気が乗らない水曜日 ver1.5 ~ Next Stage~
酔っぱらい二匹をどのようにして家に持って帰るかという無理難題は、そのへんに落ちていた段ボール的な物でソリ的なものを作ることで解決した。まぁ店の裏を全裸のアフロがうろうろしながら何か使えそうなものを物色するなどという最悪の光景ではあったが、それぐらいは許されていいだろう。
んで、栄えある我がギルドルームの状況はというと。
「……酒くせぇ」
鼻を突くアルコールの匂いに、もはや壁にこびりついているんじゃないかというヤニ。これにあとは排泄物の匂いでも加われば、もはやこの世のものではトイレしか比較対象が無くなろう。
ため息をつきながら、なんとか人が座れそうな場所を発見する。きゅらさんの前に大量の酒瓶が転がっているあたり、全員やけ酒に付き合わされたのだろう。いなくて良かったと心から思うし、同時にその原因を作ったラスボスと酒を飲んでいたことに罪悪感すら感じている。
「まぁ、今日ぐらいはいいか」
そう言って俺は空いていた酒瓶を手にとって。
「良いわけ無いだろこの無能」
フレイヤに思い切り脳天を酒瓶でぶっ叩かれた。
「ですよねっ!?」
アフロはここぞとばかりに衝撃を吸収せず、見事に瓶の破片が頭に刺さる。むしろ割れたガラス片がアフロに絡まり、単純に取れない。俺は頭の重量が5ぐらい上がった。気がした。
「まったく貴様という人間は酒を飲む以外しか能がないのか? その上酔っ払って全裸になるなど……まったく見苦しい糞人間だな」
「いやまてフレイヤ……お前は誤解をしている」
「ほうどの辺がだ何が違う? それとも我の完璧な理論に反論するほどの脳みそが自分にあると証明したいのか?」
「違う、俺が訂正したいのはそんな事じゃない」
そう、俺が酒を飲むしか能がない人間だということは否定しない。だが俺が否定したいのはそういうことじゃなく。
「俺は初めから全裸だ」
ほんの少しだけ、時間が止まってくれたような気がした。
そうだよねそれもちょっと違うんじゃないかなって、自分でも思ったんだ。
「あぁー……っ」
そうだったこいつ馬鹿だったんだな。そんな顔と呻き声を漏らして俺を睨みつけるフレイヤ。
「まぁ、それはいいか……重要じゃないし」
「そうだな……俺は重要だとは思うけどな」
不意に目頭が熱くなる。あれ可笑しいな、これって見解の相違ってやつなのかな。だってさ俺、服着てないんだよ。それが理由で警察にまで連れて行かれるのに重要じゃないんだこの人団長なのに全然団員の事考えてくれないじゃん。やっぱり俺しかいないんだな、団長ってさ。
「もっと重要な事があるのを忘れたのか貴様は」
「ああ、ラスボスだったらさっき街であったぞ」
「なんだと!? ……いや、何も言わなくていい。全くアレは……本当にどうしようもない」
ラスボスをアレ呼ばわりするのは気にならないわけじゃないが、その態度だ。爪を噛むなんて子供らしい仕草が、言葉以上に引っかかる。知り合いなんだろう、なんて聞ければ少しは楽になるのだろうが、絶対に答えてくれるはずはない。
「で、結局俺達はどうすりゃいいんだよこれから。酒を飲むしか能がないと言ったが、酒を飲むしかやることがないのも事実だぞ」
空いたグラスに酒をついで、そんな風に嘯く。ついでに言葉通りワイングラスに名一杯白ワインを注いで見る。
「そう思うのは貴様が低能だからだ。いいか、我々には絶対的に足りないものがある」
そういやって白ワインを奪い取り、一気に飲み干すフレイヤ。なんだよ飲むんじゃないか結局。
「戦力だ。オラジオが抜けた今、元々少ない人数で回していた我々のギルドは絶望的だ」
「まぁ、な」
否定できない事実を突きつけられる。精神的なものは棚に上げたって、何をするにしてもこの人数じゃなにもできない。
「そういうわけで」
「ああ」
こればっかりは仕方ない。無闇矢鱈に人を増やしたくない方針ではあるが、やることはやらねばならない。
「やるぞロキ……オーディションを!」
「ああ、オーディションね……!?」
なんかこう別の言い方があるんじゃないかなって思ったけど、やめた。酒のせいで思い出せないだろう。
それから水着審査でポロリとかあるのかなって思ったけど、やめた。だって俺は水着すら着れなくて毎日ポロリで困っているのだから。