表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/61

<第5話>夢なのか、夢じゃないのか

 猛スピードで自転車を立ちこぎしている間にも、わたしの頭の中に、不安がいっぱい湧いてくる。


 15才の姿で保育園へ行ったら、怪しまれて、娘のはるを連れて帰るなんて無理だもん。もし、どうにかごまかして連れて帰ったって、はるは、15才になったわたしを見て、自分のママだとわかってくれるかな? はるの泣きべそ顔が浮かんで、心がぎゅっと痛くなった。


 ずっと15才のままじゃ、仕事にも行けなくなる。生活どうしよう。女子高生のフリしてバイト? バイトするにしても、学生は、平日フルタイムじゃ働けない。収入激減……。今ですらカツカツの暮らしなのに。


 いよいよ困ったら、使用済みショーツをネットで売るとか。昔、ブルセラショップって流行ったよね? 女子高生が履いた下着を売る店。でも、ちょっと待って。もし売ったら、男の人が匂いをくんくんかいで、ショーツの中を妄想したりするんだよ。やだーっ、気持ち悪い。ありえん!


 とにかく、弟のケースケに、15才になった姿を見せて、これからのことを相談するしかない。同じ家に住んでいるから、隠そうにもバレバレだ。


 もお! なんで15才に変身なんてしちゃうんだ! どうしたら、元通りの35才に戻れるの?


 太陽は、水平線の下にほとんど隠れて、完全に沈みそう。あの男の子と話している間に、ずいぶん時間が経ったのかもね。


 辺りがどんどん暗くなって、不安になる。今日は、日が暮れるのが異様に早い。そう思った瞬間、まるでブレーカーが落ちたように、目の前が真っ暗になった。



「痛いっ」


 顔に、硬いものがぶつかった。びっくりしてのけぞると、頭の後ろには、柔らかい感触。振り向いたら、車のシートがあったの。


 バックミラーに、薄いブラウンのアイシャドウをした目元が映る。目尻に、小ジワがくっきり。頬には、ぽつぽつとシミも浮かんでいる。耳に黒髪をかけたショートボブ。見慣れた35才の私だ!


「夢だったんだ」


 ほっとして全身の力が抜ける。身体が15才に戻るなんて、現実なはずない。やっぱり、夢だよ。


 景色、音、感触、全部リアルだったな。現実かと思っちゃったもんね。自転車のペダルを踏み込んだ感触が、まだ足の裏に残っている気がするし。あの高校生の男の子が、目尻を下げてくしゃっと笑った顔も、はっきり覚えている。鼻の傷に彼が触ったときに感じた、くすぐったいような痛みも。


 車は、防波堤沿いの道を抜けた先にある、駐車スペースの前に停まっていたの。


 外は薄暗くなっていたから室内灯をつける。おかしな夢を見たせいかな? 額は汗でびっしょり。バックミラーを覗いて、ハンカチで顔を拭く。さっきの夢で15才の自分を見たからか、肌のくすみがばっちり目立つ。うわー、見たくないな。私の肌、こんなにひどかった?


 よく見ると、鼻の頭をすりむいている。たまたま、夢の中で傷がついたのと同じところ。あれは夢じゃなくて、本当に起こったこと?


 やだ! そんなことあるわけないでしょ。


 私はあわてて、アホみたいな空想を打ち消す。さっき顔にぶつかった硬いものは、車のハンドルかな。たぶん、それで傷がついたのかもね。私は鞄からコンパクトを出して、鼻のすり傷を塗り隠す。


 私は大急ぎで、保育園へと車を走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