拓途視点【その26】 それは愛?
「あらっ、いやだわ。娘へかけたつもりで、番号を間違えてしまって」
電話をかけてきたおばさん、めっちゃあせってるけど。
やっぱりこの人は、なつの母ちゃんなのかな? なつと声が似てるし。
「どうも失礼いたしました」
「あのっ!」
おばさんが電話を切りそうな感じがしたんで、俺はあせって止める。
「訊いていいっすか?」
本当になつの母ちゃんなのか?
「は? ……何かしら」
おばさんの声が、一瞬で嫌そうな感じになる。
めっちゃ怪しまれた! どうしよ? 自己紹介する方がいいのか?
「高橋拓途っていいます。なつさんとは、昨日も会ってて」
しゃべり方は、ちゃんとしなくちゃ。変な奴だって思われないように。
「あらっ、まさか、なつとおつきあいされている方かしら? わたくし、かんざきなつの母です」
やっぱりこの人、なつの母ちゃんだ!
「あっ、どうも」
俺は、どう答えていいかわかんないし、とりあえず、あいさつした。
……俺ら、今は、つきあってるのかな。なつの見た目が高校生だったときは、RINEでしゃべってるうちに、つきあおうって話になった。でも、なつが本当は大人だってわかってからは、どうなんだろ?
なつが本物の高校生だと思ってたときは、めっちゃ好きすぎてキンチョーしちゃって、手握るぐらいしかできんかった。
なつが大人だってわかったあとは、ぜんぜんキンチョーしない。でも、俺らは何べんもキスしてる。それと、今すぐにはダメだけど、いつかもっと先だったら、俺とヤッてもいいって、なつは思ってるみたいなんだ。
エロいことするときは、コーフンするのに、普通にしゃべるときはドキドキしない。家族としゃべってるみたいに、めっちゃ気抜いてるし。
それって、つきあってると言える? 俺は、大人のなつに惚れてるのかな? 俺はただ、エロいことがしたいだけ?
「なつさんが高校生になったときは、つきあってました。でも、大人になったら……わかんなくて」
俺は迷ったけども、正直に言ってみた。
なつの見た目が、ときどき高校生になるのを、母ちゃんも知ってるよな? 家族なんだし、たぶん何でも話してるはず。
「娘が高校生のときにも、おつきあいを? まあ、そうでしたか」
母ちゃんの声、急にめっちゃ優しくなった。
「あなたとなつは、似ているもの。結局は、居心地のいい相手を選ぶのよ」
そうそう! 今朝も、なつとそんな話したんだ。『似てるね、私達』って。
「なつも、同じように悩んでいるみたいですよ。昨日、なつに聞いたの。あなたが、いいお話をしてくださらないので、おつきあいをしているのかどうか、はっきりとは言えないんですって」
『いい話』って何だ? めっちゃ感動する話とか? 女とつきあうには、感動させなきゃいけないのか?
そういや、ドラマでは、告白シーンって、めっちゃ盛り上がるもんな。そっか。リアルの世界でも、みんな、ああいう感動シーンをやってからつきあうんだ! 知らんかった。
でも、どうする? なつに『いい話』なんてできるかな? 俺には、そーゆーの無理かも。
「あなた達、いい伴侶になれそうだわ」
なつの母ちゃんが、何か難しいこと言った。
「いいはんりょ?」
俺は、言葉の意味わかんないんで訊く。
そしたら、なつの母ちゃんに、くすくす笑われた。
「大事なものを選ぶときには、誰でもじっくり悩むものでしょ。本当にいいの? って」
なつの母ちゃん、俺みたいなアホでもわかるように、説明しようとしてるんだろな。
「高橋さんは、なつのことを、そのくらい真面目に考えてくださっているのよ。適当に決めないで、『これでいい』と思えるまで、相手のことをじっくり考えるのは、とても大事だからでしょう?」
めっちゃ大事って意味か。『いいはんりょ』って。
なつの母ちゃんが言うこと、わかる。俺、なつが高校生じゃなくておばさんだってわかったとき、こいつとつきあうの絶対にねーわ、とか速攻で決めなかったもんな。
「そうかもしれないっす」
それって、なつが大事ってことなのかも。
「娘へのお話、じっくり考えてやってくださいね」
うわ。ハードル上がった! なつが感動する話なんて、俺ぜんぜん自信ない。
まあ、考えるのが大事って、今、なつの母ちゃんが言ったし。いっちょ考えるだけ考えてみるか!
「はい。わかりました」
俺は返事した。
そのあとチャイムが鳴った。授業終わって、休み時間だ。
急に、保健室の外がうるさくなった。教室の戸がガラって開く音、廊下を走る足音、『先生!』って叫び声とか。
「こらあ! 廊下走るな!」
保健の先生が、怒鳴ってんのが聞こえる。先生は、さっき職員室に行ったんだけど、もう戻ってきたか! けっこう近くで、声してる。やばっ。電話切って、スマホ隠さなきゃ! 先生に見つかったら、取り上げられるかも。
「すいません! 先生なんで! 時間ないし、もう切ります」
俺はあせって、電話を切った。
速攻で、ポケットにスマホをしまう。




