トレジャーハンター、サンタと化す。
遠く北にある小さな国に、サンタクロース村という村が存在しています。
村はその名の通り、優しいサンタさんが住んでいます。皆に夢を与え、希望を与えてくれるサンタさんが。
今年もサンタさんが活躍する季節がやってきました。
赤い服をなびかせ、華麗に空中をトナカイとともに舞うサンタさんのお爺さんが、今年もあなたのもとへやってきます。これはそういう物語・・・だったのですが。
「あぁ、腰が痛い、痛い。これではプレゼントを配りにいけん。可愛い孫よ、こんな可哀想な爺やの代わりに、サンタクロースになってくれるか?」
「お断りだ!そんな生ぬるい仕事、俺はやりたくねぇぞ!」
サンタさんが住むお家の中は、先程から言い合いの声ばかりが響いて止みません。言い合っている声の主は、一人のお爺さんと、その方の孫である青年です。どうやら、今年のプレゼントは誰が配りに行くか、について議論をしているようです。
「だいたい、俺はトレジャーハンターの仕事で忙しいんだ。爺さんが配りにいけよ。腰痛なんて毎日患わっているくせにピンピンしているし・・・。そもそも、サンタクロースは爺さんだろ?」
青年はため息をつきながら、お爺さんの方を冷ややかな目で見ました。
どうやらお爺さんは、都合の悪いときに腰痛を言い訳にして誤魔化す癖があるようです。
しかし、お爺さんは青年の視線に屈しません。それどころか、堂々と彼に向けて言い張りました。
「いや、今日は本当に腰の痛みが酷くてなぁ。それに、サンタクロースなんて、赤い服とトナカイがあれば誰でもなれるんだ。そんな心配はせずとも良い!」
「適当だなおい!」
青年は呆れました。呆れて絶対サンタにはならないと決心しました。
お爺さんと青年の言い合いが繰り返されます。しかし、もう時間はありません。今夜はクリスマスイブ。明日の朝までにプレゼントを配り終えないといけないのです。本来ならば、今出発しなければ間に合わないのです。
お爺さんは困り果てました。どうにかしてこの頑固な青年を言いくるめられないか考えました。
その時です。小さな女の子の言葉が、二人の言い争いを止めました。
「もう!このままじゃ埒があかないじゃない!兄さん、どうせ家にいてもニートなんだから、じっちゃんのお願いを聞いてあげてもいいじゃない!この爺不孝者!」
「爺不孝者!?おいユキ、なんだよそれ!ていうか俺はニートじゃなくてトレジャーハンターだってんだろ!」
女の子――ユキの言葉を聞いて、青年はムッと不満そうに呻きました。しかし、女の子はそんな青年に見向きをせず、更に言葉を重ねます。
「爺孝行をしたいのなら、今年は兄さんがサンタになることね!兄さんがサンタになってくれたら、じっちゃん絶対嬉しくなるよ!」
「そうだねぇ。可愛い孫が爺やのために働いてくれるかと思うと、涙が出てきてしまいそうだよ・・・ううっ。ありがとうなぁ。」
「ま、まて!なんで俺がサンタになることを前提に話を進めているんだ!?」
焦る青年に、女の子はとどめの一撃を与えました。
「街に出たら、プレゼントを配るついでに、素敵なお宝を手に入れることができるかもしれないよ?」
「お、お宝・・・・・・!」
青年が「お宝」という単語に弱いことを、彼の妹であるユキはちゃんと知っていました。
案の定、青年はお宝という言葉に釣られ、怒涛の速さでプレゼントの袋を掴み、トナカイのいる小屋へ飛び出します。
「安心しろ!俺がプレゼントを全部配り終えてやる!」
トナカイに馬乗りになって出発しようとする青年は、先ほどの言い争いが嘘のように、目が輝きで溢れていました。これは、トレジャーハンターが獲物を狙うときの目です。青年は今、プレゼントを配りにいくのを目的としていません。しかし、お爺さんとユキはそれを知りながらも、あえて黙ることにしました。
「ふぉふぉ、頑張ってこい、可愛い孫よ」
「わあ、兄さんかっこいい!頑張ってきてね!」
怠惰な態度から一転、頼もしい姿となった青年を、ユキとお爺さんは笑いを噛み締めながら見送るのでした。