トレジャーハンター、願いを聞いて
「って・・・えええ!?足がない!しかも浮いてる!まっ、まさか・・・」
「おや、ようやく気がつきましたか泥棒さん。はじめまして、幽霊です」
「やっぱりかあぁぁ!」
あまりの驚愕に、青年は思わず転んで地面に体を打ち付けてしまいました。
怖い化物でも恐ろしい亡霊でもない、可愛らしい幽霊は、青年の反応を見て満足そうに笑いました。
驚きました?驚きました?と期待の眼差しで青年を見つめます。それに対して、青年は初めて見た人外のモノに頭が混乱し、青ざめた顔で少女・・・幽霊を見上げました。
「お、お前は誰だ!」
「先程も申し上げたでしょう。私は幽霊です。生前はこの屋敷の主を勤めていました。幽霊になった今でも、この屋敷を見守っているのです。それはさておき、泥棒さん、あなたは何のためにここに来たのです?
返答自体では、私はあなたに呪いをかけなくてはなりません」
冷静沈着に話を進める幽霊に、青年は背中をぞくりとしたものが通りすぎるのを感じました。
まさかお宝をとったところで屋敷の主と鉢合わせになるなんて、と嘆きたくなった青年は、彼女の話を聞いて、さらに自分の運の悪さを痛感しました。今日は本当に運の悪い一日です。サンタの代わりとして働かされるわ、高価な宝石を見つけたところで幽霊に出くわすわと、いつにもなく忙しないクリスマスイブとなっています。
もしかしたら、これは神様からの天罰なのかもしれません。イブにお宝探索をする人間は、到底「良い子」には見えないでしょうから。
それに、この少女。天使のように可愛らしい顔をして、実はとても冷酷なのかもしれません。さらりと呪うと言ってきた彼女に、青年は畏怖しました。漆黒の瞳が自分のことを捉えています。
正直なことを言ったら、きっと呪われる・・・トレジャーハンターとしての本能が警鐘を鳴らしているのを、彼はひしひしと感じ取っていました。
「俺は・・・泥棒じゃない。トレジャー・・・こほん。サンタクロースだ」
「サンタクロースさん?」
こんな時だけに、青年はお爺さんを心の底から感謝しました。
もし、この屋敷に入る前にサンタクロースの代わりをしていなければ、嘘が下手な性分である彼は、必ず自分のことをトレジャーハンターだと言ってしまうでしょう。
それを言ってしまったら、呪われること間違いなしです。
目の前の少女は、予想外の発言にぱちくりと目を瞬かせ、困ったように眉をさげました。
「・・・お言葉ですが、私にはどうしてもあなたが泥棒さんとしか見えません。サンタクロースさんだという証拠はあるのですか?」
疑い深い少女に、青年は一瞬戸惑いました。ですが、自分の服装を改めて見直すと、あることに気づきました。
「もちろんだ!見ろ、この赤いジャケット!これが俺がサンタクロースである証拠だ!」
青年は自信満々と自らのジャケットを見せつけました。
れは、彼がトレジャーハンターになると決意した日、お爺さんが彼に作ってくれたジャケットです。
「サンタクロースの後継者」という意味を含めて、ジャケットは真っ赤なマゼンタで統一されています。
この外套をもらったときこそ、サンタクロースになる気はないと反発していた青年ですが、今となってはこのおんぼろなジャケットに感謝をせざるおえなくなりました。
「確かに、赤い・・・ですね。サンタクロースさんだということは間違いはないようです。疑って申し訳ございませんでした」
少女は、先ほどの殺気が嘘のように、申し訳なさそうに目を伏せました。突如として年相応の淑やかさを見せた少女に、青年は驚きを隠せませんでした。
「い、いや。俺も、こそこそしててすまなかった。余計な、誤解を、その、生んでしまったな」
やはり、嘘をつくのは苦手だ。青年はそう痛感し、この純粋な少女になるたけ目を合わせないように顔を逸らしました。
ここは、適当に誤魔化して早めに退却すべきでしょう。この少女は単純に見えて意外と鋭いみたいです。
ここに長居しすぎると、少女に彼が本当のサンタクロースだという嘘を暴かれてしまうかもしれません。
死ぬときは宝の山に顔をうずめながらあの世へ去りたい。絶対に呪い殺されたくはない・・・!そう強く願いながら、青年はなにかこの場から離れられる言い訳はないかと思考を巡らせました。
しかし、幸運の女神はどうやら舞い降りてこなかったようです。
「サンタクロースさん、この廃墟のような屋敷にわざわざ来てくださったのは、私の願いを聞いて下さるためですよね?きっとそうですよね?それ以外に考えられませんもの」
「え?」
青年は、思わず自分の耳を疑いました。願いを聞くとは一体何のはなしでしょうか。嫌な予感が青年を容赦なく襲います。しかし、ここで否定しては本末転倒です。サンタクロースの仕事は皆の夢を叶えることなのですから。
「あ、ああ。そうだ。お前の願いを叶えにやってきた。どんな願いだ?俺がすぱっと解決してやるよ」
できる限り善人っぽく振舞うことを意識して、青年は彼女に笑いかけてみました。優しい微笑みが苦手な彼の表情は、まさに硬い作り笑いです。
幸い、少女はそんなことを気にしませんでした。それよりも、願いを叶えてくれるという言葉に感激したようです。
「本当ですか!ああ、ありがとうございます、優しいサンタクロースさん!ずっとこの日を待っていました!」
出会ったときと打って変わって満面の笑みを浮かべる少女。その様子に少し罪悪感を覚えながらも、青年は黙って見過ごすことにしました。
「私はローシュタインと申します。私のお願いは一夜かけないと叶えないのです。ですから、それまでよろしくお願いしますね、サンタクロースさん!」
「俺はアランだ。その・・・よろしくな」
ぎこちない笑みをうかべながらも、青年――アランは頷きます。
こうして、一人のトレジャーハンターと幽霊の、一夜をかけたプレゼント作りが始まりました。