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   二人だけの生き残り

 少しでも落ち着かせようと、いずみは水月の背を撫でながら青年を見上げた。

 真冬の凍りついた湖のような青年の瞳が、スッと細くなる。


「お前が久遠の花……若いな。年はいくつだ?」


「……十四になります」


「まだ子供だな。お前のような半人前が、不老不死の秘薬を作れるとは思えんな」


 不老不死の秘薬。

 その言葉にいずみは息を呑む。


(不老不死が目的――そんな方法なんて、ある訳ないのに……)


 あくまでそれは久遠の花の伝説に過ぎない。

 大昔はそれを信じた者たちに襲われた事はあったらしいが、時代が進み、今はそんな伝説を鵜呑みにする人間はほとんどいなくなっている。


 自分でも、他の久遠の花でも無理な話。

 けれど無理だと言った瞬間、青年の剣は容赦なく自分たちを斬り刻むだろう。


 水月を生かすために、否定することはできなかった。


「私は物心ついた頃から久遠の花のすべてを学びました。……不老不死の術も知っています」


 嘘だと分かっていても、言い切るしかない。

 いずみが揺らがぬ視線を送り続けていると、青年がおもむろに剣を鞘に収めた。


「もう久遠の花はお前しか残っていない。贅沢は言っていられない、か」


 青年の呟きに、いずみの目が潤みそうになる。


 少なくとも彼らは久遠の花を殺す気はない。

 だから久遠の花は自決したか、守り葉の身内や子供を庇おうとして斬られたか。二つに一つしか考えられない。


 そうなったのだろうと頭では理解していたが、その事実を聞きたくなかった。

 いっそ何も感じられないほど狂ってしまえば、どれだけ楽になれるだろう。


 そんなことを思いながら、いずみはふと違和感を覚える。


(どうして私が久遠の花の唯一の生き残りだと言い切れるの? この人たちは久遠の花の全員の顔を知っていたというの?)


 誰かが自分たちのことを彼らに教えていた。そう考えなければ説明がつかない。


 でも一体、誰が、何の目的で?

 一族の人間が口を割ることはないだろうし、数少ない里へ出入りしていた商人たちも、自分たちがいなければ商売が成り立たない。

 それに何人かは一族の人間と結ばれて久遠の花になり親類となっている。家族を売ることなどできないハズ。


 もし脅されて渋々彼らに情報を売っていたとしても、商人たちは守り葉の毒がどんな物なのか、詳しくは知らされていない。

 だから商人たちが犯人なら、彼らが守り葉の多様な毒にすべて抗うことなどできないはず。毒が効かないということはあり得ないのだ。


 ということは、一族の誰かが裏切った……でも――。

 いずみが目まぐるしく頭を働かせていると、いつの間にか追手たちが集まり、周りを取り囲んでいた。


 青年は瞳だけを動かして周囲を見渡すと、鋭く踵を返した。


「もうここに用はない、行くぞ。その娘と小僧は絶対に逃すな。……逃せばこの場にいる全員の命、ないと思え」


 動揺に揺れた声で「分かりました」と追手たちは口にする。

 青年の言葉が大げさなものではなく、変えようのない事実なのだと物語っていた。


 乱暴に二人の男から腕を捕まれ、いずみと水月は無理矢理立たされる。

 ギュッと唇を噛みながら、いずみは彼らを交互に見た。


「私は逃げませんから、どうか離して下さい」


「駄目だ。そんなことを言って隙を作って逃げる気だろ」


「ではせめて、片方の腕だけ離してくれませんか?」


 いずみはチラリと水月を見やる。


「せめて彼と手を繋がせて下さい……お願いします」


 男たちが顔を見合わせ、「どうする?」と囁き合う。

 二、三、言葉を交わしてから、左腕を掴んでいた男が手を離した。


 自力で立てず、男たちに引きずられそうになっていた水月へ、いずみは手を伸ばす。


 土に汚れた彼の手を握り込むと、いずみはぎこちなく微笑んだ。


「水月、安心して。絶対に貴方を死なせはしないから」


「……い、ずみ」


 赤く腫れぼったくなった水月の目が、力なくいずみに向けられる。


 ほの暗い絶望の色に染まっていた瞳へ、徐々に光が灯り始める。

 水月は袖で涙を拭うと、いずみの手を強く握り返した。


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