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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第2章 中層
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帰りがけの襲撃

 ある程度の成果を得たショウゴとクィンシーは1日の途中だが地上へ戻ることにした。悪意のダンジョンを出るのに丸1日以上かかるが、既に地図に記載されている経路をたどれば良いので安全だ。少なくとも、罠は気にしなくても良いのが楽である。


 2人は足取りも軽く上に登る階段のある部屋へと向かった。扉の前までたどり着くと罠の有無を確認してから開ける。すると、6人の男たちが階段の手前で集まっているのが目に入った。どこかで見かけたことがあると思えば貴族のエルドレッドの一行だ。


 嫌な一団を見かけたなというのがショウゴの感想である。数日前に揉めた相手と出くわすのは何とも気まずい。こういうときは無視するに限るとばかりにさっさと階段を登ろうとした。ところが、護衛である冒険者たちに行く手を阻まれる。


「やっと来たか。待ってたぜ」


「なんだ、どうしたんだ?」


 立ち止まったショウゴはにやにやと笑う冒険者の男が顎をしゃくった先に目を向けた。そこには貴族のエルドレッドと従者のフランシスが立っている。そのうち、フランシスの方が1歩前に出てきた。それから尊大に話しかけてくる。


「貴様ら、先日はよくも貴人であるエルドレッド様に無礼な態度をとったな。本来ならばその場で切り捨てられても文句を言えぬところを見逃してやったことを感謝しろ。さて、今日は前回の無礼を謝罪する機会をエルドレッド様が貴様らにお与えなさることになった。心から非礼を詫び、今後一定の労働で報いるのならば許してやっても良いと仰せである。まずはそこに跪いて謝罪するがよい」


「こちらは何も悪いことはしていない。迷宮での作法や習慣も知らない素人は、馬鹿なことを言ってないでさっさと町の中へ帰れ。護衛を雇わないとここに来られないような半人前が偉そうにするな。目障りだ」


 お互いの主張の述べた後、場は凍り付いた。ショウゴとしてはクィンシーがまさかこんな暴言を直球で言うとは思わなかったので目を見開く。同じ言い方にしてももっとましな言い方があるはずなのに、そしていつもならそういう穏便な方法を採用するはずのクィンシーに顔を向けた。相手に小馬鹿にしたような顔を向けている。普通は貴族に向ける顔ではない。なぜいきなりこんな過激な言い方をするのかがわらなかった。


 完全に面子を潰されたエルドレッドの表情が怒りに染まる。


「余程死にたいようだな。いいだろう、あの世で悔いるといい!」


 エルドレッドが叫んだ直後、クィンシーの背後が爆発した。そうして炎に包まれる。突然のことに当人は床を転げ回り、ショウゴは背後を振り向く。4人の冒険者がおり、そのうちのローブを着た1人が短杖(ワンド)をこちらに向けていた。


 片手半剣(バスタードソード)を鞘から引き抜いたショウゴは罠にかかったことを悟る。背後の4人は初めて見る顔ばかりなので、この数日間で雇ったのだろうと推測した。


 合計8人の冒険者がショウゴとクィンシーを挟み撃ちにし、それぞれ前後から3人ずつが近づいて来る。ショウゴに対して2人ずつ計4人、床で転げて火を消そうとしているクィンシーに対して1人ずつ計2人に分かれた。


 本来ならば雇い主の安否を確認しないといけないショウゴだったが、状況がそれを許さない。動いているということは生きていると判断してまずは自分の身の安全を図る。


 待っていても相手の思うつぼだと考えたショウゴは積極的に前へ出た。包囲が完成する前に敵の数を減らすべく果敢に攻め立てる。


「はっ!」


 ショウゴは気合いと共に片手半剣(バスタードソード)を冒険者の1人に突き出した。槍を構えていたその男にその一撃を避けられるが、その間に間合いを縮める。そして、慌てて距離を取ろうとした相手の右手を切っ先で抉った。悲鳴を上げる男の動きが鈍るとその首筋を切り裂く。そこへ横から突っ込んで来たもう1人の冒険者が戦斧(バトルアックス)を振り下ろしてきた。更に前へと進んで躱すと、体をひねって片手半剣(バスタードソード)で相手の首を勢い良く切り落とす。


 わずか数舜で2人を倒したショウゴを見て、周囲にいたエルドレッドの仲間たちは凍り付いた。背後から襲いかかろうとしていた2人も固まっている。予想外の強さだったらしい。


 襲われた側であるショウゴは生き残るために次の行動に移る。動かない敵を見てこれ幸いと自分を挟み撃ちにしようとした2人に近づいた。ここで慌てて動こうとした相手2人だが、そのうちの1人が持つ剣を跳ね上げて袈裟斬りにし、もう1人の槍を打ち払ってから懐に飛び込んでその腹を刺す。


