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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第1章 上層
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ダンジョン内の運び屋

 悪意のダンジョンの2回目の探索は非常に感じが悪い状態だった。ある程度覚悟していたとはいえ、連続して嫌なことが続くとさすがに気が滅入る。それでも、ショウゴとクィンシーは探索を続けた。


 一夜を明かした翌日、2人は地下4層へ続く階段を捜し始める。昨日の1日で地下2層へ登る階段の周辺一帯は探索できたので取っ掛かりを得られたからだ。


 この日もまずは通路から調べていった。目的は変わったがやることは同じなので淡々と作業を繰り返していく。


「この辺りに下へ続く階段があったら楽なんだけどな」


「オレも期待はしてるぞ、常にだが」


「それにしても、ダンジョン内の構造が不定期に変わるのは仕方ないとしても、中にいるときに変わったら絶望的だよな」


「帰り道がわからなくなると一言でいうのは簡単だが、登る階段がどこにあるのかわからなくなったら帰れなくなってしまう。そうなると階段を見つけるのが先か、飢え死にするのが先かの競争になるな」


「これって実は、あんまり下の階層に行くのはまずいんじゃないか? クィンシー、最後に構造が変化したのはいつなんだ?」


「1年前らしい。実力のあるパーティでも行方不明になったところがあるそうだ」


「中層や下層で活動してる冒険者って、その辺どう考えてるんだろう?」


 通路を歩きながらショウゴは首を傾げた。魔物ではなく、構造が変化するというダンジョンの機能そのものに殺される可能性があるとなると、普通ならば奥へと進むのは控えるものである。あるとき突然命綱が断ち切られてしまうに等しいからだ。それなのに平然と(もぐ)っていられる理由がわからない。


 前を進むショウゴの言葉には反応せずにクィンシーが話し続ける。


「そのもうひとつ前の変化が3年前らしいから今は気にしなくてもいいらしいが、実際はどうなんだろうな。更にその前は4年半くらい前だそうだから、間隔はあまり当てにはならないように思えるが」


「怖いこと言うなよ。それじゃ中層以下には行けないじゃないか」


「まぁそこまで恐れる必要はない。そのときのために持ってきた保存食の3分の1を消費したら帰るようにしてるんだからな」


「今まではそれで充分だけど、これからは保存食が足りなくなりそうなのが不安だよ」


「そのときは切り詰めればいい。1回の食事で食べる量を半分にしたり、食事の回数を減らしたりとな」


「そういう事態にならないことを祈るしかないな」


 実際、ショウゴたちのような冒険者は翻弄されるしかないので祈るくらいしかできない。何とも嫌な事実だった。


 不安を口にしながらも2人は少しずつ調査済みの範囲を広げていく。結局のところ、悪意のダンジョンの構造が変化しようがしまいがやれること代わりはないのだ。


 そうやって地道に探索をしていると、ショウゴはとある三叉路で何者かが近づいて来る足音を耳にした。昨日のことを思い出して若干嫌な顔をするがこっそり覗いて相手を探る。


 近づいて来るのは6人の男たちだった。冒険者の集団と断言しなかったのは、そのうち2人は武具を身につけていなかったからだ。全員が大きな荷物を担いでいる。


 微妙におかしな集団だった。武装した4人を見れば冒険者パーティだが、それだと人足の説明がつかない。更には全員が大きな荷物を背負っているのも謎だ。人足らしき2人は荷物持ちだと説明できても、冒険者まで同じような大きさの荷物を背負っているのはなぜなのか。あれでは魔物に襲われたときに不利となってしまう。


