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<第2話>おばさん、ミニスカ女子高生になる

 わたしは目を開けた。


 すぐ近くに、白のスニーカーを履いた大きな足。その下には、アスファルトの地面。私はうつ伏せに寝転んでいた。頭が痛い。目がチカチカする。


「気がついた?」


 声のする方へ、わたしはゆっくりと視線を上げた。


 グレーのズボン、紺のブレザー、斜めストライプの入った青のネクタイ。制服姿の男の子が、心配そうにわたしを見下ろしている。


 その子は中学生に見えた。でも高校生かも? 少年らしい、ひょろっとした体つき。頬のラインのぷっくりした丸みに、子どもっぽさが残っている。面長で、人の良さそうな顔をした子。


 わたしが彼くらいの年頃には、彼みたいに、背の高い男子が好みだった。顔がカッコいいよりも、すらっとして立ち姿がカッコいいかどうかが重要なんだよ! なんて、鼻息荒くして語っていたなあ。自分は、女子の平均身長よりもちっちゃいくせに。


 半分、目覚めていない頭で、めくるめく青春のプレイバックに身を任せようとした、そのとき、ふと疑問がわく。


 そもそもわたしは、なぜ地面になんて倒れている? 確か、車で娘のはるを迎えに行く途中で……そうだ! 早く行かなくちゃ、お迎えの時間に遅れちゃうよ!


「今、何時ですか?」


 わたしは、あわてて立ち上がった。


「何時って……18時19分」


 制服姿の彼は、ポケットからスマートフォンを出し、わたしに画面を見せてくれる。


 そこには、18:19と、大きく時刻が書かれていて、すぐ下には、2013/05/07と、今日の日付も表示されていた。


「ご親切にありがとうございました。わたし、 娘を迎えに行かないといけないので」


 わたしはお礼を言って帰ろうとした。


「はあ? 娘?」


 彼は、ポカーンとわたしを見ている。なぜだ? でも気にしている暇なんてない。とにかく、保育園まで急がなくちゃ。


「本当にありがとうございました」


 わたしは彼に深々と頭を下げる。そのとき、視界いっぱいに見えたものは、赤いタータンチェックのプリーツスカート。


「やだ、 何なのよ、これ」


 わたしはあわてて、両手で太ももを隠してしゃがみ込む。


 わたしは、高校生のときに履いていたような超ミニスカート姿になっていた。それもお辞儀なんてしたら、ショーツがまる見えになりそう! おばさんのミニスカ・パンチラなんか、お見せしちゃいかんよ! 頬がカッと熱くなる。 


「あの……何してんのかな」


 ポカーンとした顔で、彼がわたしを見下ろした。


「だって恥ずかしいわよ。この歳で、女子高生みたいな短いスカート履いて」


 わたしは言い返す。


「女子高生みたい? 何を言ってんだ」


 彼はなぜか、大ウケしている。


「おっ、この角度。いいんじゃない」


 彼はこちらに向かってスマートフォンを構え、シャッター音を立てる。


「ちょっと。今、わたしを撮ったでしょ」


 わたしは腹が立って恥ずかしさも忘れ、立ち上がった。相手に無断で写真を撮るなんて、本当にイマドキの子は信じられない。


「黙って撮るなんてひどいじゃない。削除してよ」


 わたしは彼に詰め寄った。


「何で怒ってんのかな。けっこうよく写ってるのに」


 彼はきょとんとした顔をした。


「ほら」


 彼はわたしの目の前にスマートフォンを突きつける。


「えっ、これ」


 画面の中に、15才のわたしがいた。


 もうすぐ36才になる現在よりも、パンパンに張ったほっぺ。その頬を赤くして、恥ずかしそうに上目遣いをしているわたし。


 茶色のセミロングヘア。20年前は、流行りの最先端だったコギャルに憧れ、わたしは髪を染めて、そのことで、母とずいぶん喧嘩した。茶髪は不良。大人はみんなそう思っていたし、田舎で髪なんて染めていたら、珍獣扱いされたもん。


 わたしは、制服の白いブラウスの胸元を大きめに開けていた。それに、紺のVネックベストを重ねて、だぶだぶにたるんだ白靴下を履いている。絶対にそう。15才のときだ。


 あの頃は、ルーズソックスが流行るちょっと前だったから、普通の白ハイソックスのゴムを抜いて、代用したんだよね。わあ、それにしても、スカートの下の太ももがむちむちだ!  


 それと、ブラウスの胸元も開けすぎでしょ! 今になって、母があの頃にわたしを叱った気持ちがよくわかるよ! ボタンを閉めなくちゃ、胸の谷間が見えちゃいそうで――


 ――いやいや、それどころじゃないでしょ!


「これって本当に、今、撮った写真なの?」


 わたしは訊いた。


「そうだよ。なかなかよく撮れてる」


 この男の子が、目の前でわたしを撮影した。その写真には、15才のわたしが写っている。ということは――

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