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拓途視点【その14】 ぱっぱ!

「にいたん、だーいすきよ」


 なつの妹のはるちゃんが、俺の足へ抱きついてくる。


 ここは保育園の前で、今は、19時ちょっと過ぎたところ。なつの母ちゃんはニコニコして、はるちゃんの頭をなでてる。


「はる、よかったね。『お兄ちゃん大好き、会いたいの』って、ずっと言ってたもんね」


 えええ! なつの母ちゃん、そりゃねーわ。


 朝に話してた『 娘 』って、はるちゃんかよ! 俺のこと大好きで、『会いたい』とか言いまくってたのは、なつじゃないってこと?


 ウソだろ! 俺の勘違い?


 服だって、気合い入れてきたのに。朝、なつの母ちゃんと会ったときに着てた服は、しまくらの安いやつだけど、今は、全身ユニケロだからな! パーカーとデニムあわせて、5千円もした。俺が持ってる中で、一番いい服なんだ。


「拓途、おしゃれしてきたの? 今朝はスウェット着てたもんね」


 おっ、なつの母ちゃん、違いがわかってくれたか!


「拓途は足長いから、スキニーのジーンズ似合うよね。足細くていいなあ」


「そうっすか?」


 なつの母ちゃん、めっちゃ笑顔で褒めてくれた。その言葉、ホントは、なつから聞きたかったけど。


 そういえば、なつはどこ? ここに、はるちゃんと母ちゃんのふたりしかいないぞ。


「っていうか……なつも」


 なつもこのあと一緒に、飯へ行くんですよね? 俺はそのこと訊こうとした。


「えっ、私の足が細い? そんなことないよ。太ももがむちむちで、恥ずかしいもんっ」


 なつの母ちゃんの返事は、ぶっ飛んでる。


 はい? 俺、母ちゃんの足細いとか、言ってないっす。どうして、俺の言葉がそんな風に聞こえんだろな? やっぱり天然でおもしれーわ、この人。


「もう! やだ! 大人をからかうな!」


 なつの母ちゃんが、ひとりで勘違いして照れまくる。俺の背中をパンパン叩いてくるんだけど、なんかかわいい。


「まあ、褒めてくれたからじゃないけど、ご飯はおごるからね。何がいい?」


 なつの母ちゃん、ごきげんだな!


「おごってもらって、いいんすか? でも……俺が何食いたいとかより、なつは」


 なつがまだ来てないけど、どうすんだ? これから飯を食う店で合流すんのかな?


「じゃあ、回るお寿司は?」


「寿司食いたいっすけど、なつは? 店はどこか知ってるんですか?」


 なつが合流するんなら、どこの店へ行くとか、なつに連絡しなくていいの? 母ちゃん、大ざっぱすぎるだろ。なつには、ちゃんと会えるのかな?


「そのぐらい知ってるよ。何回か行ったことあるお店だから。安いけど、すっごくおいしいんだよ!」


 ああ、そういうことか。なつが、あとからその店へ来るんだな。



「ギャーーーーーーーー」


 はるちゃんがデカい悲鳴上げた。


 おい。止めてくれ。ここ、回転寿司の店の真ん中だぞ。それと、俺にしがみつくの止めてくんねーか? まわりの客がみんな、幼児虐待の犯人みたいな目で、俺のこと見てんだろ!


「はるは、ひとりでお寿司食べられないでしょ。あーんってするの手伝ってあげるから、ママと一緒に座ろうよ」


 なつの母ちゃんが、はるちゃんを説得してんだけど。


「いやーーーーーーーー、にいたんと、あーんする!」


 はるちゃんは、俺と一緒に座りたいらしい。


 困ったな。カウンター席なら3人並んで座れるけど、それじゃあとでなつが来たときに、4人で横並びじゃ話しづらいし。向かい合わせのソファー席じゃなきゃダメだ。


 あああ、しょーがねーな。ちょびっとだけ、はるちゃんの相手してやるか。なつが来るまでの間だけな!


「いいっすよ。俺、はるちゃんと寿司食います」


 俺は、はるちゃんを抱いて、席に座った。


「いいのかな? 甘えちゃってごめんね」


 なつの母ちゃんは、しゃがんで、はるちゃんの靴を脱がせてる。


 はるちゃんは、俺の首にギュッて抱きつく。


「ぱっぱ」


 はるちゃんが俺の耳のそばで言った。


「は? 何だって? もう1回、言ってみ?」


 俺は訊き返す。


「ぱっぱ! ぱっぱ!」


 はるちゃんは、デカい声出す。


 なぬ? 『パパ』だと? 俺がパパ?

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