七十六話 決着がついたようです
「ほほぉ、流石に早いですね」
「安心しろって、お前が遅いだけだから」
男は馬鹿にしたような口調で話す。
とりあえずこいつは殺す、いくら治ったとはいえ傷を負わせたことに変わりないからな。
「困りましたね、ここまで強いとは……その力、ぜひ賢者様の僕に欲しいですね」
「俺が賢者側に行くと思ってるのか?」
「いえいえ、こちらの物にするんですよ」
突然、俺の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
俺は焦ることなく転移魔法で移動しようとした、だが転移魔法は発動しなかった。
次の瞬間、セラフィムを包み込むように超爆発が起こる。
「やはり転移魔法で逃げようとしますよね、ふふふ。それは対策済み……絶魔法で複合魔法の威力は想像を絶する。命はあってもまともに戦うことはできないでしょう!」
「いや、意外と大したことなかった」
「……⁉︎」
余裕をかましている男の背後から背中を殴りつける。
殴りつけた瞬間、勢いよく吹き飛び数秒後には目視出来ない程飛ばされていた。
よし、今のうちに周りの様子を探るか。
「なるほど、周りに村も無ければ人もいない。これなら全力ぶっ放しても大丈夫だな……ラプラス、今さっきの魔法を封じながら攻撃ってできる?」
『竜化していた時の魔法無効化の能力を魔法陣に組み込めばあらゆる魔法を無効化しながら攻撃ができます』
『ラプラスさん、それなんてチート?まぁいいや、ここら辺一帯にでかいの打つからその魔法陣に組み込んでくれる?』
『了解しました』
俺は魔力を解放する。
俺の周りを禍々しいオーラと漆黒の鱗が包み込む。
早く片付けて戻らないと、そういえばパーティの途中だったし。
「どうやって耐えたんです、普通に疑問なのですよ」
「まぁ使えなかったのが転移魔法だけだったから他にも逃げる手段も防ぐ手段もあったってことだ」
男は完全に再生したようで手をヒラヒラさせながら問いかけてくる。
魔法自体を封じられてたらダメージは食らってたかも、死なないけど。
「まずは試し打ちだ、あっさり死んでくれるなよ?」
「それは——魔法銃?」
俺は魔法銃を召喚し狙いを定める。
まずは軽く打つ、軽くと言っても絶魔法くらいの威力はあるけど。
「ドッゴォォォォォォ‼︎」
白い光が地面へと発射される、地面が抉れ巨大なクレーターが出来ていた。
流石に目で捉えられる速度なので余裕で避けられる。
「ほほぉ、魔法銃にしては威力が高い。当たったら俺でも死ぬかもしれませんね……当たればね」
「大丈夫だ、これも一つの手段に過ぎないしお前を殺すためのとっておきを出してやるから」
「何か嫌な予感がしますね、それでは俺も本気を出しましょう」
男からは眩しいくらいの光が溢れ、光が収まるとその手には真っ白な刀身の大剣が握られていた。
「この剣はあらゆる物質を切り裂く神剣デュランダラル。この剣は賢者様の物ですが、何振り構っていられなさそうなのでお借りしました」
「神剣……」
「どうしました?今更怖気付きましたか?」
「ほ、ほ、欲しい」
神剣、カッコいい。あの剣使ってみたい、凄く強そうだ。
あぁもういいや!今すぐ終わらせてあの剣貰う!
