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南風通信  作者: 南 晶
18/31

『学研の科学』にまつわるイタイお話

 何度かこのエッセイにも登場する息子の夏休みが残り少なくなってきている。


 親としては一番心配なのが夏休みの宿題、特に『自由研究』と『読書感想文』は自分が子供の頃から頭の痛い課題だった。

 子供の頃から理数系科目が苦手だった私は、この自由研究の宿題には非常に悩まされた。

 そもそも、『研究』するからには、何かについて『疑問』を持たなけらばならない。

『疑問』を持った事柄を立証するために『研究』し、その『結果』をまとめるのが、自由研究の正しい姿である筈だ。

 しかし、悲しいかな、文系の人間である私は、想定の範囲外の事に対して『疑問』を持たない。

 物理で「30度の斜面を50gのボールが落ちる時のエネルギーをベクトルを使って云々」みたいな問題があっても、一番先に感じるのは「なんでそんな事知りたいんだろう?」という疑問だけなのである。

 知らない事を聞けば事実として受け入れるが、そこに疑問を感じて「自分で立証してやろう!」という発想には至らないのだ。

 だって、そんな事考えたってしょうがないじゃん?

 多分、多くの文系の人はそう考えるだろう。

 

 まあ、一般論はさておき、私は常にそういう姿勢の子供だったから、自由に研究しろと言われても題材がない。

 それ故、毎年、この自由研究が苦痛で仕方なかった。

 

 そんなある年、夏休みの終わりになって切羽詰まった私は、苦し紛れに「リトマス試験紙を使った酸性・アルカリ性の実験」をやってみた。

 理由は一日で終わるからである。

 ところが、実験をやってみてから、実験に使ったソースも醤油もケチャップも元の色が濃すぎて、リトマス試験紙の色が分からない事が判明してしまった。

 そりゃ、あんな薄い紙にソースかけたら、大抵、黒くなるよね。

 浅はかだった私は、失敗する可能性を全く考慮していなかったのだ。

 その時既に夏休みは終盤で、他の事をする時間もなく、困った私は、当時、定期購読していた『学研の科学』を参考にする事にした。

 今からざっと32年前、小学校3年生の時の話である。


『学研の科学』『学研の学習』は、その当時、多くの子供が定期購読していた読み物である。

「まだかな、まだかな~、学研のオバサンまだかな~」のCMソングは、昭和生まれの人なら誰でも一度は聞いたことがあるだろう。

 そのCMの謳い文句どおり、毎月月末になると、販売員のオバサンが自宅までわざわざ持ってきてくれるのである。

(注:一度引っ越してからは郵送されるようになったので、販売ルートには地域差があったかもしれません)

 この学研シリーズは理数系の読み物の『科学』と文系の読み物の『学習』があったのだが、完全文系人間だった私なのに『科学』の方を購読していた。

 理由は、その当時『科学』の方で連載していた星占いのマンガが目当てだったからである。

 

 だが、この『学研の科学』、思い起こせば素晴らしい教材で、賢い子供の知的好奇心をくすぐる実験や、学校の教科書に沿ったテスト問題、科学を題材にしたマンガや、私が楽しみにしていた少女向け占いコーナーなど、非常に盛り沢山な内容の雑誌であった。

 特記すべきは、毎月付いて来る付録である。

『日光写真』とか『カブトエビ飼育セット』『プランクトン飼育セット』『風見鶏』などなど、大人がやってみても興味深い付録が毎月雑誌と一緒にくる。

 私が一番印象に残っている付録は、『シーモンスター(?)飼育セット』で、プランクトンサイズの小エビの乾燥卵を付随しているプラスチック容器に水と一緒に入れると、それが孵化して生体を観察できるというものだった。

 付録に餌もついていたので、しばらくは飼育していたが、このエサが無くなると何をやったらいいのか分からない。

 父親に相談したところ、所詮はプランクトンであるのでどこに捨てても大丈夫だと言われ、マンホールの穴に流してしまった。

 本当に大丈夫だったかどうかは、今でも分からない。

 同じく始末に困った友人は、飼っていた金魚の水槽に入れて共存させようとしたが、次の日には金魚達の餌となって絶滅していたという。


 まあ、そんな訳で『学研の科学』は宿題に困った子供達の強い味方だった。

 しかも、夏休み特集として8月号には『自由研究の模範例』がたくさん掲載されていた。

 正直に言おう。

 切羽詰まった私は、自由研究をその模範例の中からパクる事にしたのだ。


 私がパクろうとしたのは、優秀作品の中の「セミの鳴く時間帯調べ」なる研究だった。

 大きな紙一杯に円グラフを描き、一日の内でどの時間帯にはクマゼミが鳴き、どの時間帯ではアブラゼミが鳴いているか、みたいな研究で、私に言わせれば「そんな事グラフ化しなくても分かり切っている」面白くもない内容だったが、一日で終了する事が決定打になった。

 一週間掛けて「餅のカビの生え方調べ」をする時間は、もう私には残されていなかったからである。


 その日、私は『学研の科学』を参考にしながら、「午前中はクマゼミ、昼からはアブラゼミ、夕方からはヒグラシ、お盆過ぎたらツクツクホーシ」という円グラフをセミのイラスト付きで完成させ、何とか9月1日の新学期に提出する事ができた。

 正直に言おう。

 もう、ほとんどそのまんまである。

 それはグラフから研究結果からイラストまで、パクリというより模写に近い、ある意味、非常に完成度の高い作品になってしまったのだ。


 その結果、私の作品はクラスの中で「優秀賞」を取ってしまい、そのグラフは9月いっぱい「優秀作品」として体育館に掲示されるハメになった。

 先に言った通り、『学研の科学』は当時の多くの子供が定期購読している科学雑誌だ。

 私の作品を見れば、「あ、これ、科学のパクリだ!」と誰でも一目瞭然なのである。


 それが優秀作品として全校生徒の前で9月いっぱい掲示される・・・。

 もはや公開処刑である。

 作品が掲示されている一ヶ月間、私が体育館に行けなかったのは言うまでもない。



 因みにこの『学研の科学』今は絶版になっているらしい。

 それが少子化の影響である事は間違いないだろう。

 思えば、私達は第二次ベビーブーム世代と呼ばれる年齢層で、当時はどこに行っても子供だらけだった。

 今も我が息子に読ませたい本ナンバーワンなのですが、残念です。

 

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