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日曜日は世界を救う ~Origin Zwei Onlime~



 鳴り止まない音楽は、地獄の底から漏れだした悪鬼羅刹のようだった。


 迫り来る魔物の群れは、この世界の終焉を知らしめる神の使いの如く。




 それでも、希望はあった。俺たちのこの手には、まだ槍が握られていた。杖も、銃も、斧も。鍛え上げられた武器はまだ、その鋭さを失わない。




 六人の戦士達。


 聖騎士、傭兵、魔道士、巫女、銃士、忍者。




 目には光、諦めなんてどこにもない。ああそうだ、俺達は歴戦の勇姿なのだ。この荘厳な音楽も、この絶望的な光景も。





――――――――――――――――――――

マリナ:あーいつになったらこのムービースキップ出来るようなるんだよ

――――――――――――――――――――






 ――食傷気味だった。


――――――――――――――――――――

オラジオ:次のアプデじゃなかった? 公式見た?

マリナ:今ちょっと見てみるか

――――――――――――――――――――


 文句を垂れるのは小さな体に巨大な武器を持った傭兵のマリナ。見た目は茶髪のポニーテールの子供。中身は社畜でヘビースモーカー。


 アプデについて説明したのは、魔道士のオラジオ。優しそうな顔をした赤髪の美青年。中身は魔法使いなのに無職。急に動かなくなってる時は親が説教しに来た時とか。皆その辺を詳しく掘り下げたりしない。


――――――――――――――――――――

そぼろ丸:そういえばこいつレア何でたでござるか

楓:見えます……取引所で高値で売れる素材がボロボロ落ちる未来が見えます……

――――――――――――――――――――


 そぼろ丸がこの試合に置いて重要な事に気付いてくれる。全身黒ずくめの忍者。忍者マスター。一応くのいちなのだが殆ど布で覆われているので詳しい事はわからないが、なんか理系の大学に通っているらしい。


 楓は巫女だ。スーパー守銭奴。何かほしいものがある時、高金利で金を貸してくれるのもこいつだ。それこそ長く伸びた黒髪に紅白の巫女服なんて見た目通りなのだが。確か公務員とかなんとか。


――――――――――――――――――――

†愛猫天使きゅらきゅらキャット†:おい、どうでもいいから殺しに行くぞ小僧共

オラジオ:いやーきゅらさんいいこと言うねー

――――――――――――――――――――


 愛猫天使きゅらきゅらキャット。見た目は三毛猫のキモい着ぐるみで武器はショットガン。みんながさん付けするのは明らかに年上だから。詳しくは知らないけど別れた妻と子供がいるから。それ以上はだれも怖くて聞けない。




 まあこの辺で、中身の話はやめておこう。個人情報っていうのがあるし、俺達は今この世界を脅かす脅威を前にしているのだから。


――――――――――――――――――――

魔王イービルゲイル:よく来たな冒険者達よ……だがもう遅かったようだな

――――――――――――――――――――


 鳴り響く魔王の声は、否が応でも俺たちの気持ちを高ぶらせる。


――――――――――――――――――――

マリナ:この声優さん誰だっけ……どっかで聞いたことあるんだよな

楓:あ、ほらあれの人です。あのマッチョの吹き替えが多い人

――――――――――――――――――――


 否が応でも。


――――――――――――――――――――

そぼろ丸:レアほしいでござるレアほしいでござるレアほしいでござる

オラジオ:あ、確かにこの間BSでやってた映画で聞いたかも

†愛猫天使きゅらきゅらキャット†:知らないのか……皆……一発でわかると思うのに……

――――――――――――――――――――




 気持ちがね。




 ここで俺は咳払いをしてみせた。もっともそれはこいつらには見えやしない。俺の目の前にいるのは魔王イービルゲイルの移ったモニターとパソコンとマウスとキーボードとスピーカーとビールとポテチなのだから。


――――――――――――――――――――

フレイア:諸君! 真面目にやろう! なにせこのイビゲは……

†愛猫天使きゅらきゅらキャット†:やべ酒切れてた

フレイア:週に一回しか来ないのだから!

――――――――――――――――――――


 騒々しかった会話がだいたい止む。かけられるバフの山に、構えられる全ての武器。皆顔つきが変わってくれた。そうだな、世界の終焉とかよりそっちの方が重要だから。


 その先陣に立つのは聖騎士フレイア。白銀の長髪をなびかせて、真紅な双眼はただ前を見据えている。輝く白き鎧に、風になびく天使の翼。いやあ、最初のキャラクリに一日使った甲斐があるな。それに高かったんだよなあ天使の翼。




 あ、ちなみに中身は佐藤直也。株式会社エステリシプロブレムの社内SEをしている26歳の男。というか俺なんだけど。


――――――――――――――――――――

フレイア:行くぞ皆……我らがユグドラシル騎士団

――――――――――――――――――――


 槍を構えバフを使い、それからビールをちょっと一口。これぐらいがちょうどいい。


――――――――――――――――――――

フレイア:レアアイテムの為に!

――――――――――――――――――――


 俺達は駈け出した。慣れた手つきで、何度も繰り返した動作を、ニタニタ一人で笑いながら。暗い顔なんて誰もしない、だってこれはゲーム、『Origin Zwei Onlime』なのだから。






 今日も俺達は世界を救う。


 日曜の午後8時、だいたい1時間ぐらいかけて。






 ――この世界の片隅で、どこかの世界を笑いながら。

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