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<第28話>初めてのケンカ

 はっきりとは描写していませんが、女性のお風呂シーンがちらっと出てきます。念のため、ご注意ください。

 わたしは、シャワーの栓を止めた。これで、お肌も髪もピッカピカになったよ!


 うはあ! 生き返ったわ。このあと風呂上がりに、ノンアルチューハイを飲んで、プハーッとできたら最高だね!


 ほこほこと幸せにひたりつつ、わたしはお風呂場を出ようとした。


 すりガラスの戸を開けた、その瞬間。


「これ着ろ!」


 叫び声と一緒に、いきなり黒っぽいものが飛んでくる。


「ぎゃっ!」


 わたしはびっくりして、その場にしゃがんだ。


 すると、背中に柔らかいものがベチャッと張りつく。やだ! 何なのこれ? 気持ち悪いよ。


「いやーっ!」


 わたしはあわてて、背中にくっついたものをひっぺがした。


「あ……ああああのっ、ごめん! ぶつけるつもりじゃなかった」


 おろおろした声で言いながら、わたしの前にしゃがんだのは――拓途だ!


「え? え? あ?」


 わたしは混乱しすぎて、そのままポカンと拓途の顔を見つめる。


「うわっ、あっ、風呂のぞくつもりじゃ……」


 みるみる真っ赤になる、拓途の顔。


「キャーーーーッ! 出てって!」


 わたしは手に持ったものを、拓途に投げつけた。



「プハーッ! 生き返るわ」


 わたしは、ノンアルチューハイをぐぐっと飲み干す。期間限定のマンゴサワー味。おいしくいただきました!


「その空き缶見たら、うちの親、ショックで固まると思う」


 拓途は、ものすごく暗い顔をする。


 マンゴサワー味は、彼のお母さま秘蔵のやつなんだって。すごく頑張った日のごほうびに、買い置きしてらっしゃるみたい。それを勝手に飲んじゃったら、拓途は、叱られちゃうかも!


 だがしかし! さっきは拓途のせいで、お風呂でたっぷり恐怖体験させられちゃったんだよ。このぐらいのペナルティは受けてもらわなきゃ!


 拓途はお風呂をのぞくつもりじゃなくて、わたしのために着替え用のパーカーを持ってきてくれたの。でも、脱衣所に入るのが恥ずかしくて、服だけポーンと放り投げたみたい。そのとき偶然、わたしがお風呂から出てきたもんだから、そのパーカーが、わたしにぶつかっちゃった。彼に悪気があってやったんじゃないのは、わかっているんだよ。


 高校生男子のお部屋で、ノンアルチューハイを飲むなんて、不良おばさんだよね。あっ、でも今は、15才の姿をしているから、不良少女?


「家でいつも、そんな感じで、酒、飲んでんのか?」


 呆れたように、拓途が訊く。


 酒の旨さを知らないお子ちゃまのくせに、バカにしたみたいに言うな!


「わたしはお酒じゃないよ。ノンアルコールだからね! お酒飲むのは、ケースケだけだもん」


 わたしはムッとして答える。


「ケースケって、さっき電話で話してたやつ?」


 うちの弟のケースケを見下すような拓途の言い方。何なの?


 ケースケは、拓途より干支ひとまわりくらい、年上だから! 高校1年のガキンチョなのに、なぜそこまで偉そうなの?


「ケースケは、わたしの大事な家族だよ。バカにしないでくれる?」


 わたしは言い返す。


「だ・い・じ・な・家族?」


 拓途は、吐き捨てるみたいに言う。


「だったらさ、困ったときはそいつに頼れば? 俺みたいな他人じゃなくて」


 彼は何を怒っているの? わたしにはよくわからない。


「でも、しょうがないの。ケースケは、仕事で遠くに行ってて、明日まで帰ってこないし」


 ケースケは、長距離トラックのドライバーだし、わたしが家の鍵をなくしたからって、すぐには帰って来られないんだよ。


「しょ・う・が・な・い・から、俺に頼ったんだ」


 拓途はフッと、ため息をついた。


「バカにすんな」


 拓途がつぶやく。今までわたしが聞いたことないような、低い声で。


「しょ・う・が・な・い・から、今夜はうちに泊めてやる」


 彼がわたしをにらんだ。


「だけどな! 明日はさっさと帰れ。俺も学校あるから、うちにいられても困るし」


 拓途は、そう言ったあと、わたしに背中を向けた。


「風呂入ってくる!」


 わざとみたいにドスドス大きな音を立てて、拓途が部屋を出て行った。



 わたしは拓途のベッドに寝転んで、ボーッと天井を見つめている。

 

 どうして彼は急に、怒り出しちゃったの? わたし、何か悪いことした?


 ついさっきまで、あんなに優しかったのに。


 わたしのお腹がきゅるるーって鳴ったのを聞こえないふりしてくれた。


『ソースの匂いすると、なんか妙に食いたくなるよな』


 って言って、たこ焼き買ってくれて。


 わたしが、たこ焼きのソースを髪にこぼしちゃったときも、心配してくれたんだよ。


『うち来て、髪洗うか?』


 って、誘ってくれたの。


 拓途の家におじゃまする前に、ケースケと母に電話したくて、彼に電話代を借りようとしたらね。


『これ、好きなだけ使えば?』


 って、スマートフォンを貸してくれた。


 なのに、どうして? 何でケンカになっちゃったの?

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