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第一部 1

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雨は、アスファルトを黒く塗りつぶすような、重く執拗な降り方をしていました。



深夜二時。福島県いわき市の外れにあるコンビニエンスストアの駐車場は、この界隈で唯一、文明の体温を感じさせる場所でした。煌々と光る白い蛍光灯が、雨粒を銀色の針のように照らし出しています。



私は、右手の疼きを抑えながら、軽自動車の運転席で熱い缶コーヒーを啜っていました。老いた母がようやく眠りにつき、束の間の「自分だけの時間」を求めて、ここまで車を走らせてきたのです。



その時、自動ドアが開き、一人の若者が飛び出してきました。



彼は店先の軒下で立ち止まり、激しい手つきでスマートフォンを耳に当てました。雨音に混じって、尖った声が漏れ聞こえてきます。



「……もう限界だって! 住めば都? 誰が言ったんだよそんな嘘。コンビニに来るだけで車で十五分だぞ。娯楽なんてパチンコ以外何もない。仙台に行くのに三時間、東京に行くにも三時間。ここは監獄だよ、時間の墓場なんだ……」



受話器の向こうの相手に、彼は呪詛じゅそを吐き続けていました。濡れたスニーカー、都会で流行っているらしい少し大きめのパーカー。その姿は、かつて東京の北千住の駅前で、同じように「こんなはずじゃなかった」と空を睨んでいた、二十年前の私自身の生き写しに見えました。



「……石を投げられたんだよ、俺がマスクを忘れただけでさ。村社会なんだよ、ここは。誰も俺のことなんて見てない。見ているのは『〇〇さんの家の息子』っていうラベルだけだ。戻らなきゃよかった……あんな会社、辞めなきゃよかった……」



彼の声が、湿った夜の空気に吸い込まれていきます。それは怒りというよりは、あまりにも深い、そして孤独な悲鳴でした。



私は無意識に、動かなくなった右手の指を、左手でそっとなぞりました。

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