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続いてコーディオン視点です。
やっぱり王視点のほうが多くなりそうです。
3の最後すこし変えています(たいした変化ではないけど)。
おとといに見られた人は、ちらっと見なおしてくださればうれしいです。
コーディオンが王妃の部屋に入って気がついたのは、自分が独自で張った結界に大きな穴が空いているのと、大きな魔術を使用した痕跡、部屋中に充満した彼女の魔力の残滓だった。
この部屋には腕によりをかけて、特定の人物以外侵入防止、彼女の退出感知、ある種の魔術無効、魔力調整、防音、空調など様々な術を混合させた結界を張っていた。
その結界が破るまではいかないが、人がかろうじて通れるぐらいの穴があいている。
そして、部屋の床に散らばる魔術を使用した痕跡。
転移系なのはすぐにわかったが、ただの転移でないことを彼は見抜いていた。
それは彼が歴代の王族の中でもとびぬけて膨大な魔力を有していたのと、王族や大貴族だけが見れる禁書の存在を知っており彼自身それを読破していたからだ。
「異世界に転移しましたか」
彼女が自分の腕からするりと抜け出してしまったことに、激しい喪失感と絶望感で一杯になる。
気が付いたら部屋に渦巻き状の小さな竜巻が4つほど発生し、部屋にあった小物や置物はおろか机、ベッドまでその渦中で回っている。
それは無意識に放出したコーディオンの魔力が起こしたものだった。
彼女が自分のそばにいない?ありえない。
もう彼女を知らなかった頃には戻れない。あの極上の気を味わってしまったからには。
『わたしから彼女を取り上げるというならその悲しみで、ついうっかりあなた方の領地に魔術を落としてしまうかもしれませんね。正直、自分で魔力をコントロールできる自信ありませんから』
コーディオンが彼女を王妃にすることを頭のかたい貴族たちに脅したこの言葉は、何も誇大な発言ではなかった。それどころか近いうちに飢餓状態になり自己崩壊し、それこそ究極の魔術を大放出して国半分ほど消滅させてしまう危険すら否定できなかった。
魔力には精神面でのコントロールが大切である。コーディオンにしてもエドワールにしても持っている力が膨大であるだけに、幼い時から自我を抑制したり精神面を鍛えたりしていた。そうしないと周りに魔力を放出させてモノを壊したりしかねないからだ。
歴史の中でも魔術をコントロールできなくて村一つ消滅させた王や、王宮をぶちこわした王族など数多く記録されている。
「これほどソウカに魂を奪われているとは、自分でも思っていませんでしたよ」
コーディオンは自嘲的な笑いをこぼす。
両手を翳しながら、意識して荒ぶる自分の感情を鎮めることにした。
ドスン!
バリン!
そこら中で様々な音が響き渡る。
空で回っていた机やベッドが下に落ちた音、さらに花瓶やガラスの落下に耐えれず木端微塵に割れる音などだ。
コーディオンはその音に気にかけることもなく、そっと腰を落として床に残る魔術の痕跡に手を触れる。
その時にかすかに第三者の魔力・・・それもよく見知った魔力を感じて一瞬にて身体中の血が沸き起こる。
今度は音もたたずに、その部屋にあった物すべてが木端微塵に粉末化した。
「甘みを感じさせなくするだけでは物足りなかったようですね、エド」
コーディオンは結界に空いた穴にこの時初めて視線を向けた。
そこには蒼白な表情をした幼馴染みや家臣や侍女たちが何人もこちらを窺っている。しかし、コーディオンが視線を送るのはいま感じ取った魔力の主であるエドワールだけだ。
「さて。どういう事なのか、きちんと教えて頂きましょうか?事の次第によってはこの世に生まれていたことを延々と後悔させてあげますよ。ええ。一瞬で楽になどさせてあげませんからご安心くださいね、ヒロペンサー公爵」
高ぶる気持ちを落ち着かせるためにあえてゆっくりとした口調で問いかける。言い逃れは許さないために普段はエドと愛称で呼ぶところを公爵名で呼んだ。
それに対して、エドワールは額に汗を流しながら唾を飲み込む。
眼の前の幼馴染みである主君が今までの付き合いで、本気であることを悟ったからだ。
このままだと、本当に死にたいと叫びたくなるほど拷問される。やばい。
思っていた以上の身の危険を感じる事態ではあるが、王に問い詰められることは予測していたために、きちんと言い訳と対策を練っていたエドワールは慎重に言葉を選びながら説明をした。
「お・・・王妃からの愛の試練でございます。あの方は魔術師として名を馳せられたお方です。昔から自分が嫁ぐのは自分より魔術の優れた者か、他の分野であっても自分を凌駕できるほどの者と、部下につねづね言っておられたとお聞きします。それに王妃となる以上、王族の秘伝の術で今は失われてしまった『異世界への渡り』を取得しなければとお考えのようで、寝る暇を惜しんで研究を続けておられました。それを習得した今、今度は陛下にそれを習得できるよう望んでおられるのだと思われます」
