<第31話>いきなりのプロポーズ
「いやっ、いいんじゃないの? 男もそういうのに興味あるし」
拓途が言った。ちょっと照れくさそうな声だ。
わあよかった! やっぱり男の人って、女性のワンピース姿に興味があるんだね。私が着ているのは、胸元にドレープが入ったやつで、ドレッシーなワンピース。30代の私に、似合っているかな?
そっと顔を上げて、拓途の反応をみる。
「俺も、どっちかといえば、それ嫌いじゃない」
拓途はニカッと笑う。
うふふ。褒められちゃった!
拓途はすごく嬉しそうだ。ゆうべの彼は、しょぼんとして元気がなかったのに、ようやくいつも通りの笑顔に戻ったの。
「そうなの? 認めてくれて、嬉しいよ。うちの弟なんか、私の服には見向きもしないし」
一緒に住んでいる弟のケースケは、私がおしゃれしていても、気づいたことないからね。
「弟は、お姉ちゃんの服には興味ないもんなの? 拓途はどう? サツキちゃんの履いてるショートパンツ、いいよね」
拓途のお姉さん、サツキちゃんはかわいい服を着ているもん。ショートパンツからスラッと伸びた足が、すごくきれいなんだよ。
「え! ええっと、まあ、ちょっとは……興味ある」
拓途は顔を真っ赤にして、目を伏せる。照れているのかな? 年頃の男の子だし、お姉ちゃんのことをかわいいなんて、恥ずかしくて言えないよね。
「拓途もそうだよね! うちの弟が、変わってるんだよ。弟だから、私はいいけどね。あそこまで女性の服に関心ないと、ケースケの彼女がかわいそうで」
うちの鈍感な弟にくらべたら、拓途は素直でいい子だわ。
「え? ケースケっていうの? 弟」
拓途がびっくりした顔で、私を見上げた。
ケースケって、そんなに珍しい名前じゃないと思うよ。どうして驚くの?
「そうだけど……」
「そうだったんだ」
拓途は、目をぱっちりと見開いている。
何かを言いかけて止めるように、彼の唇がぴくっと動く。
何を言いたいの? 弟のケースケがどうかした?
「あのさ、結婚……して」
「えっ!」
今、拓途は『結婚』って言った? 言ったよね? 私の聞き違い?
拓途はちょっと変わった子。それにしても、まさか、いきなりのプロポーズ!? つきあうのをすっ飛ばして、『結婚』なの?
「結婚?」
私はびっくりして訊き返す。
「いヤッ……あの……嫌だったら、答えなくていいんだけど」
拓途は、あせっているみたい。
耳は真っ赤っかだし、声が裏返っちゃって、かわいいなあ、もう!
「嫌じゃないの」
私は、ゆっくりと拓途の前へしゃがむ。
落ち着きなく目を泳がせる彼が、愛おしくってたまらない。
「でも、どう返事したらいいのか迷っちゃう。私は、バツイチのおばさんだし」
私は、言葉を選びながら話す。
つきあうのはどうにかありえるかもしれないけれど、『結婚』は、ちょっとね。
私には2才の娘がいる。拓途は10代で、彼自身まだ子どもなんだし。父親になるなんて重い荷物を背負わせるのはダメだよ。
それでもね。
拓途って、高校1年にしては気づかいができて大人なところがあるし、彼なりに真剣に、将来のことをじっくり考えてくれたのかも。
拓途がまっすぐな気持ちでプロポーズしてくれたんだ。失礼にならないように、きちんと考えて答えを出さなくちゃ。
「なつは、フリーなんだよな? 今は、誰とも結婚してないんだろ?」
拓途の両手が、私の肩をガシッとつかむ。
その勢いに押されて、私は思わずうなずいちゃった。
「今すぐにするのは無理かもしんないけどさ。いつかもっと先でいいし、俺と一緒に……やってもいいとは思ってるの?」
彼は、じっと私を見つめる。
「いつかもっと先……。そのときになってから決めてもいいかな?」
私は答える。
そうだ。今すぐ、決めなくてもいい。法律上、拓途が18才になるまでは、結婚できないもん。でも、決めるのはもっとずっと先かな? 彼が大人になって、働いて、家庭を構えることの重みがわかるようになったらね。
「ダメじゃないんだ? 『俺としてもいい』って思ったら、いつでも言ってよ。俺は、今してもいいけど」
拓途が、嬉しそうに目尻を下げる。
「ホントに、ケースケが弟でよかった。俺、なつがケースケと結婚してると思ってたし」
拓途が、ほっとしたように言う。
「えっ? ケースケと私が、夫婦だと思ってたの?」
「そう。だから、なつとは不倫になると思って、昨日はめっちゃ悩んだ」
「嘘っ! まさか、昨日はそのことで悩んでたの?」
ゆうべから、拓途に元気がなかったのは、私のせい?
「俺の人生終わったと思うくらい、やばかった」
拓途は、フッと笑う。
キャーッ、どうしよう。私の説明が足りなかったせいで、彼をあんなにしょんぼりと落ち込ませちゃったんだ。
「ごめんね。私、いつも言葉が足りなくて、よく誤解されちゃうの」
私は申し訳なくて、泣きそうになる。
「いいよ。俺はその逆でさ。勘違いするから、人の話ちゃんと聞けって、よく怒られる」
ふいに、拓途に抱きしめられた。
胸がつぶれちゃいそうなほど、何度も、強く、強く、ギュッと。
拓途のドキドキが伝わってくるぐらい、私達は胸をぴったりくっつけ合う。
「似てるね、私達」
「そうかも」
ふたりしてクスクス笑い合って、それから、大人のキスをした。




