル騎士団の門を叩く事はなく、気づけば廃人ギルドにまで成っていた。
で、その門戸を街のど真ん中で適当な立て札を持って開いてみたのだが。
「だれも……来ない、な……」
立て札に書いてある文字はこうだ。
『みなさんもトップギルドのユグドラシル騎士団に入りませんか!? 今ならビール飲み放題!』
「来ない理由はわからない」
「それはだな、可愛くない方の団長よ」
いつのまにか俺の足元で不良みたいに座ってヤンキーみたいに葉巻を吸っているマリナが言葉を続ける。
「全裸の男が立て札を持っているからだ」
そうだな。
「全裸の男がだな……」
「あのさあ!? これこういう役はマリナか楓さんのほうが良いって俺言ったよね!?」
「いやだって今日日差し強いし……それにギルドのメンバー集めるのは団長のしごとだし……」
ため息が出る。俺達は戦力増強のためにメンバー補充は満場一致で決まったと言うのに、その大役に大抜擢されたのが俺。俺だけ。もっと正確に言うなら全裸アフログラサンの俺。
「やる気あるの君ら? オラジオに帰ってきてもらうために戦力が必要なんだよ?」
「まぁそうなんだけどさぁ、実際気が乗らないんだよなぁ……」
「新メンバーが? それとも帰ってきてもらうのが?」
「個人的には両方だな、両方」
頭を掻きながらひねり出されたマリナの回答が、俺には少し以外だった。それも、後者の方。
「なんつーかほら……別にいいだろ? 戻ってきたくないならないでさ。そりゃきゅらさんの事情はわかるけど」
「まぁね」
「それにほら、今更新しいメンツって言われてもなぁ……まぁ可愛い方の団長みたいな感じだったらいいんだが、こう面倒くさいのとか変なのだったら嫌じゃん」
「まあ、それはほら俺の人を見る目を信用してほしいかな」
「グラサン越しの?」
「度が入ってない、ね」
「そうだな、その辺は信用しておくよ」
ふとサングラス越しにマリナを伺えば、半笑いでタバコを吹かしていた。俺としては信用とか信頼よりこの立て札を持つ役を変わってくれる方が助かるのだが。
「オーッホッッホッホッホ! なにやらお困りのようねユグドラシル騎士団のだ、ん、ちょ、う?」
耳をつんざくような高笑い。いつのまにか真正面には、破廉恥という言葉が似合うアラフォー埼玉県民おばさんの姿があった。
名前なんだっけ。
「あー……」
マリナもよく思い出せないのか、ぼんやりと口から煙を吐き出している。ただ、こいつの口から出てきたのは、結局彼女の名前ではなく。
「……チェンジ!」
誰もが納得の一言だった。