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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第1章 上層
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悪意のダンジョン関連の依頼

 酒場での昼食後、ショウゴとクィンシーは冒険者ギルド城外支所へと足を向けた。満腹の腹と硬貨がたくさん詰まった袋を抱えて建物の中に入る。今日も盛況なようで室内は騒がしい。


 受付カウンターへと続く行列に並んだ2人は待っている間周囲を見た。明るい表情を浮かべている者がいれば暗い顔の者もおり、余裕のある態度の者や切羽詰まった様子の者もいる。実に多彩だ。見ているだけでもなかなか面白い。


 人間観察をしながら暇を潰していると2人の順番が回ってきた。目の前の受付係にクィンシーが声をかける。


「奇跡のラビリンスで一稼ぎしてきた。ついては両替をしたい」


「両替ならあっちの端でやってくれ。ここで硬貨を大量にぶちまけられても対処できん」


「あっち? ああ、あそこか」


 雇い主に釣られてショウゴも受付係が指差した先に目を向けた。受付カウンターの端にあるその場所は折り畳みの仕切りが立てかけてあってよく見えない。


 その様子を目にしたクィンシーが受付係に再び顔を向ける。


「あの仕切りは何だ? 向こう側が見えんぞ」


「そうしてあるんだよ。大金を扱うからな。他の奴に見られて狙われたくないだろう?」


「ああ、なるほど」


「わかったなら早く行ってくれ。次の連中がお待ちかねだ」


 2人は背後で待っている冒険者たちの存在を告げられてすぐに受付カウンターから離れた。そうして両替用の行列へと並び直す。


 再び待ち始めた2人だったが、こちらの行列はなかなか進まなかった。受付カウンターでのやり取りを耳にしていると、金額計算に苦労しているようなのだ。職員の方はともかく、冒険者は基本的に学のない者たちばかりである。そのため、計算もろくにできない者が手間取っているのだ。冒険者の事情を知っている2人は我慢して待つ。


 そうしてようやく自分たちの番が回ってくるとすぐに手続きを始めた。ショウゴもクィンシーも前の世界での知識と経験があるので他の冒険者と比べて圧倒的に作業が速い。これには職員の方も驚いていた。


