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Valentia  作者: 藍原ソラ
Otono(秋の章)
13/26

第一話:Picnic(行楽)

 小さな国のその中でも辺境にあるこの町は、よくいえば自然豊かだが、悪くいえば田舎だ。

 そんなこの町の主な収入源は農産業。そして観光業である。

 なので秋という季節は、この町にとってはいわゆるかきいれ時となる。豊富な秋の実りや美しい紅葉を求めて、この国の都の人々は元より近隣諸国から人が集まり、いつもは静かで穏やかなこの町も雰囲気を一変させ、にぎわいを見せることとなる。

「……ありがとうございましたー」

 何種類かのハーブティーを袋に詰め、観光客に手渡したウェルチはぺこりと頭を下げる。

 これでほとんどのハーブティーは売り切れてしまった。

 どうやら今週末に紅葉が見頃を迎えるらしく、観光客の多さは最高潮を迎えているようだ。いつもならばありえないほどの人の行きかいを、ウェルチはぼんやりと眺める。

 ふいに吹いた風の冷たさに、ウェルチは一瞬身を縮こまらせた。

 だいぶ冷たい風が吹くようになってきたなぁとふと思う。この忙しい時期が終われば、いよいよ本格的に冬の準備をしなければならない。

 そのための資金や、高い薬学書を買うにはこの秋のかきいれ時の恩恵に預からなければならないけれど、今日は残りの商品ではいささか心もとない。

 客も途切れたことだし、もう店じまいをしてしまったほうがよさそうだ。

 そう思いつつ、疲れを感じて小さく息を吐くのと、馴染ある声が背後からかけられたのはほぼ同時だ。

「……忙しそうね~」

 ウェルチは苦笑しながら振り返る。そこには思っていた通りのジーナの姿があった。

「うん。この時期は一番の繁忙期だもの」

「そうよね。……毎年のことだけれど、この時期になるたび思うのよね。ここは自分の町なのか!? って。いつものカフェだって人でいっぱいなのよ」

 その感覚はウェルチにもよく分かる。この町にこんなに人がいることはこの時期くらいだから、違和感を覚えるのだ。よく見知った町並みのはずなのに、全てがどこか違うように見える。

「そうだよねぇ。普段は静かな町だから、何か変な感じがするね」

「でしょ? やっぱりそう思うわよね~。別荘に貴族も来てるから、なおさら変な感じがするわ。……そういえば、あんたって貴族のとこにも行ってるんだって?」

「うん。依頼受けてるしね。……あんまり行きたくないんだけどなぁ」

 そう言って顔を曇らせるウェルチに、ジーナは首を傾げる。

「……何で?」

「だって、緊張するんだもの」

「緊張?」

 さらに首を傾げるジーナに、ウェルチはこくんと頷いた。

「……偉い人の前だから?」

 重ねて問いかけるジーナに、ウェルチは今度は首を横に振る。

「違うの。……あの方々、お気に入りの調度品をわざわざ別荘まで持って来ているの。……何か、下手に変なところ触ると壊しちゃうんじゃないかって……。怖い」

 ウェルチの言葉にジーナは納得したように頷いた。

「ああ、なるほどね。それは緊張するわ。……っていうか、遊びに来てるのに、何で調度品なの? 何に使うのよ? 貴族サマが考えることってよく分からないわ」

 きっぱりと言い切ったジーナに、ウェルチは苦笑しつつ頷く。お気にいりの調度品を自慢したり、愛でたりしたいらしいが、その感覚はウェルチにもよく分からない。

 そもそも見せびらかすような調度品なんて持っているわけがないけれど。

「そういえば、ちょっと前に貴族サマが町を散歩しているっぽいところを見かけたけど、領主様やティオ達と違ってキラッキラして見えたわよ」

 その言い方に、ウェルチは思わず噴き出していた。

 この町の領主一家は誰一人華美な格好を好まないらしく、他の貴族たちと比べると明らかに地味な格好をしている。

 華美ではないが質の良い物を着用しているようなので、質素ということはないはずだが、彼らが貴族としては珍しい部類に入ることは確かだ。

 領主夫人が元々は町娘であるためか、かなりの頻度で町を歩き、気さくに話しかける領主一家は、町民たちからは好意的に受け入れられているが、貴族内では異色の存在なのだろう。

「……それにしても、いつものカフェ人でいっぱいなんだよね? ……これからどうしよう?」

「そうねぇ……」

 いつものカフェが入れないとなるとどうしようと唸る二人に、聞き覚えのある声が呼びかける。

「あ、ウェルチ! ジーナ!」

 明るい青年の声に、ウェルチはくるりと振り返った。

「ティオさん」

 この町の領主の三男坊が笑顔を浮かべて、小走りに近づいてくる。その姿を見て、ウェルチはふわりと笑みを浮かべた。

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