燃え上がれ火曜日 ver1.4 ~Common Place~
作戦など、もう無かった。
正解など知らない、攻略法など見当もつかない。だからもう手探りで攻めるしかないのだが、ある意味でそれは当然のことだった。
目の前の怪物が次に何をしてくるかなんて、俺達は誰も知らない。だがそれは、どんなボスとの戦いでも当然のことだった。
だから俺達は、知っている動きを繰り返す。例えば俺は敵をひきつけ、楓さんは回復させ、きゅらさんは銃を打つ。
不思議な感覚だった。誰も喋りはしない、ただ無言で繰り返す。体は勝手に動いてくれる。ダメージを受け痛みを体が襲いはするが、誰も口を開かない。
長期戦だったはずだ。時間の感覚など無い、どちらかが倒れるまでただ延々と繰り返す。壊れた機械のように、飽きもせず続けていく。それはきっと、普通の光景。
オンラインゲームにおける、ありふれた日常の景色。
終わってみれば、きっとなんてことは無かったのだろう。こっちに来てから初めてのまともな戦闘だっと言うのに、俺達は違和感なく戦っていた。崩れ去る怪物に、膝をつく俺達。口から漏らした感想は。
「やっと……終わった」
どうしようもない本心だった。
「しっかし、なんだったんだよアレは」
マリナのまっとうな質問に、俺達は首をかしげる事しかできなかった。だから必然的に俺達の目は、知ってそうな人間へと向いてしまう。俺達をこんな戦闘に巻き込んだ張本人の方へと。
「む、なんだその目は。安心しろオラジオは多分先に神殿に帰ってるから、今頃我らの家を掃除でもしてくれているだろう」
いやそこじゃない。それは確かに気になるところではあるんだが、聞きたいのはそこじゃない。
「む、なんだその目は。仲間の心配以上に大事なことがあるのか」
「いや、それはないのでござるが……その、拙者達は一体何と戦わされてたのかなーと……」
恐る恐る手を挙げるそぼろ丸に、フレイヤは眉をしかめる。それから少し考えて、ため息をつきはじめた。
「わからん」
「いや、わからんってのは」
「本当に知らんのだ、あれが何だったかなんてな。一つだけ言えることは、既存のモンスターじゃないということぐらいだ」
「それは俺達だって知ってるよ」
「だろうな。だから……わからんのだ」
フレイヤとの会話の果てに、今度は俺がため息をつく番だった。話が通じないとは多分この事なんだろう。だから今度は絶対に答えられる質問をすることにした。
「それで、俺達は何でこんなところに連れて行かれたんだ?」
そうすればフレイヤは、まっすぐと指を突き出した。それは俺の背中を超えて、新しく開かれた道を指す。
「あそこだ。あの先に用がある」
「んじゃ……行くか」
銃を担ぎ直して、きゅらさんがそう言った。結局そうするしか無い事に気づいた俺達は、ゆっくりと歩き出す。
「帰ってビール飲みてぇなあ……」
マリナがこぼした一言に、心の底から無言で頷きながら。