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拓途視点【その19】 アポなし突撃の理由

【大人の読者の皆さまへ】


 大人が、未成年の少女と一緒に、ノンアルコールチューハイを飲む場面があります。


 この物語では、少女の正体が30代のおばさんという設定です。


 未成年にノンアルコール飲料を飲むことを勧めているのではありません!

「うわー、なつのそういうとこ大好きっ」


 カナちゃんが、あいつにギュッと抱きついた。


 何なんだよ? いきなり。


「カナちゃん、どうしたんだ?」


 俺はわけわかんなくて、カナちゃんに訊く。


 あいつの『そういうとこ』って何だろ。

 

「だってなつは、ちゃんと設定にノッてくれるじゃないのさ! カワイイったら、ありゃしないよ!」


 カナちゃんは、あいつに頬ずりしまくってる。


「……設定? 何の?」


 俺は訊き返した。


 そしたら、カナちゃんはブホッって吹き出して。


「まさか、拓途。さっきの本気にした? なつが背中のチャック開けると、中身がおばさんだっていう設定」


 辛抱たまらん! って感じで、カナちゃんウケまくってんだけど。

 

「あはははははー、ひぃー、うちの甥っ子たまらんわ! なつの中身がおばさんだとか、信じたの? いいねえ、めっちゃ純粋!」


 カナちゃん、笑いすぎて目に涙たまってるぞ。


「いや、だって、こいつが『昭和53年生まれ』とか言っちゃうし」


 俺は言い返した。


 あいつの正体おばさんってバレたんじゃなくて、カナちゃんはネタだと思ってふざけてた?


「ああ、あれ。一瞬で計算できるってすごいね。なつ」


 カナちゃん、あいつが適当に話を合わしたと思ったんだな。


 俺はホッとした。


「私の見た目で、だいたいの歳を割り出して、昭和の何年ぐらいに生まれたって暗算したんでしょ? あんた頭いいわ」


 よかった。カナちゃん、あいつが本当におばさんだとか、ぜんぜん信じてない。


「私の生まれた1978年と一致したの、たまたまだよね?」


「たまたまと違いましゅ! わたしも、35さい……」


 あいつは本当のこと言った。でも、酔っぱらってるみたいに舌まわってないし、説得力ゼロだ。


「はいっ! 終了ー。設定ひっぱるのは、そろそろ終わり」


 カナちゃんは、あいつに抱きついてた手を放した。


「私の卒業アルバムに載ってる写真の人、なつにそっくりだけど、親戚とかかな? 下の名前が『奈津』って、あんたと一緒だし、お母さんじゃないもんね」


 カナちゃんは、卒アルに載ってる写真をチラッと見る。高校を卒業したときの、18才ぐらいのあいつの写真。


「それ、わたし……」


 あいつは言いかけた。だけど、カナちゃんが途中でしゃべり始めた。


「もういいよー、なつ。おじゃま虫は、ドロンと退散するから」 


 何だあれ? カナちゃんが、変な手つきしてるぞ。両手のこぶしを縦にくっつけて、人差し指を立ててるんだけど? 俺はどう反応していいか困った。そしたら、カナちゃんは急にまじめな顔になって。


「『ドロン』って、拓途ぐらいの世代はわかんない? このポーズは忍者が『ドロン』って消える……まあいいわ」


 カナちゃんは、ため息ついた。


「じつはね。お義姉さんに、拓途の様子をさりげなく見ててって、頼まれてたの」 


 カナちゃんは、俺の死んだ父親の妹。だから、うちの母親のこと『お義姉さん』って呼ぶんだ。


「うちの親に?」


「拓途も高校生になったし、お義姉さんは心配してるんだよ。悪い友達ができてない? 夜に遊び歩いて、生活リズム乱れてない? って」


 カナちゃんが、俺の目をじっと見る。


「あのね。お義姉さんは、拓途を信用してないんじゃないの! でもほら、うちのカワイイ甥っ子は気が優しいから、ビシッとものを言えないところがあるし。断り切れなくて、ズルズル悪い方へ引きずられちゃうかもって」 


 カナちゃん、俺のことめっちゃ弱いやつだと思ってんだな。


 俺はムッとした。


「お義姉さんは、夜、あんまり家にいられないし、拓途とゆっくり話す時間もないのが困るって、こぼしててね」


 うちの母親、看護師で泊まりの仕事ばっかりだもんな。俺は朝に、学校行くギリギリまで寝てるし、そういや最近は、ちゃんとしゃべってない。


「それで私が、抜き打ちでチェックに来てたってわけ」


「は? 俺を監視してたの?」


 カナちゃんが何度かアポなしでうちに来てたのって、俺の行動チェックだったのか!


 それじゃ、カナちゃんがこの前うちへ来たとき、俺の部屋にある物置から卒アルを出したのは……。


「もしかして、俺の行動を探るために、俺の部屋の物置あさろうとした? 卒アルが見たかったんじゃなくて」


「それは違う! 拓途の部屋って、もとは、私が使ってたからね。物置には、私の物がまだいろいろ残ってんのよ。卒業アルバムは、同窓会の準備で必要だったの」


「そうかもしらんけど、今は俺の部屋だし、ズカズカ入ってくんな!」


「はいはい悪かったよ! 怒んないの。しばらくは私、来ないようにするから。なつとふたりで、イチャコラしたいんでしょ」


 カナちゃんは、ニヤってする。なんかエロいこと想像してんのか?


「なつが一緒だったら、心配ないわ。この子、しっかりしてるもん。うっかり赤ちゃんできちゃうような無責任なことしないね? ねえ、なつ……」


 カナちゃんは、あいつの顔を覗こうとしたんだけど。


「……寝てるわ! この子」


 カナちゃんが、叫んだ。


 あいつは、俺とカナちゃんがしゃべってる間に、テーブルに突っ伏して寝てた。


「ちょっと大丈夫? 酔った? ノンアルコールチューハイしか飲んでないはずだよ」


 カナちゃん、あせってる。


 あいつが握ってるメロンサワーの空き缶をひったくって、じっと見た。


「やだ、この子間違えてる! これ、アルコール入ってるやつ!」


 カナちゃんが、頭抱えた。


 あいつ、本当に酔っぱらってたんだ。

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