この言葉を当の本人であるソウカが聞くと、発狂したかと思えるほどの奇声をあげてエドワールに半死上等の高度魔術をしかけていたであろう。
確かに彼女は『私より魔術が使えない者など、男として認めないわよ』と言い寄る部下たちを一掃していた。だが、この世で唯一その条件に当てはまる相手が、この性格破綻者であると知った今ではそれを撤回している。それに、本気で逃げる為の異世界トリップであって王妃になるためでも、王に追ってほしいからでもない!と声高々に主張したいところだろう。
だが不幸な事か幸いな事か、その場にいないためにそんなソウカの本音を耳にする者は今ここではいなかった。
「なるほど、そうでしたか。さすがですね。やはり貴女以外に私の妃はありえませんよ、ソウカ。その愛の試練、受けて立ちましょう!」
王の背中から闘志の炎がメラメラと見えている家臣たちは、内心で無理やり王妃にさせられる彼女に憐憫の気持ちを持った。
どうか、諦めてください。ソウカ様。
貴女が王を鎮めてくださらないと、われわれが今の貴女の部屋のように粉末状にされてしまいそうです。
わが身がそれほどかわいいのか!生贄にするな!と言う貴女の慨嘆が聞こえてきそうです。その叱咤は甘んじてお受けいたします。
これはその場にいた家臣の1人の心の中の独り言である。
王はエドワール以外の家臣、侍女たちに王妃の体調不良により戴冠式の延期の通達を手配するように指示を与える。そして、残されたエドワールを粉まみれになった王妃の部屋に手招きする。
おそるおそる足を踏み入れたエドワールに、すばやく手をのばしおなじみの術をかける。『味覚変換』である。
「お・・・おまえっ!」
「エドがソウカに手を貸したことは別です。異世界に跳んでしまうと無数の星から探し出さなければいけなくなります。それを承知だったのに手を貸したのでしょう。覚悟しなさい」
コーディオンはうっすらと笑いながら手をエドワールに翳す。今回のことは『味覚変換』だけで済ますつもりはない。探し出すのはコーディオンにとって必須のことであるが、それでもすぐにできることではないからだ。
禁書を読破した彼は異世界の状況を理解していた。
まるで、空に浮かぶ星のように存在する異世界。その中から彼女がいる場所を見つけ出すのはあまりにも無謀である。
諦めるつもりはないがかなりの時間を有することは確かだろう。それだけ彼女がこの腕にいない時間を過ごさなければいけないのだ。その手伝いをした幼馴染みを到底許せるものではない。
「さあ、どうしてあげましょうか?甘い物だけでなくすべて激辛にしてしまいましょうか?それとも、氷漬けになりますか?なんなら男に反応してしまう身体にしちゃいましょうか?どんな罰がお好みですか?」
「まっ・・・まて!あ、慌てるな!きちんと目印を付けておいた。だから激辛も氷漬けも男色も勘弁してくれ!」
そう言ってエドワールが術をかける。それを見て、コーディオンは安堵のため息をひとつ吐いた。
「なるほど。彼女に目印をつけましたか。これなら確かにすぐに迎えにいけそうです。『異世界転移』も彼女のこの術の痕跡を見れば容易に取得できるでしょう。ですが、それだけでは彼女に認めさせるには足りませんね。この際だから時間をいじれるように工夫しましょう。そうすれば彼女も私を男として認めて愛してくれるでしょう」
こうして、王としての仕事をエドワールにおしつけて2週間自室で魔術研究に励み、連日徹夜の末に時間軸をいじることのできる『異世界転移』を取得した。
「では、いってまいります。なに、すぐに戻ってまいりますのでご安心ください」
「おい、こらまて。さっさとこの『味覚変換』解いてくれ。お前じゃあないけど、魔力が暴走しそうだ」
最愛の妻を迎えに行こうとしたコーディオンを、眼の下にクマを作ったエドワールが目を真っ赤にさせて止める。連日の王代理の激務に加えて、甘いもの禁断症で体調がおかしくなっているのだ。
「いやです。人の妻にマーキングしといてそれだけで許されるのです。エドでなければ抹殺してたところですよ」
魔術で目印をつけたことは、コーディオンの独占欲を刺激してしまった。たとえ必要な事であってもだ。
「ああ。あと、エドの部屋にあったソウカお手製の魔器は没収しましたので」
「なっ!ひど!」
「当然でしょう。私ですらソウカから贈り物を頂いたこともないのに。それも彼女の魔力がこもったものを他の男に渡せるはずありませんよ」
人でなし!鬼畜~!
そう言う声が聞こえてきたよう感じるが、もうすでにコーディオンは『異世界転移』の術をかけており、彼の頭の中も彼女がいるであろう異世界のことしか存在してなかった。
誤字報告お待ちしています。
見直しているつもりですが、けっこうあるみたいで^^;
あ、もちろん、感想もお待ちしています。