表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/61

<第30話>拓途の匂いがする……

 よっしゃ! 拓途が笑ったぜ。おばちゃんパワーの勝利だあ。


 私は腰をフリフリして、ウイニングダンスを続ける。


 ゆうべは、拓途の様子がおかしかったの。いつもニコニコしてる子なのに、まったく笑わなかったし。たこ焼きをおごってもらって、バス停のベンチで食べたときも、拓途はヘンに強がってた。でもね、背中がしょぼんと丸まってて、落ち込んでるのバレバレだったよ。


 夜の9時を過ぎているのに、制服で外をうろうろしているのって、おかしいよね。家へ帰りたくないほどショックなことがあった? それとも、学校で嫌なことでもあったかな? クラスの友達になじめないって、前にしょんぼりしながら言ってたもんね。


 難しい年頃の男の子だもん。ごちゃごちゃ訊かない方がいいと思う。とにかく今は、私がはっちゃけて、たっぷり笑わせて、軽ーい気分で学校へ行かせてあげないと!


 心さえ明るくなれば、あとは何とかなるもんよ。私もそうだったの。元の夫が、一回りも若いおねーちゃんと出て行っちゃって、そのあとお金のことで大モメしたって、娘のはると一緒に、『母は強し!』で乗り切ってきたから。


 ――って、私の昔話なんてどうでもいいね!


 拓途はいい子。ゆうべは珍しくイライラしていて、ケンカしたりもしたけれど、それでも私にベッドを譲ってゆっくり寝かせてくれた。彼ってば、紳士でしょ? だから何かちょっとでも、恩返しがしたいの。

 

「どうした? いつもと違うけど」


 拓途が、不思議そうに訊く。


 もしかして気づいてくれた? 私の服! 普段よりもおしゃれしてるの。もう! 彼ってば、優しすぎるよ! 自分がつらいのに、私のちょっとした変化にも気づいてくれるなんて。


 私は、拓途のそういうところがいじらしくてたまらなくて、もう泣いちゃいそうで、踊ってるどころじゃなくなった。でも、うれし泣きといっても、落ち込んでる彼に、泣き顔なんか見せちゃいけない。


 私は、手に持っていた拓途のスウェットパンツで、とっさに顔を隠して、涙をグッとこらえる。鼻をすする音を、聞かれないようにしなくちゃ。


「これ、拓途の匂いする!」


 私は、おどけてごまかした。


 ゆうべ、寝間着の代わりに貸してもらった彼のパーカーも、こんなあったかい匂いがした。ついさっきまで、そのパーカーを着ていたんだよ。


 今はもう、自分の服に着替えを済ませているけれどね。


 ゆうべは、女子高生に変身していたの。でもね、眠っている間に、元のおばさんに戻っていた。服もなぜか元通りになって、洗面所にあったんだよ。夜シャワーを浴びる前に脱いだ女子高の制服が、朝になったら、胸元にドレープがついた大人っぽいワンピースに変わっていて。


 彼は、どんな風に思うかな? 拓途の前で、こんな女っぽい格好するの、初めてだもん。いつもの地味なジーンズ姿とは、ぜんぜん違うから。


「いつもの私っぽくないよね。変でしょ」


 くすぐったい気持ちで、謙遜してみる。


 これは、よそいきのワンピースなの。昨日はこのワンピースを着て、娘のはると一緒に、母の家へ行ったんだよ。母は再婚していてね、山手のきれいな住宅街に住んでいるもんだから、私もおしゃれして行かなきゃと思って、ちょっと張り切っちゃって。


 うちの母ったら、おかしいんだよ! 私がおしゃれしているから、彼氏とデートするって思い込んじゃったみたい。はるを一晩預かるから、ゆっくりデートしていらっしゃいなんて言うの。


 結局、ゆうべは一晩中、私は女子高生になったまま、おばさんに戻れなかった。そのせいで、はるを迎えに行けずに母のところへ預けっぱなしで、拓途とずっと一緒にいた。母の勘違いが、現実になっちゃった。でもね、彼の家に泊まったのに、色っぽい展開がまったくなかったの。拓途は、紳士だもんね!


「いや、変っていうか……なつがそういうキャラだったんだって、ちょっとびっくりした」


 拓途の声、戸惑っているみたい。


 もしかして、私には、女っぽいワンピースなんて似合わない?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