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南風通信  作者: 南 晶
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日本に生まれて良かった!

 我が家の朝はパン食である。

『ご飯に味噌汁』という日本の伝統的朝食メニューを、私は作った事がない。

 朝っぱらからそのメニューはヘビーだと思うし、第一、私は味噌汁が好きでない。

 定食を頼んだ時に出てくる味噌汁は普通に飲むけれど、わざわざ自分で作ってまで飲もうとは思わないですね。

 私が日本を何年離れようと、味噌汁が懐かしくなる事は絶対ないと思う。

 実際、我が家の冷蔵庫に味噌がある事は稀である。

 

 そう言う訳で、我が家ではパンを常備しているのだが、息子の歯が抜け始めたこの何年か、食パンではなく丸い形のロールパン的なものを食べるようになった。

 ところどころ空白のある息子の歯には、トーストした耳の部分は硬くて食べられないらしく、いつも残してしまうのだ。

 それ故、最近の我が家の朝食はロールパンなのであるが、一口にロールパンと言っても、これが多種多様である。

 パンの中にマーガリンが仕込まれているものやら、卵やツナが入っている惣菜パン的なものやら。

 一袋6個くらい入って158円だったら、これはお得だと思う。

 これが食パンだったら、8枚切り98円で家族四人で2日分あるので、それに比べたら割高ではあるが、まあ、そこまで拘るのは主婦層だけだろう。

 

 日本のパンは、実は世界的にもおいしいのだと誰かに聞いたことがある。

 言われてみれば、私の僅かな海外旅行経験の中で食べた異国のパンは、どれも日本のスーパーで売っている食パンほどもおいしくなかった。

 日本のパンほどの『しっとりモチモチ感』がないのである。

 これはパンの製造のみならず、その包装過程にまで細かい配慮がされ、いかに出来立ての状態でお客様の食卓に届けるかに全力投球しているメーカーの職人魂の表れであろう。

 そんな世界的にもハイレベルのパンをスーパーで一袋158円で購入する事ができるなんて、日本に生まれて本当に良かったと思う次第である。

 

 スーパーで売ってるどんなパンも概ねおいしいのであるが、中でもお気に入りはPASCOというメーカーの『白い食卓ロール』。

 素朴な手作り風ロールパンなのだが、柔らかさが尋常ではない。

 中はモチモチしていて質量感がある。

 これを食べる時にいつも思い出すのが、私が子供の頃に一世を風靡した伝説のアニメ『アルプスの少女ハイジ』である。


『アルプスの少女ハイジ』とは、国民的名作アニメであるので、今更、私がここで解説する必要はないと思うが、かの宮崎駿氏の代表作品であり、日曜日の夜7時半というゴールデンタイムに放映されていた『世界名作劇場シリーズ』の代表作品だ。

 と、思って、今何気に調べてみたら、初回放送が1974年だって。

 私がテレビで観た時は既に再放送だったのだろう。

 今から約40年前の当時、既に現役バリバリだった宮崎駿氏。

 最近、引退宣言をされていたが、考えてみれば、年齢的にも無理からぬ事であろう。

 

 この『ハイジ』、名作であるが故に再放送のリピート率も高く、私が高校になってからも夕方の4時くらいに放映されていた記憶もある。

 初回放送から20年も再放送されているなんて『トムとジェリー』に勝るとも劣らないヘビーローテーションだ。

 さすがの宮崎アニメ、とにかくクオリティが高い。

 ハイジの無邪気な笑顔、強面だけど本当は優しいおじいさん、素朴な田舎っぺ大将のペーター等、登場人物が皆、表情豊かで個性的、特に風景の美しさは素晴らしかった。

 子供だった私は、まだ見ぬアルプスに思いを馳せたものである。

 小学校の時に「行ってみたい国は?」と聞かれて、私を含めて大半の女の子が「スイス!」と答えたのは間違いなくこのアニメの影響だった。

 こんなハイクオリティなアニメを毎週地上波で普通に観ていたんだから、日本に生まれて本当に良かったと痛感してしまう。

 

 話が逸れましたが、その『ハイジ』で、彼女がドイツに連れて行かれてクララの家で住み込みを始めた時、食卓に出て来た真っ白なロールパンをポケットに詰め込み、衣裳箪笥の中にしまい込むというエピソードがあった。

 仲良しだったペーターのおばあさんが「黒パンは硬くて年寄りには辛いよ」と嘆いていた事を思い出したハイジは、お金持ちのクララの家で初めて食べた白いパンに感動して、「これをおばあさんに持って帰ってあげよう」と食事の度にポケットに詰め込んで衣裳箪笥の引き出しに隠しておくのだ。

 その白いパンが本当に美味しそうで、子供だった私も「ドイツのお金持ちのパンはあんなに白くて柔らかいんだ」と想像を膨らませたものである。

 

 その私の憧れだった『ドイツのお金持ちの食卓に出てくる真っ白いロールパン』が、スーパーで買ってくる『白い食卓ロール』に激似なのである。

 クララくらいの富裕層の間でしか食べられなかった白パンが、愛知県の田舎のスーパーで158円で購入できるなんて……。

 ここでも、私は自分が日本人であった事に感謝してしまうのだ。


 最近、パンが少しブームになっているらしい。

 うちの近所でも『石窯焼き』だの『ドイツ風』だのを売りにしたパン屋さんが、突然増え始めた。

 そういう自家製パン屋さんで、雑誌にも紹介されたという地元じゃちょっと有名らしい本場ドイツ風パン屋さんがあって、友人に連れられて一度買いに行った事がある。

 ドイツ人のリピーターがいるという噂の名物パンを試しに買ってみたのだ。

 で、結果はと言えば。

 皆、「本場ドイツ」という触れ込みにマインドコントロールされているんじゃないか?

『裸の王様』みたいに、「これをおいしいと言わなければ、本場の味が分からない田舎者だって言われるかも」って考えて、美味しがってるフリをしてるんじゃないだろうか?

 本物のありがたみの分からない私は、率直にそう思ってしまったのだ。

 まあ、端的に言えば、おいしくなかった。


 天然酵母だか何だかを使った自然派素材のありがたいパンらしいのだが、何となくカビ臭いというか、クセのある匂いがまず鼻についた。

 そして、硬いのである。

 それを歯ごたえと言えばそうなんだけど、噛んでるうちに顎が疲れてくる程のレベルである。

 そして、それはまさしく、ペーターのおばあさんが「年寄りには辛い」と言っていた黒パンの方なのだ。

 ドイツ人のリピーターが多いというのは、恐らくドイツでは今でも普通のパンと言えば『黒パン』の方で食べ慣れたそっちの方が懐かしくなるからではないだろうか?

 人間、異国に行けば、いつも食べ慣れた味を求めるものだ。

  

 スイスの中でもかなりの貧困層だと思われるペーターの家で食されていた黒パンが、外観のオシャレな愛知県のパン屋さんで買うと何と700円。

 一方、クララの家でハイジがテーブルからパクってまで持ち帰ろうとしたあの白パンが、スーパーで一袋158円。

 これを知ったら、貧乏なペーターはヤギ飼いを辞めて、パン職人を始めちゃうかもしれない。


 日本に生まれて本当に良かったと再認識する今日この頃なのである。



黒パンは、ヤギの乳のチーズを暖炉で炙って載せて食べるのがベストだと思います。

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