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「さ~て。村でもさ~がそっと」


 手を軽くかざすと右斜め横から人の気配を感知する。

 そちらに方向に手を向ける。

 すると、頭の中に無数の風景と人の話声が飛び込んできた。

 さすがに知らない言葉なんだ。

 ソウカはおもむろにかざした手の中指を一振る。

 途端に聞こえていた雑音が意味のあるものに変化する。

 内容はだれそれさんの家で子牛が生まれただの、今年は豊作だの、祭りは天気だの、小さな子供たちの笑い声など。


「ラッキー。私にうってつけののどかな村じゃん。そうよ、そうよ。私はこれを求めていたのよ。ビバ異世界トリップ!」


 ソウカは何度目になるかわからない雄たけびをあげた。




 もし、ここに部下の誰かが1人でもいれば全身で否定していただろう。特に一番被害を被っていたブルーランスが聞いていたら悲痛な顔でこう叫んでいたはずだ。


『ボスの辞書にのどかや平穏などという言葉は存在しませんよ~!トラブルメーカーって自覚ないのですか~?』


 だが、それはIFの場合であって、現実は異なるのでそんな風に突っ込む者は存在しなかった。




 ふ~。気持ちがいい。

 変態がいない世界ってだけで空気までおいしく感じるわ。あの、ふたりっきりでこもってた部屋の空気のまずいこと。彼の体臭からソウカだけに効く毒が発せられているのではと勘繰ってしまう。


 ソウカはうきうき気分のままその場を後にした。そして軽い足運びで村まで飛ぶ。

 風の術を使用したので、走る何倍もの速度で到着する事ができた。






 この世界に来て二週間。ソウカは小さな村の宿で占い師兼、吟遊詩人、たま~に給仕という感じで住み込みで働かせてもらっていた。

 魔術を使うことも考えたけど、ここの魔術環境がよくわからないのでしばらくは様子見という形にした。せっかく見つけた村で魔術を使用して追い出されるわけにもいかないからだ。

 最初にみた通り、100人いるかいないかというぐらいの辺境の村で、食糧はほぼ自給自足ののどかな村。ただ、大きな街と街の間に挟まれているので人通りは多いようだ。

 初めてあった宿の女主人にお金がないと伝える。すると大きな腹を叩き豪快に笑いながら、


『あんた、素直だね。気にいったよ。その無謀なところが。じゃあこうしよう。ここの従業員の小部屋が一つ空いているからそこに寝泊まりして、忙しい時だけ給仕してちょうだいな。占いができるんだろ?それなら客足が少ない時に食堂の一角で占いしてもいいからさ』


 そう言ってくれたのでその言葉に甘えることにした。

 女主人の優しさが嬉しかったので、お礼もこめて歌を披露するとびっくりしたように目を丸くする。


『あんた、吟遊詩人だったのかい?聞いたことない歌だったけど、時たまくる吟遊詩人たちよりよっぽど上手いじゃあないか』


 その言葉にのせられて、結局食堂でたびたび歌を披露する羽目になった。

 客足が大きく伸び、ほぼ毎日満室状態になると上機嫌な女主人が奮発してお古の服をソウカ用に直してくれた。


『あたしの昔の一張羅を手直ししたんだ。大事に使っておくれ』


 これと比べ物にならないほど豪華なドレスを毎日強制的に着せられていた。しかしその何倍、何十倍もこの贈り物のほうがソウカの気持ちを震わせた。

 さっそく与えられた部屋で着替えて鏡で姿をみる。

 