 何枚かの金貨と銀貨に両替をし終えた2人は城外支所の建物の隅に寄る。どちらも身が軽くなってすっきりとした表情をしていた。


 最初に口を開いたのはクィンシーである。


「さて、これからどうするかだな。ショウゴはここでまだやることはあるか?」


「やるべきことは全部やったかな。あとはちょっと気になることを確認したいくらいだ」


「なんだそれは?」


「悪意のダンジョン関連の依頼があるのか聞いてみようと思うんだ」


「まさかその依頼を引き受けるつもりなのか?」


「さすがにそれはしないよ。クィンシーと契約中だしな。でもダンジョン絡みでどんな仕事があるかわかったら、今中で何が起きているのかぼんやりとでもわかるだろう?」


「なるほど、そういう見方もあるのか。だったら聞いてみたらいいんじゃないか。オレは市場に行ってくる」


「それじゃ、ここからは別行動だな」


「ああ。晩飯はそれぞれ好き勝手にするぞ」


 この日の残りの予定を決めた2人はその場で別れた。雇い主の背中を見送ったショウゴは再び受付カウンターへと続く行列へと並ぶ。


 しばらく待った後、ショウゴは先程とは違う受付係の前に立った。そして、すぐに質問する。


「悪意のダンジョン関連の依頼はあるか?」


「あるぞ。条件を言ってくれたらそれに合わせて紹介してやる」


「2人組でも受けられるような依頼があると嬉しいな」


「2人か。微妙だな。そうなると今は4件くらいといったところか」


「お、結構あるな。もっと少ないと思ってたのに」


 受付カウンターに両手を付いたショウゴがやや前のめりになった。そんなショウゴに対して受付係が羊皮紙を見ながら口を開く。


「最初のは、探険隊の予備調査の護衛依頼だな。地下5層にある怨嗟の部屋の霊体を確保するための事前調査なんだが、そのために護衛を必要としてるらしい」


「それ、2人でも務まるのか?」


「普通は4人だろうな。でも、人数の指定がないんだ。調査をするのは探険隊の関係者みたいだから、もしかしたらその人数に合わせて護衛の数も増減するのかもしれない」


「調査する人間の数が決まってないんだ」


「待て、今のはオレの推測だぞ。本当にそうかは実際に聞いてみないとわからないからな」


 何気なくつぶやいたショウゴの言葉に受付係がすぐに反応した。冒険者が勘違いしたり真に受けたりして問題になることがあるので釘を刺したわけだ。


 次の羊皮紙を手にした受付係が話を続ける。


「次は、冒険者の連れ戻し依頼だな。依頼人は商売人で、悪意のダンジョンに囚われた友人である冒険者を連れ戻したいというものだ。あー、これは」


「囚われる? どういうことだ?」


「いやな、あんまりにものめり込んじまうヤツがたまにいるんだよ。最初は金を稼ぐのが目的で、そのうちダンジョンに入るのが目的になっちまうんだ」


「金稼ぎにのめり込んだら悪意のダンジョンに入るのが目的になるのか? その説明の意味がわからん」


「説明してるオレだってよくわからないんだよ。実際にそんなことになったことがないんだからな。とにかく、中層、下層と下で活動してる冒険者ほどそうなりやすいんだ」


「ということは、下に降りるほど危ないってことじゃないか」


「大きな声では言えないが、まぁそういうことになるな」


「冒険者ギルドで何か対策はしてないのか?」


「できるものならとっくの昔にやってるよ。しかし、当人の心の問題とあっちゃ、こっちでできることなんてほとんどないのさ。それに、この町は悪意のダンジョンの上がりでやっていけてるという面もある。だから止めさせるわけにもいかないときたもんだ」


 依頼の説明をしている受付係の表情が歪むのをショウゴは目にした。どうもこの受付係も良くは思っていないらしいことを知る。それに、ここで受付係1人を責めても何も変わらない。それくらいはショウゴにも理解できた。


 この依頼の話は一旦打ち切ってもらい、ショウゴは次の依頼の話を促す。


「次は、黒猫の捜査協力依頼だな。これは町の中の貴族が依頼人で、黒猫の発見と確保が目的だ」


 黒猫という言葉を聞いたショウゴは目を見開いた。悪意のダンジョンの階段で2回見かけている。可愛らしいというか凜々しいというか、貴族の飼い猫だと言われても納得してしまう見た目であることを思い出した。


 そんなショウゴの様子には気付かずに受付係は羊皮紙を見ながらしゃべる。


「これはいくつかのパーティが引き受けることが前提になってるな。引き受けた時点で前金がいくらか支払われるが、報酬は黒猫を届けたパーティのみに支払われるとある」


「捜索系の依頼なんかによくある方式だな。数を集めて探させて、成功報酬を最低限に抑えるやつ」


「それだ。既にいくつかのパーティが引き受けてるが、まだ募集中だから引き受けられるぞ」


「どうして貴族がダンジョンにいる猫なんてほしがるんだ? 貴族なら金で買えるだろう」


「この依頼人の奥方がダンジョンに出てくる黒猫の話を聞いて心を痛めて、ならば自分が飼うと言い出したらしい」


「あー、猫好きなのか」


「たぶんな。それで旦那の方がこっちに依頼を寄越してきたってわけさ」


「でもあの黒猫、そんな簡単に見つけられるものじゃないと聞いたことがあるぞ」


「確かにそうなんだが、こっちは仕事を回してくれるなら文句はないんだよ」


 肩をすくめる受付係にショウゴは呆れた表情を向けた。貴族の懐事情など知らないのでそれ以上は追及しないが。


 ショウゴが黙っていると受付係は更に話を続ける。


「次が最後だ。これは悪意のダンジョン遊周の案内依頼だな。ダンジョンに入る貴人のための先導と護衛の仕事と書いてある」


「貴人? ということは依頼主は貴族か」


「そうだ。ダンジョンを探索したという箔付けがしたいらしい」


「なんでまたそんなことを?」


「勇気があることを周囲に知らしめるためらしい」


「こっちからしたら迷惑な話だな。とてもやりたいとは思えん」


「しかし、カネ払いは結構いいんだよな、これが。依頼内容だけ見るとかなりの好条件だ」


「何か裏があるんじゃないかと勘繰れそうじゃないか」


「あ、条件があるな。地下6層までの経験者限定らしい」


「なんだやっぱりそうか」


「ちなみに、何階層まで降りたことがあるんだ?」


「今度地下3層に行く予定だ。下に降りられる階段はもう見つけてある」


「まだ上層じゃないか! 今紹介したやつほとんど引き受けられないだろう!」


 声を上げて突っ込んで来た受付係にショウゴは肩をすくめて見せた。そして、犬猫を追い払うかのように手を払われて受付カウンターから追い出される。


 そのまま素直にショウゴは建物から出た。日はまだ高い。これから何をしようか考えながら歩き始めた。

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