 この辺りで燃える背嚢(はいのう)を背中から引き離したクィンシーがようやく起き上がった。周囲には燃え破れた背嚢(はいのう)から撒き散らされた内容物が散乱している。余裕のない、怒りの形相だった。


 一気に冒険者を4人も失ったエルドレッド側は動揺する。こういうときは戦うにしろ逃げるにしろ素早い判断が必要だが、恐怖でまともな判断ができないらしい。


 その間に、ショウゴは背後からクィンシーに魔法を放ったローブの男に迫った。短杖(ワンド)を持ったその男は下がりながら呪文を唱えるが、最後までしゃべらさずに右腕を切り落とす。悲鳴を上げた男が立ち止まると斬り伏せた。


 これで後方の憂いを取り除いたショウゴが振り向くと、ちょうど爆炎が吹き上がる。遠慮なしにクィンシーが魔法を使ったのだ。


 派手な魔法が炸裂している間にショウゴはエルドレッドへと迫る。


「ひぃぃ! おい、フランシス! あいつを止めろ!」


「え、ええっ!?」


 あまり戦いに慣れていなさそうなフランシスが主人であるエルドレッドに命じられて顔を真っ青にした。震えながらも腰に佩いた剣を鞘から抜くが明らかに及び腰である。


 窮地を脱したショウゴは既に落ち着いていた。震えるフランシスと剣を1度合わせたときにそれを跳ね飛ばす。力の差なのか、相手はあっさりと剣を放した。そうして1歩踏み出す。


 そのとき、フランシスが目の前で跪いたのでショウゴは体を止めた。驚き訝しんでいると必死に訴えてくる。


「た、助けてください! 私は貴族の従者です。お仕えする方の意に沿う振る舞いをしなければならない身なのです。今までのあなた方に対する非礼は詫びます。ですから、どうかお命ばかりはお助けを!」


 いきなりの命乞いにショウゴは戸惑った。てっきり一目散に逃げるのかと思ったが違ったらしい。恐らく逃げられないと悟ったのだろうと推測する。


 そうなるとこのフランシスをどうするかだが、その処遇を決めるのはショウゴではない。最終的には雇い主に判断を仰ぐ必要がある。


「俺は雇われた身だからな。お前をどうするかは雇い主に聞くとしよう。そっちで頑張って命乞いをしてくれ」


 剣を下げたショウゴが事情を話し終えた途端、別の場所から爆発音と絶叫が聞こえた。そちらへと顔を向けると、クィンシーが逃げようとしたエルドレッドを火だるまにしているのが目に入る。戦いの火蓋が切られたと同時に爆炎に包まれた意趣返しだろうと思った。それに関しては同情できる。ただ、相手を見つめるその顔は完全に凶相だった。その点が気にかかる。


「うわあぁぁ!」


 フランシスもクィンシーとエルドレッドを見たようで悲鳴を上げた。全身を震わせている。


 先程フランシスに雇い主へ命乞いをしろと伝えたショウゴだが、あれでは期待できないと感じた。しかし、もう戦いは終わったも同然で、結果的にショウゴは何もされていないのでフランシスひとりくらいならという思いが芽生えてくる。


 ところが、ここでフランシスはいきなり立ち上がって上に登る階段めがけて走り始めた。ショウゴは止めようとする。そこへ、横合いから3本の氷の矢が飛んできて、フランシスの頭、脇腹、太ももに突き刺さった。フランシスは走った勢いそのままで倒れる。


「ショウゴ、取り押さえたなら逃げられないようにしておけ」


「あー、悪かったよ」


「ああいう手合いは、生き延びれば報復を必ず考える。だから、一度戦端を開いたら可能な限り全滅させる必要があるんだ。幸い、ここは奇跡のラビリンスの中だ。誰がやったかなんてわからない。だから遠慮するな」


「まぁそうなんだろうけどさ」


「これで面倒事が片付いた。行くぞ」


「怪我の治療はしなくてもいいのか?」


「ここから離れた所でしてくれ。誰かに見られても面倒だからな」


 すっきりとしたという様子でクィンシーが階段を登り始めた。散乱する当人の持ち物はどうでもいいらしい。そのことに驚きつつもショウゴは後に続く。


 階段を登りながら、これも人が変わった影響なのかとショウゴは考えた。どうも以前のクィンシーと考え方ややり方が違う様に思う。ただ、その主張や方法には正しさもある程度含まれているので指摘しづらいことが多い。


 どうしたものかとショウゴは悩んだ。

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