「この剣を欲しい、ですか。この剣はある一定以上の力を持ったものにしか力を発揮しないのです。力無き者がもてばただの重い大剣でしかない、俺ですら賢者様のお力をお借りしてるのであなたが持ってもただの大剣でしょうね」
「おぉ、余計欲しい。さっさと殺してその剣貰うわ」
「殺す?ふふふ、ははははは!この剣の恐ろしさを知らしめてあげましょう!」
男は大剣を片手で振り回し笑みを浮かべながらこちらへと近づいて来る。
俺はもう一度魔法銃を使う、だが放たれた弾は大剣に切り裂かれ男の後方で大爆発を起こす。
「流石に強いな、フォンセ・ゼーデルヒープ」
「おぉ!その刀、素晴らしいですね!あなたを倒してその刀は貰いますね!」
目の前まで迫った大剣を刀で押し返そうとする、だが押し返すどころか吹き飛ばされてしまった。
「いてて、止められると思ったんだけどな」
「受け止めただと!あらゆる物質を切り裂く筈のデュランダラルが切り裂けないだと⁉︎」
こっちからしたら吹き飛ばされた方が驚きなんだけど。いつぶりかな、真面目にやって吹き飛んだの。
『魔法無効化術式、組み込み完了しました』
『待ってました!ぶっ放すぜ!』
俺はありったけの力を込める、目を閉じ意識を集中する。使う魔法は超絶魔法だが神絶魔法よりも魔力を使っているためどうなるかは俺には分からない。
「そ、その魔力量は……死ね!」
男は俺に向け大剣を斬りつける、だが何もない所で勢いが止まりギリギリの所で俺には当たらなかった。
俺は鱗に防御魔法を何重にもかけ対策していたのだ。
だがただでさえ馬鹿みたいに防御力を誇る俺の鱗に防御魔法何重にもかけたにもかかわらず、一撃でひびが入ってしまった。
「あと少し……」
「なぜだ何故転移魔法が使えない!死ね死ね死ね!」
男の足元を中心に真っ黒な魔法陣が浮かび上がりどこまでも広がっていく。
男は乱暴に大剣を振り回し俺の防御魔法を壊していく、全体にひびが入り「ピシッ」と音が鳴る。
男がニヤリと不気味な笑みを浮かべ剣を突き刺す、ガラスが割れるような音がして大剣は俺の左胸に突き刺さっていた。
「やっと割れました、一時はどうなることかと……まぁ最初から負けるなんて思ってませんでしたがね」
俺の胸から剣が引き抜かれ勝ちを確信した男は大剣を地面に突き刺しそんなことを口にする。
胸が痛い、焼けるような痛みが俺を襲う。だが俺は冷静だった、なぜなら魔力を注ぎ終わったからだ。
「よいしょ、じゃあこの剣貰ってくわ」
「へっ?」
俺は地面に深々と突き刺さった大剣を片手で抜き転移魔法で遥か上空へと転移する。
「はぁ!」
魔法陣の中心から真紅に染まっていく。
上空から見降ろしているにも関わらず大地を赤色で染め上げていく。
次の瞬間、森も平原も山も川も——魔法陣の浮かびあがった場所全てが消えた。
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男は楽しんでいた。
自分が負ける事なんて考えておらず、目の前にいる白髪で黒いオーラと漆黒の鱗を纏っている男をどうやって殺そうかと考えているような言動。
だが本当は驚いていた、魔力を解放していないにも関わらず自分は手も足も出なかったのだ。
再生の能力が無ければ今ここに立つことすら出来ていないだろう、と。
恐らく魔力を解放した状態じゃ殺される事は無くても殺す事は出来ない、致命的なまでに攻撃力が足りない。
相手は絶魔法すら簡単に防いでしまうのだから。
自分の力で勝てないのなら力を借りるまで、賢者様の武器を賢者様の許可無く召喚した。
任務を成功させるために。
「そ、その魔力量は……死ね!」
思わず目を疑ってしまうほどだった、なぜなら魔法陣に注いでいるであろう魔力の量が賢者様と同等、それ以上だったからだ。
俺は逃げようと転移魔法を使う、だが発動しなかった。
このままでは死んでしまう、俺は乱暴に神剣を振り回す、何度も弾かれたが斬りつける度にひびが入っていった。
「ピシッ」
間に合った、ニヤリと笑みを浮かべ大剣を相手の胸へ目掛けて突き刺した。
胸からは大量の血が流れていた。
「やっと割れました、一時はどうなることかと……まぁ最初から負けるなんて思ってませんでしたがね」
俺の勝ちだ、神剣デュランダラルを心臓に突き刺したのだから。
安堵と共に剣を地面に突き刺す。
「よいしょ、じゃあこの剣貰ってくわ」
「へっ?」
気づいた時には男と神剣の姿が無くなっていた。
殺せていないだと?そんなことあるはずがない、正確に言えば神剣デュランダラルは切り裂くのでは無く喰らうのだから。
心臓を切り裂かれただけなら俺でも再生可能だろう、だが喰われた場合心臓を創らなければならない。
そんな魔法は存在しない、スキルも存在しない。
「何が起こった、俺は確かに心臓を貫いたのに……」
次の瞬間、俺は消滅した。




