おそろし夫婦【家庭内暴力】
『さて真のどつき漫才を見せてもらいましょう！！』
『その名もおそろし夫婦！ どうぞ～～～！！』
「えー、京千春です」
千春はドレッドヘアに日焼けした肌、サングラスをかけている。黒いスーツを身に着けていた。
「鳳みゆきです」
みゆきはぺこりと挨拶をした。茶色いソバージュでふっくらした顔と体型だ。白いワンピースを着ており、むちむちの太ももが見えた。千春より頭一つ低い。
「この世で何が恐ろしい？」
みゆきが千春に訊ねた。
「俺はお金が恐ろしい。金の延べ棒百本ほどあれば心臓止まるね」
「恐ろしい！」
「恐ろしい～！！」
「「おそろしふ～ふ！！」」
二人は両手の手の平を見せ、息を吹きかける仕草をした。これが二人の決めセリフである。
「この世で恐ろしいのは家庭内暴力ですよ。夫が妻に暴力を振るうんですよ」
「それのどこが恐ろしいんだよ？ うちでは毎日このメス豚を可愛がっていますがねぇ。へっへっへ」
そう言って千春はみゆきの頭を掴み、髪の毛をかき乱す。
「ぶひぃ、ぶひぃぃぃ！！ ぶひぶひぶひぃぃぃ！！」
「へっへっへ、そんなに人前でいじめられるのが好きなのかよ。まったくお前はマゾ豚だな！！ 恥ずかしいとは思わないのかよ？」
そう言って千春はみゆきの頭を強引につかみ、頭を床につけさせた。みゆきは豚の真似を続ける。
「へっへっへ、みっともないなぁ。豚みたいな面をして生まれてきて申し訳ないと思わないのか？ ほら、世間様にごめんなさいと謝れよ。おら、謝れ！！」
千春が大声を上げた。みゆきはぶひぶひ鳴くばかり。
「まったくお前みたいな女がいるのはムカつくわ。生きてるだけでも迷惑なんだよ！！」
そう言って千春はみゆきの腹を思い切り蹴った。本気でけりを入れている。
「ぶひぃぃぃ！！」
みゆきは恍惚な笑みを浮かべていた。よだれをたらし、アヘ顔を晒している。
「お前は人間様の言葉をしゃべれないのか？ おら言えよ！！」
「ごっごめんにゃしゃい……」
「豚のくせに人間様の言葉をしゃべってんじゃねぇよ！！」
さらに蹴りを何度も入れる。やがて千春は蹴るのに飽きたのか、はぁはぁと息を切らしていた。
そしてみゆきはむくりと起きる。
するとみゆきはファイティングポーズを取った。
千春にぽんぽんと背中を叩くと、なんだと怒鳴りながら振り返る。
「ぎゃあ！！」
みゆきは千春の股間に蹴りを入れた。うずくまる千春にみゆきはアッパーカットを決める。
千春のサングラスは飛んで、床に倒れた。
「てっ、てめぇ……、なにしやが……」
千春が起き上がろうとすると、みゆきは千春の腹を複数回踏みつけた。げふげふとせき込み千春。
やがてみゆきは千春をむりやり起き上がらせると、千春の頭に回し蹴りを食らわせた。ステージの上に大きな音を立てて倒れる千春。
みゆきは右腕を上げ、顔を上に向けた。カンカンカンとゴングの音が鳴る。勝利宣言だ。
次に千春はすくっと起き上がる。そしてサングラスを拾い、かけなおした。
「という風に家庭内暴力は恐ろしいのですよ。うちのカミさんはこのように強いのです」
「うちの旦那もなかなかのタフですよ。本気で殺そうと思ったのにけろりとしてます」
「でもこの世で恐ろしいのは人間の心ですわ」
「ほんとにねぇ」
「みんなも真似するといいよ。暴力を振るう人には暴力振るっていいからね」
「なるべく急所を狙うといいよ、女の力は男より弱いですから」
そう言って千春とみゆきはため息をつく。
「この世で恐ろしいのは何かしら？」
「やっぱりお金が一番恐ろしい」
「殴られてもほしいわけ？」
「それでもほしい」
「やっぱり世の中、人間の心が恐ろしいですね」
「というか豚の真似をする必要あった？」
千春の問いにみゆきはうふふと笑うだけであった。
「「ありがとうございました！！」」
ＣＭ。鈴木雅子法律相談事務所。家庭内暴力から家庭の問題の相談を受け付けます。出演おそろし夫婦。
ＳＮＳの声。『なにこいつ、女に暴力振るってへらへらしてる！！ 〇ね！！』
『女が男に勝てるわけないだろ！！ やらせだ！！ 女がそんなに偉いのかよ！！』
『なんでこんな不快な番組を放送するんだ！！ 今すぐやめろ！！』
グチエン『面白かった。まさに真のどつき漫才だな。一見マジに見えて手加減しているのがわかる。男でヘイトを高め、女が一気にカタルシスを解消する。非常に上手い』
おそろし夫婦。京千春。京唄子と声優の沢城千春がモデル。
鳳みゆき。鳳啓介と千春の姉沢城みゆきがモデル。もちろん外見はオリジナル。
夫婦漫才で活動している。格闘技を習っており、みゆきは防御がうまい。千春の攻撃をたくみにかわすのが得意。
鈴木雅子はボディビルダーの鈴木雅選手がモデル。
