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燃え上がれ火曜日 ver1.2 ~ Cardinal Rule~

 全然楽勝じゃなかった。


「あのさぁ可愛い方の団長、ボスラッシュっていったよね」

「そうだ」

「ここ初心者向けのダンジョンだよね?」

「そうだな」

「でもこいつらが三体同時って一言も言ってないよね!?」

「むっ、我はちゃんと答えたぞ……詳しいことはわからないと」

「答えになってないんですけどぉ!?」

「いいから全員……散開!」


 マリナによるフレイヤへの糾弾を遮り、俺たちは四散する。こいつら、というのはカオスキマイラ、イービルサイクロプス、ブルーローズだ。こいつらはそれぞれ、自分用のダンジョンを持っている。よくある道中倒してから、さあボスだぞっていう感じのボス。


「やっべ上からブレスくるしっ! 逃げるぞぜんいんんんんん!」


 マリナの声に従って、全員一目散に逃げる。炎の主はみんな大嫌いカオスキマイラ。


 こいつが一番ヤバい。ゾウよりでかいライオンにいろんな生物を10体ぐらい生やしたような化け物だが、陸海空一人でこなせるすごいやつ。資格なし。倒し方は混乱させ共食いをさせている間に一斉に殴る。なお混乱が再びかかるまでの時間は300秒。それまでは逃げ切ろというクソボス。レベル80。


「あ、団長はやくヘイト取ってください! 先生こっちきてますから!」


 楓さんの大声に向けて走り出す俺。そして炎を避けながら先生の脛に一撃を繰り返せば、あの優しい瞳で見つめ返してくれた。


 イービルサイクロプスが救いになる日が来ると始めた頃の俺に教えてやりたい。通称初心者殺しのサイクロプス先生。このゲームにおけるロールプレイングとはどういうことか教えてくれるまさに優しいレイドボス。防御力の低い仲間に攻撃がいかないようにする、いわゆるヘイト管理さえできればそんなに難しくはない。レベル10、のハズなんだけどいつかの3月の卒業式イベント用のレベル75だこれ。特徴は巨人こと先生の持っているこん棒が釘バットのお礼参り仕様。教師やめちまえ。


「きゅらどのおおおおおっ! 矢でも鉄砲でもいいからこいつら一掃してほしいでござるううううっ!」


 そぼろ丸が救援を求めているのは、根が足になってうねうねしている人間大のハエトリソウの大群。こいつがブルーローズではなく、そいつは宙に浮いて笑ってるあの個。


 ブルーローズは花の妖精で見た目は人間サイズで可愛い。エロいイラストも見たことある。あるんだけど、『ブルーローズのエロ絵で興奮するのは仕様変更前の悪魔を知らない奴だけ』という名言がある。一言でいえばバグっていた。召喚する食虫植物の数が多すぎて、雑魚を蹴散らしてたら全滅してましたという不具合。なおダメージありの広範囲花粉で火傷付与の鬼畜仕様。一か月で三分の一になったがうんこれあれだわ修正前のだわ。出してる量やべぇ。レベル78。


「それで団長、どっから手つける気よ!」

「そりゃもちろん……先生からでしょ!」

「あいよっ!」


 乱戦の鉄則その1。一番倒しやすいやつから倒す。慣れてる、弱い、体力が低い、どんな条件でもかまわないからまずは敵の数を減らすこと。同時に複数相手の管理も必要な時だってあるが、幸い今回はそういう敵じゃない。


 だからある意味俺たちは、幸運だったと言っていいかもしれない。例えば俺が逆の立場なら、自由にボスを三体組み合わせて攻略不可能な乱戦を作れと言われたら、いくつか作れるだろう。今回の件でいえば、先生、ブルーローズ、キマイラの順で処理。難しいが不可能じゃない。


 いや、待てよということは。もしかしてこれを仕組んだのは、このダンジョンを作ったのは。このゲームに詳しくな――。


「団長! きゅら殿と拙者は!?」

「……そのままきゅらさんは雑魚蹴散らして増やしすぎないように! そぼろ丸はブルーローズとできればキマイラのヘイトも!」


 無限増殖の雑魚を放置できやしない。その前に本体を殺せない今のような状況ならなおさらだ。


「やりたくないが……任せるでござる!」

「こういう時サブマシンガンって便利だよな」


 鉄則その2。相手の戦力を分断させること。6対3を、とりあえず4対1と2対2に。字面で見ただけでも前者が早く終わるのは誰でもわかる事だろう。


 最後の鉄則、その3。決して焦らないことだ。いつもと違う状況に決して戸惑わない。やることは変わらない、そうやって自分にいい聞かせる。ああそうだ、こいつはただのゲームだ。俺はこいつらを何匹倒した? たとえ不慣れなキャラと職だってやることに変わりはない。そうだ今の俺がなんだ。些細な事を思い出せない俺が。ああ、だけど。




 俺の両親、どんな顔してたっけ。




「団長、危ないです!」



 楓さんの声で気づくが、遅かった。振り下ろされた先生のこん棒の影が俺の全身を覆っていた。死ぬやつだな、これ。潰されて内臓が弾けて経験値減らされてなけなしの所持金もパーでまたあの神殿にって馬鹿か俺は、冷静になるべきはここじゃないだろう。何してたんだろう俺。何してるんだろう俺は。




「ったく、可愛くない方の団長も世話が焼けるなぁ」


 影が止まる。正気になった目が捉えたのは、斧でこん棒を受け止めるマリナの姿。


「あらよっとぉ!」


 そのままスキル、カウンターブレイク。初期スキルだが使い勝手のいい傭兵の得意技。こいつの使うタイミングが傭兵の腕と言っていいのだから、やっぱりこいつは凄腕だ。


「もってなんだよ、もって」

「事実そうだろ」


 言い返す言葉はない。だから行動で返すことにした。よろめいた先生の体を駆け上り、剣を巨大な目に突き刺す。殺しきれなくても大丈夫。その算段はもうオラジオと楓さんがしてくれているから。


 頭は冴えた。同時に一つ思い出した。鉄則その4というより、その0って言うべきだろう。乱戦じゃなくたってどんな戦いのときだって。恥ずかしいから誰も言わないが、俺たちは皆知っている。




 ――いつだって頼れる仲間が、すぐ隣にいる事を。

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