気が乗らない水曜日 ver1.2 ~ When The Fools Go Marchin' In~
一人の歩幅に合わせて、三人の歩幅が決まる。彼女が止まれば俺達は足を止め、進めば迷うこと無く進む。付かず離れず、けれど追いつけそうな距離を俺達は保っていく。
「……それで、どうすんだよ団長」
「あ、ほら進みましたよ彼女」
どうする? そりゃとっ捕まえてオラジオの居場所を聞いて取り返すか、この場で襲って亡き者にできれば万々歳のハッピーエンド。
「そうだなぁ……」
なんだけど、どうしても思案してしまう。彼女が立ち止まるから、俺達も立ち止まる。物珍しそうに商品を覗いてみるから、ついその辺にあるものを手にとるものの、視線は彼女から逸らさない。
本当にごく普通の人だった。商品に一々驚いてみたり、店の人と談笑したり。それから少し値切りをしてから、買ったものと言えばただの果物。そのまま休日の散歩でもするかの如く、あるき続けると思ったら。
立ち止まる。だから立ち止まる。早足。当然の用に早足。後ろを振り向いたから、俺達も後ろを振り向く。
「ところで団長の格好……このゲームで一番目立つんじゃねぇの?」
「あ」
振り向けばもう遅い、小さくなる彼女の姿。
「じゃんけんの次は……鬼ごっこですか」
ため息混じりの楓さんの声が、よーいドンの合図だった。人混みをかき分けながら、俺達は全速力で走り始める。
「あっ……変態だ!」
そんな町の人の声を、まぁそりゃ全裸で街を走る人間がいればそうなのだが、活気あふれる露店の奥に置き去りにしながら。
走る、奔る、疾走る? ともかく俺達ははためく白衣をめがけて、全速力で走っている。だがその差は縮まらない。
地の利で言えば多分俺達があるのだろう。この街のマップなんて目を瞑っていても紙に書けるぐらいだ。どこを通れば先回りで、地味にアウトコースの方が直線距離で短いこと、怪しい鉢の上も歩けることなど。
きっと自分の生まれ故郷よりこの場所に詳しいだろう。だが、追いつけない。俺達が無理してショートカットをしても、白衣の距離は縮まらない。
その理由はと言えば。
「なんかあの人……無駄にバフかかってないですか!?」
息切れしながら漏らした楓さんの言葉に、俺は無言で頷いた。移動速度20%アップとか、そういう系のバフ。ということは。
「なんだあのラスボス、ああ見えて盗賊かなんかか!?」
マリナが叫ぶ。多分それが正解で、奴の職業は多分盗賊。この際盗賊なんて物が職業として成立して倫理的に問題がないのかという点は棚に上げるとして、頭がよぎるのは別の問題。
「いやでもあれ……微妙スキルだろ!?」
そう、移動速度アップのスキルだが、はっきりいって使えないの一言に過ぎる。そりゃこうやって追いかけっこするには最強のスキルなのだが、問題はその効果時間とクールタイム。
効果時間30秒、クールタイム30秒。ボスに駆け寄ったりするには便利なのだが、あくまでパーティの連携がメインのこのゲームじゃ単独行動されても困るだけ。ほぼ移動するだけのタイムアタックじゃ使うが、最近のレイドじゃ役に立たない。
なんだけどやっぱり問題はもう一つ。
「ていうか効果時間長すぎますよね!」
そう、長過ぎる。多分効果時間が60秒、クールタイムが30秒ぐらい。追いかけてみての体感は多分それぐらいだが間違いない。
「でもそれわかったところで、追いつけない事に変わりないよな!」
マリナの言葉はそのとおりである。わかりきったことと言えばあいつが俺達よりも足が早くて、このままじゃ追いつけないということ。
「で、どうするよ団長! このままだと見失いましたって、怒れるきゅらさんと可愛い方の団長に報告しなきゃいけないんだけど!?」
可愛いと言われて嬉しいんだかムカつくんだかわからなかったが、マリナの言葉だけは真実だ。せめてなにか手がかりぐらい、掴まなくてどうしろってんだ。
だから頭を働かせる。体が追いつけないっていうなら、こっちで競うしか道はない。
「白衣って、なんか頭良さそうに見えるけれどさ」
「あ!? 団長なんか言った!?」
軽く手を振って、なんでもないって合図をする。勝ってみせるさ、数学や物理じゃ無理だろうけど。
OZOなら、負けはしないさ。