トレジャーハンター、狙いを定めて
「はあ・・・勢いで家を飛び出したのはいいけど・・・面倒くさかったな」
トナカイに乗って空を飛びながら、青年はため息をつきました。
手元には空になった白い大きな袋があります。どうやら彼は約束通りプレゼントを配り終えたようです。
なんだかんだ言っても、青年はいつもお爺さんの言う通りに動いてしまいます。
思春期真っ只中である彼は、お爺さんに反抗できない自分を情けなく思っていました。
「それにしても、全然お宝がなかったよな。・・・まあでも、考えてみれば分かることだ。本当にサンタクロースが必要な子供って、今じゃ孤児しかいないもんな」
そうなのです。今ではサンタクロースはすっかり普及してしまい、普通の子供たちには、彼らの父と母がサンタさんになるという習慣ができてしまったのです。お爺さんのようなサンタクロースはもう、昔のように全世界を回って、プレゼントを配らなくても良くなりました。
そんな時代のなかでのサンタさんの仕事は、サンタクロースになってくれる親のいない子供たちに、プレゼントを配るということなのです。
なので、お宝はもちろん、青年は金目なものを一つも見つけることができませんでした。
「まんまとユキの口車に乗せられたな・・・。全く徒労に終わっちまった。帰ったらぎゃふんと言わせて・・・ん?」
空中で愚痴を吐きながら町を見下ろしていると、青年は妙な建物が立っているのを見つけました。
それは周囲のボロボロの家とは違い、お城のように装飾されている屋敷でした。
赤い屋根の、レンガで型どられた屋敷です。
明らかに場違いなその建物へ、青年は好奇心を抱きながら降りてゆきます。
建物に近づくにつれ、遠目では見られなかった建物の傷が幾多も見えてきました。雑草が地面でのびのびと生えており、いかにも手入れを施されていないようでした。
「これは・・・幽霊屋敷か?」
真顔でそんなことを言いたくなるほど、屋敷は不気味な雰囲気で包まれています。まるで廃城のようです。
普通の人ならば、こんな不穏な空気に包まれた屋敷に、自ら足を踏み入れるような無謀なことはしないでしょう。
しかし、青年は違いました。なんといっても、彼はトレジャーハンター。命知らずの精神が売りである人間なのです。
「・・・お宝の匂いがするぜ。これは行かなきゃトレジャーハンター失格だな!」
ニヤリと口角を上げ、青年は屋敷を見上げました。高くそびえ立つ廃城は、月の光を受けて更に不気味さを増しています。
トレジャーハンターとしての本能が彼に伝えます。今夜はきっと大漁だと。
宝の山に埋もれる幻想を夢見ながら、青年は更に笑みを深めるのでした。
「ハレルヤ!聖なる神よ!最高のクリスマスプレゼントを用意してくれよ!」
歓喜の叫びは、聖なる夜の静寂に溶け消えてゆきました。