気が乗らない水曜日 ver1.4 ~ Beer Or Wine~
警察からは割とすぐ解放された。というか自警団的なものだったので国家権力じゃなかった。なんだよもうと紛らわしい事しやがってと拗ねながら通りを歩いていると、テラス席で喚きながら酒を飲んでいる一団を発見する。昼間から良いご身分だなと横目で睨んでいると。
「あ、団長おっそーい。もうけっこう開けちゃってんだけど」
マリナだった。すっかり耳まで赤くして、背もたれに体を預けている。ついでに足元には大量のビールとワインの空き瓶。ちょうど四人がけの席で、横には楓さん、迎えには。
「……なんで?」
思わず声が漏れる。いくらなんでもそいつと酒を飲むというのは、ちょっと違うんじゃないかと首を捻る。
「お、噂をすれば団長くんじゃないの。ビール? ワイン?」
「その二択ならビールだけどさ……」
「あ、お姉さんすいません、白ワインとビール3つにたこわさ二人前」
「はい、かしこまりました」
楓さんが注文をしてしまったので、もう俺の選択肢は座るしか無かった。こいつがラスボス、なんて聞かされていた奴が、俺の斜め四十五度向かいに座っている。ついでにビールをカラにしていて、新しいジョッキを受け取っている。
――このままこいつを殺してしまえば、全て解決するんじゃないか?
そんな思考が頭をよぎり、もう一度ラスボスの姿を見る。例えばこう顔だけ牛だったり、全体的に蝿っぽかったら、俺は迷わずこいつを敵だと認識して倒せるだろう。だがこいつがあまりにも普通の女性のようにしているものだから、そんな認識を持てないでいた。
「おやおや団長くん、人の顔に見とれちゃって……私みたいのがタイプみたいだったかな?」
俺はため息をつきながら、店員からビールを受け取る。そのまま口に運んでみれば、またため息が漏れてしまった。
「それで? なんで三人で飲んでたんだ?」
まぁ今は四人だけどさ。
「ほら、意気投合ってやつ? あるじゃん団長、そういうの」
「そういうの、ねぇ」
たこわさを箸でつつきながら、横目でやっぱりラスボスの顔を見る。はっきり言って、この脳天気な団員二人がその辺で酒を飲んでいることについてはどうだって良い。というか酒が飲みたかった以上の理由はおそらくない。
だからこの宴会の主催者はどう考えたってこのラスボスなのだが。
「やっぱり団長くん、こっち見てるね」
「ええ……そりゃまぁ、うちの可愛い方の団長からはラスボスだと仰せつかってますので」
「ああ、あの子のほうがタイプとは……やっぱりオタクって、ちょっとマニアックよね」
よね、って何か雰囲気違うなこの人。酒のせいかな。
「で、目的は?」
単刀直入に聞いてみる。下手な駆け引きで時間を先延ばしにするのは、ビールを無駄にぬるくするだけのように思えたから。
「そりゃ会話したかったからだよ。飲み会ってそういうもんでしょ」
いや、そういうもんだけどさ。
「オラジオちゃんのこと?」
流石に他の二人も、一瞬だけはその手が止まった。
「別に監禁したわけじゃないさ。彼女だって帰ろうと思えば、すぐに帰れる」
「その保証は?」
「無いよ」
そう言って彼女は立ち上がりビールを飲み干す。それから伝票をつまみとって、そのまま白衣の胸ポケットに突っ込む。
「だからせめて、ここの支払ぐらいはもとうか」
「……そりゃどうも」
そう言われてしまった以上、言うべき事は無くなってしまった。疑問は何一つ解決しなかったが、飲み屋では支払った人間が一番偉いのだから。
「まぁでも、君たちと話をしたかったてのは本当さ。団長くんとはもう少し会話したかったけど仕方ない、あの子に見つかったら大目玉だろうからね」
そんな彼女は、俺達は手も振らずに見送った。まぁ目下の悩みがあるとすれば。
「あー……吐きそ」
この出来上がった二人の団員を、どうやって家まで持って帰るかという一点に尽きるのであった。