表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

 短編の予定でしたが長くなりそうなので連載にします。

 でも、数話で終わらせる予定です。

 R15です。ご注意ください。

 他の話とはちょっと違う雰囲気です。

「やったあ!わ、私は・・・私はやりとげたぞぉ!」


 ソウカは勝利の雄たけびを上げた。

 草一本も生えていない荒地。見渡す限り土色の風景が広がっている。

 そんな場所にも関わらず、ソウカにはここが最高級のベッドの上のように感じていた。

 と、言うより、長い間お世話になってきてたそんなベッドより、この少し生ぐさい匂いがする荒地のほうがソウカにはありがたいものだった。


「これで、これで、あの変態、鬼畜ともお別れができるのよ~」


 変態?鬼畜?


 もし、この叫びを聞いている者がいればそう聞き返してしまうだろう。だが、その場にはソウカ以外生きているものは虫ぐらいだ。


 だれか、この解放感を一緒に味わって!


 そんな事を考えていたせいだろうか。

 だれもいなかったはずなのに、ソウカが地面を見下ろすとソウカの影が3倍の大きさになった。


「あら?お話を聞いてくれるの?大歓迎だわ」


 ソウカは後ろを振り返らないまま、小さく手をあげて軽く払う。


「ぎゃぁ・・・ぐ・・ぐ」


 呻き声が近くて聞こえ出してからゆっくりと後ろを振り向く。

 ソウカの背の二倍以上あるであろうトカゲのような生き物が大きく口を開けたまま固まっていた。なかなか見た目がグロテスクなものだ。


「大丈夫よ。ただの半石化だから。ね~あなた、言葉わかるのかしら?魔物の一種みたいだけど?」


 ソウカがそう言うと目をばちばちさせて反応した。

 身体を動かそうとしても動かないからだろう。


「そう。よかったわ。じゃあこの華麗な脱出を聞いて!そしたら見逃してあげるわ」


 ソウカはトカゲに自慢話を始めることにした。





 

 あのね。私はこことちがう世界から逃げて来たの。

 え?どうやって異世界に飛んできたかって?

 それは人間死ぬ気でやれば不可能も可能にできるのよ。

 これでも私は、その世界で二番目に魔力の高かったの。だからいろいろな新しい術も誕生させることもできたわ。魔術師としてそれなりに名声もあったの。

 でもね。一番目が変態鬼畜のあいつだったのが私の不幸の始まりなの。


 会った瞬間、あいつは私を凝視してたの。まるで獲物を見つけた獣みたいに。一瞬でこいつとは関わってはいけないって悟ったわ。でもね。逃げようとしたときには遅かったの。

 あれよ、これよって言ううちに、周りを包囲されて気が付いたら王宮の王妃の部屋に押し込められちゃったの。

 あ、あんな変態、鬼畜でもその世界で唯一の王だって言うの。


 私なんてただのしがない魔術師なんだから、もっと周りの貴族とかがしっかり陰謀を働いて自分の娘とかを王妃にのしあげていたらこんなことにならなかったのに。

 本当に中途半端に野心だけあって行動力がたらないぼんぼんばっかりなんだから。

 まああの無駄にキラキラした美形な顔で一瞥されたら、それだけで心臓をつぶされたような気がするのも頷けるけど。さらに魔王も真っ青な背後に暗黒を背負った邪悪な笑顔をみれば、ちいさな野望も吹き飛んでしまうでしょうけど。


 それに、私の部下たちのふがいない事。

 まるで、命を捧げますって感じで私に付きまとっていたくせに、あの変態鬼畜がそばに来た途端に誰もかれもが硬直して、私が誘拐同然で連れ去られるのをただ見送るだけだったし。


 で、代々の王妃が使用していたと言われる格調高いベッドに放り投げられ、


『そろそろ諦めてもらいましょうか。ソウカ。貴女は髪一本ですら私のモノです。ええ。たとえ魔術で男に変化してようが、魔物に変化してようが、地の果てに転移しようが、絶対逃がしません。必ずや追いかけて捕まえて見せましょう』


 と、言うやいなや鬼畜にも術で私の身体を縛って・・・・。

 言いたくないのでそこは割愛。

 挙句の果てに、


『ああ。本当にあなたより魔力があってよかったです。本当はいらないと思っていたんですけどね。こうしてあなたと結ばれるために神が与えてくれたのでしょう』


 などと、世界中の魔術師・・・もちろん私も敵に回す戯言をほざく。

 女を無理やり自分のモノにするために貴重な魔力を使用するな。それも軟禁のための結界や縛るためだけでなく、媚薬の術、回復の術などほんの一握りの者しか使用できないようなものまで封じ手オンパレードでかけてくる。私は女としてだけでなく、魔術師として殺気を覚えてしまう。

 気が付いたら、公表や式まで上げてなくても王妃同然に周りに扱われていたのよ。





 でも、ここで!


「一発逆転したのよ~。おほほほほ」


 ソウカが楽しくなって大きな声を出して笑うと、硬直していたはずのトカゲもどきの額からあふれんばかりの汗が出てきていた。


「あら?ここからがおもしろいのよ。汗は吹き飛ばしてあげるわ」

 手をぱちんっと動かすと爽やかな風が吹く。その風がトカゲもどきから汗をふき飛ばし話を続けた。




 でね。王妃としてお披露目をされる前に私はある術を完成させたの。

 あの変態に毎晩虐げられる身体に鞭を打って、王宮から禁書を盗み出して読み漁って脱出方法を見つけたの。

 それが、異世界トリップ。

 これならどの世界に跳んだかわからないだろうし、王である以上追ってはこれまい。

 王の幼馴染みである世界で三番目に魔力のある公爵にはワイロを送って力を貸してもらったっけ?

 日々鬼畜に精力を奪われていたので、部屋の結界を壊して異世界に跳ぶにはちょっと魔力が足らなかったから。

 わざわざ王妃お披露目の前日を選んで、術を駆使してここに跳んで来たってわけ。

 え?なんで前日かって?

 今までの仕打ちへのささやかな意趣返しよ。






「最後は正義が勝つのよ!ねえ?そう思わない?トカゲさん」


 嬉しくなってトカゲもどきの顔を撫でる。

 硬直したまま眼をこっちに向けている。もし、他の者がみれば瞬く間に逃げ出そうとするほどグロテスクなトカゲもどきだが、ソウカにはだれもが見惚れてしまうであろう美の象徴のような元夫よりかわいく感じてしまう。


「さ~って。話も聞いてもらったし、約束通り解放してあげる。でも、これからはきちんと相手を見極めてから攻撃しなさいね。そうしないとすぐに丸焼きにされちゃうわよ」


 ソウカはそう言ってすこし大きめに手を払う。

 その途端に、目の前の巨大なトカゲもどきはソウカを振り返ることなくほぼ一瞬で姿を消してしまった。






 この忠告。

 結局トカゲもどきには意味のないことになるのだが、ソウカはそれを知ることもなかった。

 まあ知ってもどうしようもないんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