鮎乃嬢・絢次郎【ジュテーム】
『お次は宝塚歌劇団出身のコンビです!!』
『鮎乃嬢・絢次郎、どうぞ!!』
「ジュテーム!! わたくし鮎乃でございますわよ!!」
赤いフリル付きの帽子と赤いフリル付きのドレスを着た、30くらいの茶色いウェーブの髪の女性が挨拶した。バレエのように体を回しながら挨拶する。
「アッモーレ!! ボクは絢次郎じろう!! よろしくぅ!!」
腰まで伸びた黒い髪に前髪はきれいに切りそろえてある。紫色の口紅をつけており、美男子に見えた。白いスーツを身に着けているが胸が膨らんでいるので女性だとわかる。
軽快なステップを踏みながら登場した。
「おーっほっほっほ!! 今日は高貴なわたくしたちが庶民の皆様に娯楽を提供して差し上げますわ!! あなたたち感謝しなさい!!」
鮎乃は高圧的に袖から赤毛がついた扇子を取り出し、観客席に突き付けた。
そこに絢次郎が突っ込む。
「高貴って、君の実家は借家住まいでお父さんはサラリーマンのはずだが?」
「ええ、ええ。それはもう幼少期は赤貧の日々でございましたよ。毎晩お母さんと一緒に内職して、妹たちの面倒を見てましたよ」
鮎乃は猫背になり、声色も変わった。哀れを誘うような語り口になる。
「って何を言わせるのですか!! 今はお母さまが内職の傍らにネット小説を書いて、それが大ヒットしておりますわよ!!」
「ほほう、それはなんという作品なのかね?」
「転職したらスライスチーズの剣ですわ!!」
「どこかで聞いたことがある題名だね。パクリではないのか?」
「パクりではありませんわ!! お母さまはたまたまよさげな小説を読んで、名前だけ変えて自分のものにしましたわ!!」
「やっぱりパクリではないか。ふふん、君のお里がしれるものだね」
ヒステリーを起こす鮎乃。絢次郎は気障にふるまっている。
「そういうあなたはなんですの!! 実家が名家ではございませんか!! なのにわたくしにつきまとってどういうつもりですの!!」
「君を愛しているからさ」
うっとりする声色で絢次郎はまっすぐ鮎乃を見つめている。思わず鮎乃は両手で口元を抑えていた。
「小学校の頃から君に夢中なのさ。ボクの実家は確かに名家だよ、金に不自由したことすらないさ! だけど自由はなかった!! 学校も友達も親に命じられてばっかりだった!! 唯一君を見ることだけがボクの救いだったのさ!!」
絢次郎は両腕をYの字に広げ、声高々に叫んだ。そして足をバタバタとばたつかせる。ザウリダンスというもので、足を高速にばたばたさせるダンスだ。
「アッモーレ、アッモーレ、アッモーレ!!」
「ジュッテーム、ジュッテーム、ジュッテーム!!」
鮎乃はくるくるとフィギュアスケートのようにスピンを始めた。どこか嬉しそうだ。
やがて踊り終わると、二人は抱き合った。絢次郎は鮎乃を抱きかかえて、くるくる回る。フィギュアスケートのペアのようだ。
そして綾次郎は左手で鮎乃の右手を取る。鮎乃は身体を45度の角度をキープ、そして絢次郎は鮎乃の腰に腕を回し、二人はぎりぎりまで顔を近付ける。
「「ジュテーム……」」
二人は観客席から見えないよう、口づけするような仕草をした。
やがて二人はきちんと立って並ぶ。
「「ありがとうございました!!」」
CM。衣服の小沼。どんな衣服も揃えます。出演:鮎乃嬢・絢次郎。
SNSの声。『意味不明。わけがわからない。なんでこんなのが芸人やってるの?』
『元宝塚歌劇団出身だって。せっかくの輝く経歴に泥塗ってるよ、馬鹿なの?』
『女同士で愛し合うなんて気持ち悪い。早くこの番組を中止にしろ!!』
グチエン『面白かった。ステージをアクロバティックに駆け巡る様は純粋に笑えた。というかSNSで批判している連中はまともに見てないな。感情だけで叫んでる。ああいうのは相手にしない方がいいよ。』
鮎乃嬢:本名、岸井明美。元宝塚歌劇団出身の30歳。退団後はお笑いを目指し、蒼井企画に所属する。高慢なお嬢様を演じることが多い。名前はコメディアンの岸井明。
絢次郎。本名は平井英香元宝塚歌劇団出身の32歳。退団後はお笑いを目指し、明美とコンビを組む。実際は仲が悪いがコンビを組むならその方がいいと判断した。だが周囲は腐れ縁と思われている。劇中のザウリダンスは彼女の持ちネタ。名前の由来は歌手の平井英子。
岸井明氏と平井英子氏は1937年にタバコやの娘でデュエットしてました。
現実に宝塚歌劇団出身のお笑い芸人はいません。なんとなく宝塚歌劇団出身がいれば面白いなと思いました。
衣服の小沼。モデルは小沼敏雄。




