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気が乗らない水曜日 ver1.3 ~ Double Sun Shine~

 脇道に俺は逸れる。一瞬だけ二人の顔がこっちを向いた気がしたが、手を振り返す余裕はない。必要な時間が、もう無いからだ。


 計算する。


 ラスボスの移動速度を俺達の1.2倍と仮定する。クールタイムはこの際考えない。そもそも効果時間が異常なのだから、30秒って体感も怪しい。


 何秒後だ? 右、左、左、右。路地裏を駆け抜けながら、思い描いた地図通りの道を行く。


 ラスボスと二人が走っている道は、言わばこの街の大通り。石造りの城下町の外周となる、楕円状の環状線。フィールドへの出口は北、東、西の3箇所。南はない、ただの行き止まりというか未実装。それを反時計回りに、西から東へ移動中だ。


 目的地は設定済みだ。早い話が円の中心線を水平に駆け抜けていく。ただし立ち並ぶ雑多な建物の数々のせいで、ジグザグに走る必要があるのだが。途中躓き転んでも、前に転がりそのまま駆け出す。時間がないのはわかっている。先回りしたところで、猶予はせいぜい2,3秒。それにこっちは乗り越えなきゃいけない壁が文字通りある。


 息を切らし全身から汗を吹き出しながらも、東側の見張り塔へと到着する。中に入って階段を駆け上る時間など、もうないから。


「うおりゃああああああああああああああああああああっ!」


 跳ぶしか無かった。通常だったらあり得ないが、大丈夫これはゲームだ。2,3メートルほど跳躍し、俺は壁に張り付いた。もちろん外壁の石の出っ張りになんとか指の力でへばりついているのだが。


「あ、変態が塔に……!」


 早速通行人に見つかった。


 そりゃあ、そうだろう。俺はこの世界を救う……救う? ため、ラスボスを捕まえようと必死に上へ上へと手を伸ばしているというのに、通行人にしてみれば下手をしなくたって俺は塔をよじ登る全裸のアフロ。もっと穿った味方をすればきっと股間を塔に押し付けてるように見えるに違いない。


「ってやば、もう追いついてきてるしっ!」


 ちらっと横目で通路を見れば、大通りを追いかけっこする三人の姿が見えた。無い力を振り絞り全力で塔をよじ登る。見張りのNPCがいたが、のんきに挨拶と天気の話をされた。


 ただ、天気が良いのは本当だった。ここから見える青い空は、いつもより広く、遠くへ続いていた。


「いい風だな……」


 頬に当たる冷たい風が心地良い。このままビールでもあればもっと心地良のだが、そんな余裕はどこにもなく。


 目で追うのは、だんだんと近づいていく3人。戦闘はもちろんラスボス、続いてマリナと楓さん。腰を深くおろし、目標との距離を測る。


 深く息を吐く。飛び降り自殺みたいであまり気分はよろしくないが、やると決めたのは自分自身。


「……はああっ!」


 空に輝く太陽を背に、黄金の太陽が宙を舞う。二つの太陽が重なる今、真の必殺技が解放される――。


「ダブルゥウウッ! サアアアンッ! シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイン!」


 説明しよう、ダブルサンシャインとは。


 二つの太陽が重なった時、宇宙に輝く惑星が十字に重なるグランドクロ


「変態だっ! 変態がとんでるぞおっ!」


 スにも似た力が降り注ぎいま地上を跋扈する悪鬼羅


「きゃああっ! だれか警察呼んで! 警察いないのこの世界には!」


 刹に天誅を加えるごとく、降り注ぐのは黄金の力。駆け抜けろ、魂。変


「変態がでたぞおおおおおおおおっ!」


 わるな、悪を憎む心。そう、それは多分きっと――。


 ただのボディプレスだった。ラスボスに向けて一直線、上からの奇襲攻撃は見事。


「あぶなっ!?」


 見事かわされた。俺はただ、地面にめり込んだだけ。全身が痛い。そりゃそうだよ塔の上から石畳にフルダイブなんて、痛くないわけないじゃないか。


 全身をどうしようもない敗北感が襲う。いやむしろ負けたのだろう、向こうは尻もちをついただけだというのに、こっちは全身ボロボロだ。俺は負けた、それはわかった。


 けど、俺達は負けちゃいなかった。


「確保ーーーーーーーーっ!」


 マリナと楓さんの二人が、覆いかぶさるようにしてラスボスに飛びついた。彼女は一瞬しまったって顔をしたが、すぐに悟ったような笑顔をして両手を上げて降参の意思表示をした。


「作戦成功……かな」


 俺は起き上がり、ほんの少しだけ笑ってみる。本当は俺が格好良く上から押さえつける予定だったけど、そんなことは些細なこと。


 さて、これから何を聞こうか。堂々巡りの思考が頭を駆け巡るけど。そんな俺の肩に、誰かが優しく手をおいた。それから俺の手を後ろに回して。


「変質者確保しました。これより署まで連行します」


 おまわりさんが俺の手首に、手錠をかけてくれました。



 どうやら話をしなきゃならないのは、俺の方だったらしい。

 

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