魔力補給
魔力補給をするという僕の言葉に同意するノア。どきどき、と高鳴る胸を抑えながら補給する。彼女のくちびるへ微かに視線を動かす。胸が張り裂けそうなほどの心拍音が自分の耳にまで届く。どうか、聞こえていないよう願うが無駄だった。
「主の心臓の音がこちらまで聞こえてきます…」
「緊張してしまって、いまだに全然慣れないんだ。上手くできなかったらごめん。」
「そんなことありません。毎回助かってます。魔力水を飲むよりも、体内に力がみなぎります。」
「あぁ… ノア、じゃ、じゃあ始めるよ。」
「はい、いつでも来てください…」
そう言うと目を閉じ口をわずかに開けるノア。僕もその期待に応えるよう、彼女の口元へ徐々に口を近づける。口と口が触れ合う。より直接的に魔力を注ぐため舌を絡める。
「気持ちいいです。体の中で魔力が循環するのが感じられます。」
「あぁ… 上手に出来てるのなら良かった。」
言うまでもなく僕はノアに出会うまで人生で一度もキスをしたことがない。だから、毎回彼女を満足させてあげられるか不安になる。その後も、しばらくの間、静寂な森の中にれろれろ、という淫靡な音が響いていた。
「今日もありがとうございました。おかげでしばらく動けそうです。」
「十分に回復できたなら一安心だ。僕の方こそおかげで疲れが回復したよ。」
もちろん、ノアとの行為で僕の魔力や体力が回復する訳じゃない。あくまで魔力補給は僕から彼女への一方通行である。ただ、肉体的な疲労は回復しないが精神的な疲労は別である。戦闘では頭を使うためだんだんと心も疲れてくる。そのためつかぬ間のこの行為が精神をリフレッシュしてくれる。まだ少し名残惜しかったがもう辺りも暗くなってきた。森が暗闇に包まれると何も見えず危険なため帰り支度をする。
「そろそろ、帰ろうか。」
「かしこまりました。帰りも魔物が来るかもしれません。主は私の後ろをついてきてください。」
あんなことをした後だと言うのに、ぶれないノアに思わず笑ってしまう。
「どうされました?」
そんな僕を彼女は不思議そうに見つめる。
「いや、何でもないよ。宿へ戻ろうか。」
その言葉に微笑って頷く彼女。出会ったばかりはそれこそ人形のような無機質さを感じたノアも、人間らしい温かな表情をするようになったなとしんみりする。
宿屋に着く頃にはすっかり夜になっていた。外で食事を済ませ、消耗品を購入しているうちに遅くなってしまったのだ。
宿の前には少女が一人うずくまっていた。僕らが来るとその顔を上げる。頬は赤く腫れている。何となく見覚えがあるなと思い、じっと見つめると『銀狼の爪』に新たに加入した子だった。彼女は僕らへ顔を向けると
「助けてください…」
と服の裾を手で掴む。少女の悲痛な叫びが聞こえてきた。
読んでいただきありがとうございました。




