<第8話>謎の相手からの、RINEメッセージ
ケースケとはるがお風呂へ入っている間に、私は、気を抜いて休むことにしたの。
ちゃぶ台に頬杖をついて、壁の時計を見る。まだ21時を過ぎたところだから、片付けものは、はるを寝かせてからやればいいか。
床に置いた鞄の中で、短い電子音が鳴った。私がスマートフォンを出すと、RINEの新着メッセージが、小窓へ表示されている。
>拓途っていいます 俺のこと 覚えてますか
覚えてるかって……そもそもそんな名前の人、知らないよ。何だコイツ。開拓の『 拓 』と、途中の『 途 』。どう読むのかもわからないし。普通に読めば、『た く と』?
RINEは、知らない人から怪しいメッセージが来ることもあるし、放置だ、放置! そう思った瞬間、もう一通のメッセージが届く。
>はるちゃんの迎えは 間に合った?
娘のはるを知っているなら、私の知り合いかな。でも、『俺』って書いてあるから、ママ友じゃないし。誰?
メッセージに返事しようか……うーむ。悩む。相手が変な人だったら、あとが面倒だ。でも、もし、『拓途』という人が知り合いなら、無視しちゃまずい。
たっぷり悩んだあげく、私は、正体のわからない相手と、話してみることにした。びくびくしながら、“とーく画面”を開く。その画面を開けば、チャットや掲示板サイトみたいな感じで、相手と話ができる。
>おぉやった! 読んでくれた?
>今から 話せる?
画面上へ、次々と新着メッセージが現れる。
こちらがRINEの“とーく画面”を開いたら、相手のスマートフォンの画面に“読んだ!”というマークがついて、すぐバレるようになっているのだ。もう知らんぷりはできない。
< ごめんなさい どなたですか
私は返信する。
すると画面上に、イラストが表示された。うさぎが地団駄を踏み、泣きじゃくっている。
>海で会った
まるでうさぎが言ったみたいに、イラストの真下へメッセージが現れた。
私は、夕方に海辺で夢を見たの。私が15才の姿になって、高校生の男の子に出会った夢。今、メッセージを送ってきた相手は、まさか、あの夢で会った彼? でも、身体が15才になっちゃうなんて、現実なわけないよ。
< 本当に 海で会った人?
私はまだ完全に信じられないまま、送信する。
>じゃあ証拠 貼っとく
すぐに相手から返事がきて、その文章の下へ、写真が添付された。
その写真は、夢の中で見たのとまったく同じものだ。夕方に海で会った男の子が、15才の私をスマートフォンで撮った、あの写真。
>信じてくれた?
少し間を置いて、彼からメッセージが届く。
もし万が一、あれが夢じゃなく現実だったとしても、あの男の子とは、RINEの連絡先を交換せずに別れたはず。彼はいったいどうやって、私にメッセージを送ることができたの?