 淡い色のレースのついたすこしシックなドレスである。すそは長いが両肩がむき出しになる形をしていた。


 本当に大好きな形だわ。ちょっと露出が多いのはたまにキズだけど。


 初めて着る形なのでへんに外気を感じてしまう。

 昔は独占欲の塊の元夫のせいで、こんな形のドレスを用意してもらえなかったからだ。


 まあ、これで宿も儲かるならいいけど。でも、やつが知ったら激怒するだろうな。


 思わず、二度と会いたくない奴を思い出してしまい頭を盛大に振る。


 ああ。いけない、いけない。変態を思い出すところだった。思い出してしまうと、このむき出しの二の腕が醜いチキン肌になってしまう。


「ブル、ヤト、ラアチ、ダイジュ・・・」


 冷静になる呪文として部下の名前を、誰も聞き取れないほどの小さく呟いていく。

 その時だった。


「ああ。やはり抹殺するべきでしたね。貴女の可愛らしい口からこぼれるのが他の男の名前など・・」


 美しい誰もが聞き惚れるような艶のあるテノール。

 だが、ソウカには悪魔のささやきにしか聞こえない。

 一瞬でむき出しの二の腕がチキン真っ青の肌になる。


 ひぃ・・・。


「それに、その姿。私以外に見た人がいるのですか?そんな瞳は一つ残らずえぐり取ってしまいましょう」


 ひぇえ~。


 その物騒極まりない声の主を嫌っというほどわかっている。だが、認めたくないソウカはその方へ振り向くことができない。


「おや、せっかく迎えにきた夫をその口で歓迎してくれないのですか?仕方ないですね。それなら身体で歓迎してもらいましょう」

「ちょ!いきなりそれ?!」


 思わず振りむいてしまった。

 そこに予想通りの目を思わずつぶってしまいたいほどキラキラ光っている美形の青年が、色気たっぷりの表情でこちらを楽しそうにのぞいていた。

 美しい白金色のストレートの髪。括ることもせずに広がっているせいで余計にチカチカ視界に入ってくる。

 絶妙なバランスで配置された輪郭に眼、鼻、口などのパーツ。

 嫌味なほど長い繰り上がったまつ毛の下は青い宝石のような切れ長の瞳。

 加えて平均よりすこし低めの身長であるソウカと違い、男性の平均をはるかに超えるほどの長身。ソウカの胸ぐらいのところまで長ったらしい足がある。

 少しゆったりめの羽織るような服装であるために男性にしては華奢な印象を持ちやすいが、彼が十分に鍛え上げられた肉体を持つことをソウカは嫌というほど分かっていた。というか強制的に自分の身体に教え込まれていた。

 けっして女性的ではなく、男性の美を追求したような姿をしていた。

 100人の女性が見れば99人ともがその美貌を褒め称え、見惚れることだろう。ソウカがその100分の1だったのは言うまでもない。


「ソウカも本当に照れ屋ですね。新婚旅行がそんなにしたかったのですか。本当に気がつかなくて申し訳ございません」

「ちっ・・・!」 


 ちゃうわい、ぼけ!

 思わずそう言いそうになったのに、目の前の鬼畜が気配を感じさせないほど静かにソウカの頬に手を添えてきた。

 野兎を追い詰める野獣のような爛々とした輝きが視界一杯に広がる。

 そして至近距離で顔を覗き込まれる。


「そうですよね?違うっていうならエドも貴女の部下どもも、この村も、そして途中で会ったトカゲも消滅してしまいましょうね」


 なにっ!

 エドって自分の幼馴染みでしょ?

 それにこの村って、ここで大魔術放出させる気かい!

 ・・・最後のトカゲはいいとして。


「どうなんです?」


 にこりと艶やかに笑いかけられて、ソウカはそうそうに白旗をあげた。


「・・・はい。ソノトオリデス」

「それはよかった。本当、私の妃は欲張りですね。あえてだれもいないこんな異世界にトリップするなど。これなら時間軸を自由にいじれそうなので1週間と言わず、1ヶ月でも2ヶ月でもここで二人っきりで甘い蜜月を過ごせますね」


 い・・・いやだぁ~!

 それになに?時間軸を自由にいじれそう?

 ソウカにしたら死ぬ気で研究してこの異世界トリップの術を取得したのに、それを超える術をあっさりと組み出したっての?


 メラメラと魔術師としての嫉妬心が沸き起こってくる。


「・・・滅」


 ほとんど無意識に、巨大モンスターですら即死を与えることができる術を口にしていた。

 だが、憎き男は空で手をぐるっと回しただけでその術を防いでしまう。


 こ・・・こんちくしょ~!魔王め!


「貴女の愛の試練を乗り越えるのに時間かかったから怒っているのでしょう?本当にこんなに遅くなってすみません」


 はぁ?愛の試練?


 なんだろう。同じ言葉を話しているはずなのに雑音にしか聞こえない。解読の術をかけたら意味が理解できるのか?


「エドに聞きましたよ。あえて一言もなく先にトリップしたのはソウカからの愛の試練だと」


 なんだと!あの劇甘党宰相め!ワイロに渡したエド専用の極甘氷飴作成機、メイド・イン・ソウカを激辛に変えてやる! 


 そんなことを思っている間に男がソウカの唇に自分のそれを合わせた。すぐに口付けが深くなる。


「う・・・・あっ・・・」


 ソウカは抵抗したいのに、がっちり顔を押さえられているのでされるがままになるしかない。

 深すぎる口付けを名残惜しそうに、大きな音を立たせながら終了した男は、腰が抜けてがくがくになっているソウカを軽々と抱きあげて部屋の小さなベッドにそっと寝かした。


「ではその試練を乗り越えたご褒美を頂きましょうか」


 にこりと魅惑たっぷりな笑顔をこちらに向けている男の言葉に、ソウカははっと我にかえる。

 流されている場合ではない!


「こ、ここはだめ!おかみさんや宿のお客に聞こえてしまう~!」


 ソウカは必死に乗り上げてくる男を押しのけようとするが、逆にその手をまるで宝物に触るようにひどく優しく大きな手で包み込む。


「安心してください。私が可愛らしいソウカのあえぎ声を他の男に聞かせると思いますか?防音、空調、閉錠の術は完璧ですので、遠慮はいりません。2週間分愛し合いましょう」


 いやぁ~。こわれる~。


 結局、ソウカの一代決心のもと行った秘術『異世界トリップ』による逃亡はこうしてあっけなく幕を閉じた。

 どれほどの間、二人が異世界に移住したのかは分からない。ソウカにしても朝とも夜ともわからない日々もすごす羽目になったので、どれほどの日時が過ぎたのかわからなかった。

 ただ、王妃の戴冠式とともに王妃の懐妊もあわせて発表されることとなる。


 とりあえず、ここで話は完結です。

 王(そういえば名前かけなかった^^;)視点からも書こうかな?

 短い話書くのってちょっと楽しかったです。

 

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