ある番組の話
「エルフの国とオークの国、住んでみたいのはどちらか」
異世界転生や異世界転移、逆転生や転移が当たり前になってきた時代に議論の中心になっているのはその手の問題である。
同じ人間であっても隣人問題は起こりうるのだ、異なる種族ともなればより繊細に気を配らなければならないと政治家や教師は語る。
エルフは「森の賢者」と呼ばれる高い知性と魔法の才能を持ち、オークは強靱で屈強な体格を持っている。
学生時代に異世界転移し、戻ってきたとある評論家は
「どうしてもどちらかを選ばなければならないのであれば、私はオークの国を選ぶ」
と言った。
「若い頃の私は、エルフの国で生活をしていました」
創作のイメージの様に、極端な菜食主義と言う訳でもなく食卓には肉も並べば乳製品も並ぶ。
「エルフの国で暮らしていた生活から、どちらかを選ぶのであればオークの国が良い、と私は思うのです」
「それはどうでしょうか?わたしは親が転移者でオークの国で生活していましたが、あの国は種族に対する差別が酷かったですよ」
「例えば?」と評論家が聞くと「種族ごとに就ける職種に制限が掛かると親が嘆いていました」と返ってきた。オークの国では人間は「小人」と馬鹿にされ、禄な職種に付けない、だから、どうしてもどちらかを選ばなければならないのであれば、エルフの国が良い、と。
「貴方のご両親は職種を選ぶ事が出来たのですね」
「おや、エルフの国では違う、と?わたしが両親から聞いた話ですと、エルフの国は他種族に寛容であると聞きましたが」
「寛容。そうですね、そう言い換える事も出来ますね」
「私は仕事をする事を許されませんでした」と評論家は言った。転移から10年、世話になったエルフの夫妻に恩返しがしたい、だから働きたい、と言うと、ふたりはきょとんとした様子で、
「まだ子供なのだから、働かなくても良いのよ」
と言った。
当時27歳、普通の日本人として生活をしていたのならば寧ろ親から「そろそろ働け」と言われる年齢だった。
「学校に通うのも反対されました。子供なのだから、と」
評論家がエルフの夫妻に許されたのはせめて、と懇願して勝ち取った食器洗いの手伝いだけだった。それすらも、夫妻のどちらかが見ている状態でなければ許しては貰えなかった。
「まあ、長命種からみたならその年齢はつかまり立ちを覚えた程度の子供でしょうから…」
「オークの国でもあったそうですよ、それ。なんだ、エルフもオークも、結局は隣の芝生、と言ったところでしょうかね?」
「先生のご両親は今も異世界に?」
「はい、子供なのだから、と。今も、子供の手伝いの延長戦の様な仕事ばかりしていると言っていましたね」
快活に笑う政治家に子供が、異世界にいる両親から見れば孫がいる、と聞いたら向こうの種族は目を大きく見開いて驚く事だろう。
異世界にも人間はいるだろうに、と流れてきたコメントに評論家も政治家も「嗚呼、普通はそう思うのか」と口を揃えて言った。
「私が30年暮らした世界と先生のご両親が暮らしていらっしゃる世界はまた異なる世界なのですが、転生者、転移者以外で人間がいる、と言う話は聞いた事がありませんね」
「よくある中世頃では無く、こちらの世界とそう変わらない、或いは遙か先のSFで語られる様な近未来、と言うのが知っている範囲の異世界だね。人間は文明に追いつけずに衰退していて、今では保護地区に生活する転生者や転移者くらいしかいない、って両親が言っていました」
寛容、では無く、愛玩動物が何をしても人類が「仕方ないなー、もー」と許してしまう様なものが一番近いかもしれない、と評論家は言った。
「現在、貴方がたの言うところでの異世界、わたくしの出身地である世界で問題視されているのは人間を棄てる、と言った行為ですね」
ゲストで呼ばれていたエルフの氏族長が言った。
「転生者や転移者を保護した者の1割が、保護した人間を医療機関に連れて行く事を怠ったり、自分達は魔力で腹を満たせるが故に人間には必要不可欠である食事の提供を平気で忘れてしまう、どんなに気を配ろうとたった100年程で寿命を迎える姿を見たくないからと人間を棄てるのです」
「保護したからには、最期まで面倒を見て然るべきだ。最期まで面倒を見れないのであれば、保護すべきではない」
ゲストのオークの氏族長も、大きく頷いた。
異なる世界、異なる種族の価値観を相互理解する為の討論番組に呼ばれたゲスト達の討論は番組終了時間が過ぎても続いたのだった。




