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Valentia  作者: 藍原ソラ
Invierno(冬の章)
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第三話:Deseo(願い)

 ウェルチとジーナは、並んで細い道を歩いている。診療院に向うためだ。

 周囲にティオとレティシアの姿はない。レティシアが診療院への同行を申し出たからだ。

 カフェからレティシアを一人で帰すのは礼儀に反するし、同行を断る口実も浮かばず一緒に行くことになったのだが、ティオとレティシアがここまで乗り付けていた馬車は、ウェルチ達が今歩いている道を通ることは難しい。

 さすがにレティシアを歩かせるわけにはいかないと、診療院まで別行動をすることになったからだ。

 ジーナはちらりとウェルチに視線を向ける。

 その顔はとても真剣なもので、どこか凛々しさすら感じる。ウェルチが己の仕事に対して強い責任感と誇りをもっていることは知っているから、その様子も当然だろうとは思う。

 が、しかし。一応仮にも恋する乙女がそれはどうなのよ、と思ってみても、ジーナに罪はないだろう。

 レティシアはあのような物言いをしていたが、ティオに対して恋心に近い物は確実に抱いている。貴族で美人な恋敵が、想い人の傍らにいる状況なんだからもっと気にしなさいよ! と言いたい。

 そんな場合ではないのは百も承知なので口には出さないが。

 そんなことを考えるジーナの様子に気付いたウェルチは小さく笑った。

「……ジーナ、すごく難しい顔してるよ」

「え? あら、そう?」

 いつの間にかものすごいしかめ面をしていたらしい。言われてみれば、眉間が少々痛い気もする。

「……わたしのこと、心配してくれてるんだよね? ありがとう」

 何の迷いもなくさらりとそう言われて、ジーナは思わず視線をそらした。確かにそうなのだけれど、本人からそう言われると何だか気恥ずかしい。

「……何でそう思うのよ」

「だって、ジーナだもの」

 尋ねたジーナに、ウェルチは自信満々の笑顔でそう答える。

「……もちろん、二人の事が全く気にならないって言ったら嘘になるけど……。でも、さっきも少し言ったよね。考えてたことがあるって。……わたしは、ずっとあばあちゃんを見てきた。おばあちゃんみたいな薬師になるんだって思ってた」

 そう言ってウェルチは苦笑する。

「そう思いながら大きくなって、なんとか薬師として生活出来るようになって……。薬師じゃないわたしって想像できないな、と思うの」

 話をしている間に、二人は診療院に到着していた。周囲に、ティオとレティシアの姿はまだ見えない。

「それで、考えたの。……もし、わたしがティオさんに気持ちを伝えて、ティオさんもまだわたしのことを好きでいてくれたとしたら……このまま、この仕事を続けていけるのかなって」

 ウェルチの言わんとしていることを察したジーナは、表情を曇らせる。

 魔法のようによく効く薬を調合するからと『リコの森の魔女』と呼ばれ、貴族からの依頼もあるというウェルチだが、その二つ名に畏怖や侮蔑の感情が含まれていることを、ジーナもよく知っている。

 ならばウェルチを頼るなとジーナは言いたいのだが、そういう感情を持つ者に限って、都合よくウェルチを利用しようとするのだ。

 そして、いつも未来にまで思考を巡らせるウェルチは、自分の仕事がティオや、その家族に負担をかけてしまう可能性まで考えてしまったのだろう。

「わたしは、この仕事が好き。……けれど、嫌な思いをしなかったわけじゃないし、この仕事をよく思わない人がいるのも、よく知ってる」

 ティオや領主はウェルチの仕事をよく知っているし、嫌悪しているようなこともない。むしろ応援してくれている。けれど、彼らは貴族だ。その周囲が黙っていないだろう。

「……迷惑をかけるだろうなぁって思ったの」

 全部、仮定の話と言えばそうなのかもしれない。けれど、そんなことないとは気軽にも言えない。十分にあり得ることだと、ジーナは思った。

「でも、わたしはやっぱり薬師でいたい。……だから……」

「……分かったわ」

 ティオに好きだとは伝えない、もしくはティオのことは諦めると言おうとしたのだろう。ジーナはウェルチの言葉を遮った。

「……さっき、レティシア様と少しだけ話したわ。……思ってたよりいい人ね。ウェルチは、後悔しない?」

 そうとだけ尋ねると、ウェルチは柔らかく笑う。

「……ティオさんが幸せで、笑ってくれるなら、後悔はしないよ」

 それは強さと同時に儚さを感じる笑顔だった。

 遠くから、からからと馬車の車輪の音が聞こえる。それに気付いたウェルチは、小さく首を傾げた。

「あ、もうすぐ着くのかな? ティオさんとレティシア様」

 そんな姿を見たジーナは、深く重いため息をついたのだった。

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