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<第4話>いろいろ突っ込まれて、さっそくピンチ!

「その制服、見たことないな。どこの学校?」


 彼は人のいい笑顔で、一番つつかれたくないポイントをグサッと突いた。


「ど……どこって」


 わたしは答えに詰まる。じつは35才なんです。正直に言っても、見た目は女子高生なんだし、信じてくれるかな? 彼に大ウケされて、サラッと流されちゃうかも。とにかく何かを言わなきゃ。彼がわたしの目を見て、答えを待っている。


「恵愛女子高校」 


 わたしは苦しまぎれに、その昔、自分が通っていた学校の名前を言った。


「ふうん、聞いたことない。どこにある?」


 彼は、さらに墓穴を掘って、わたしを追い詰める。


「あの……ええと」


 適当に返事なんてするんじゃなかった! わたしの母校は、少子化の流れにあわせて共学になっているし、今じゃ、校名がぜんぜん違うの。


「西浦町」


 心がちくちくと痛む。これって結果的には、嘘をついていることになるな。わたしが通っていた頃には、母校は、確かにその町にあったのよ。でも、そのあとの市町村合併で、町は、隣の市に吸収されてなくなっちゃったし。


「俺は、県立中浜」


 彼は、うちの町内にある高校に、通っているんだね。


「俺は1年。そっちは何年?」 


「わたしも同じ。1年生」


 わたしは腹をくくった。とにかく今は、15才になりきるしかない。一度、嘘をつき始めたら、最後までつき通すしかない。ええい、ごまかしちゃえ! 20才くらい、気合いでなんとかなる。フルパワーでサバを読むのだ!


「そうか。一緒なんだ」


 彼は、人懐っこい笑顔を見せる。


「なあ、RINE、使ってる?」


 彼はわたしの返事も待たず、スマートフォンをいじっている。こういうところが、イマドキの子だね。


 最近、流行りのRINEという通信手段を使うと、スマートフォンの画面上で、メッセージをやりとりできて、目の前で会って話すのと同じくらいスムーズに、相手と連絡が取れるの。


「一応、使ってはいるんだけど……」


 わたしは答えたものの、スマートフォンが、ここにあるとは思えない。


 そのへんに散らばっているのはどれも、わたしが15才のときに持っていたものばかり。当時はスマートフォンなんてないし、携帯でさえまだ珍しくて、都市伝説みたいな扱いだったもんな。使っている人を実際に見たこともなかったし。


「どうした? 早くスマホ出して。RINE教えるから」


 彼は顔を上げて、不思議そうにわたしを見る。RINEの連絡先を交換したいの?


「ちょっと待って」


 通学カバンの中をひっかきまわして探したけれど、スマートフォンなんてない。


「ごめんね。家に忘れてきちゃった」


 わたしは言い訳する。


「じゃあ、番号教えて」


「わたしの電話番号? ええと……」


 わたしは口ごもる。相手が10代の子どもでも、初対面の人に電話番号を教えるのは嫌だな。


「番号、覚えてないのか」


 彼は、しょぼんとうつむく。わたしが、自分の番号を忘れてしまったと勘違いしたみたい。


「わかった! これだ。090-○○○○-××××」


 いきなり、彼がわたしの電話番号を読み上げた。


「どうして知ってるの?」


 わたしはびっくりして身を乗り出す。


「だって、ここに書いてあるし」


 彼は、黄色の名札をつまみ上げる。


「ほら。これが、地面に落ちてた」


 ひまわりの形をした名札を、彼は得意げな顔でヒラヒラさせた。


 その名札には、もしもの場合に備え、わたしの電話番号を書いてある。娘が保育園に通うとき、タオルや着替えなんかを入れるバッグにつける名札。それがどうして、こんなところにある?


「『 海の子保育園 かんざき はる 』。何で、保育園の名札なんてつけてんだ?」


「今からそこへ、むす……妹を、迎えに行くの」


 わたしはとっさにごまかす。はるは『 妹 』じゃなくて『 娘 』なの。けれど、15才の姿をしている今は、本当のことを言っても、絶対に嘘ついたと思われる。


「そうだ、はるを迎えに行かなきゃ。すっかり忘れてた」


 大あわてで自分の荷物をかき集め、通学カバンを自転車の前かごへ突っ込んだ。


「それも返して」


 彼の手から名札をひったくる。


「さっきは、助けてくれてありがとう。もう行かなくちゃ」


 わたしは、彼にお礼を言う。


「もう帰んの」


 彼は、びっくりした顔で立ち上がった。


「明日もまた、ここに来るかな? 俺は、毎日帰りに、自転車でこの道を通ってるし」


「うーん、どうしよう?」


 適当に答えるしかないよね。いつまで15才の姿でいるのか、そもそも、元通り35才の自分に戻れるのかもわからない。


「ごめん、まだわからない。じゃあね!」


 わたしは急いで自転車に飛び乗ると、全速力でこぎ出した。

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