 初見で確認できることを見終えたショウゴはクィンシーの元に戻った。そうして三叉路の向こうから人の集団がやって来る事を伝える。


「なんと言うか、不気味ではなく、純粋に怪しいな、正体不明というか」


「そうなんだよ。それでどうしたものかと」


「ああ、あいつらか」


 2人が話をしている最中に6人の男たちが三叉路の中央まで歩いて来た。そして、ショウゴたちの存在に気付く。


「おや、そちらはどちらさんで?」


「オレはクィンシーだ。こっちはショウゴ、どちらも冒険者だ。あんたらは?」


運送屋(トランスポーター)のリーダー、ブラッドだ。商品を運んでるところだよ」


「商品を運ぶ? この迷宮の中でか?」


「その通り! 求められる場所に品物を運ぶ。商売の基本だろう?」


「まるで商売人か行商人だな」


「はは、よく言われるよ。それ以上に感謝もされるけどね」


 少々卑屈な笑みを浮かべるブラッドの言葉にショウゴとクィンシーは顔を見合わせた。冒険者と行商人の中間のような存在に見える。


 しかしそうなると、気になることがあった。今度はショウゴが問いかける。


「その背負ってる荷物を今運んでる最中なのか?」


「そうだよ。みんな適正な値段で買ってくれるから悪くない商売だよ。ところで、2人は普段どの辺りで活動してるんだい?」


「最近パリアの町に来たばかりなんだ。この悪意のダンジョンに入るのも今回2回目だから、まだ普段といえるくらいは(もぐ)ってないよ」


「だったら今は何をしているんだい?」


「この辺りの探索だよ。昨日、いや一昨日からかな」


 とりあえず当たり障りのないことをショウゴはブラッドに伝えた。内容によってはいきなり相手が不機嫌になったり怒ったりするので、ダンジョン内での会話は地味に面倒だったりする。お互い武装しているのだから尚更だ。


 そんなことを考えていたショウゴに対して、ブラッドが返答してくる。


「そうかい。まぁ頑張るんだね。それじゃ、オレたちは先を急ぐから」


 話を切り上げたブラッドたちはそのまま三叉路の反対側の通路へと去って行った。


 それを見送るとクィンシーがつぶやく。


「あいつらの行き先は、たぶん臆病者のたまり場なんだろうな」


「え? あの地下3層で活動してる冒険者が集まってる場所?」


 町でダンジョンについての情報を集めていたときのことをショウゴは思い出した。


 『臆病者のたまり場』というのは、悪意のダンジョンの地下3層にある部屋のひとつである。部屋自体は特に何もなく、単に広間のように広いという特徴しかない。名称の由来になっているのは場所ではなく、その場所に集まる者たちだ。


 特にこれといった理由もなく自然発生的に冒険者たちが集まり、気付けばちょっとした拠点のようなものになっていたらしい。現在では地下3層で活動する冒険者が出入りしているということだった。


 しかし、ここに集まる冒険者に対して、特に中層以下で活動する冒険者からの評判は悪い。中層に降りられる実力がない、あるいは尻込みしている者たちが集まっているというのである。この評価はある意味正しく、このたまり場にたどり着いた冒険者は以後決して階下に向かおうとしないのだ。そのため、中層以下を目指す者はむしろこのたまり場を避けようとする。


 そんな場所だと聞いたことがあるショウゴは何ともいえない表情を浮かべた。確かにより強さや富を求めるのならば下の階に降りるべきだろう。しかし、自分の身の丈に合った活動をするのは悪いことだとは思えない。堅実に金を稼ぐのもまた方法のひとつだからだ。


 気になったことをショウゴはクィンシーにそのまま尋ねてみる。


「クィンシー、あの臆病者のたまり場に行くのか?」


「積極的には行きたいとは思わないな。まぁ、近くを通りかかったら覗いてみてもいいかもしれんが」


「どうして臆病者だなんて呼ばれてるんだろうな」


「さぁな。いい噂は聞かないが。ともかく、今のオレたちには関係のないことだ。探索を再開するぞ」


 雑談を打ち切ったクィンシーが作業の再開を宣言するとショウゴは歩き始めた。直接関わることがないのならば気にしても仕方がない。


 昨日の出会いに比べるとはるかに真っ当であると思い直したショウゴは地道に探索を続けていく。成果は相変わらず空振りが多いが、地図が埋まっていけばそのうち地下4層へ続く階段が見つかるだろうと楽観的に考えた。


 そうして通路を次々に調べていると何かしらの音が耳に入る。


「クィンシー、何か聞こえないか?」


「ああ、確かに聞こえるな。足音ではなさそうだが」


「今からそっちの方に行ってみようか」


「そうしよう」


 雇い主の許可を得たショウゴは先頭に立って音のする方へと向かった。近づくにつれて足音はできるだけ立てないようにする。途中でその音が人々のざわめきであるこに気付いた。


 充分に近づいたショウゴは分岐路の角から声のする方を覗く。すると、開けっぱなしの扉の奥の部屋に多数の冒険者たちが集まっているのが見えた。


 交代でクィンシーが同じ光景を確認すると、あれが臆病者のたまり場だろうと伝えてくる。ショウゴも同じ考えだった。あんなに堂々と集まっていることを知って驚いたが。


 目の前の光景を見た2人はこれからどうするべきか話し合った。

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