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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第1章 上層
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町での休息

 悪意の山脈の山腹にある穴から出てきたショウゴとクィンシーは数日ぶりに日の光を浴びた。悪意のダンジョンで使われている石材の明かりとは違って光から熱を感じる。


 自分が日の光を浴びる場所で生きる生き物であることを思い出した2人はすぐに町へと向かった。東の地平線に進路を取る。


 翌日の昼前に2人はパリアの町へと戻った。久しぶりの町を見たショウゴなどは思わず安心する。


 そんなショウゴを気にすることなくクィンシーは更に足を進めた。向かう場所は換金所である。冒険者ギルド城外支所の近くにあるこの建物は悪意のダンジョンから持ち帰った魔石や出現物を換金する場所だ。石材を使った無骨な平屋の建物は広く、道に面した西側の壁はほぼ取り払われたかのように開放されていて中が丸見えである。


 悪意のダンジョンで取得したものはほとんどがここで換金されるのが冒険者の間で習慣となっていた。元々冒険者ギルドが推奨しているというのもあるが、ダンジョン内で手に入れた道具を無料で鑑定できるというのが何よりも魅力なのだ。更には、魔法の道具だった場合、その大半は呪われた代物なので鑑定してからでないと怖くて使えないし売れないという事情もある。


 2人揃って建物内に入ると、何人もの冒険者が室内の中央を東西に分断する買取カウンターに取り付いていた。カウンターの奥では魔石と各種道具を取り扱う専門の業者が対応している。ちなみに、建物自体は冒険者ギルドが管理していた。


 少しの間屋内の様子を窺っていたクィンシーが買取カウンターへと近づく。


「奇跡のラビリンスで手に入れた魔石と道具を換金したい」


「珍しい言い方をするな。まぁいい。カウンターに置いてくれ」


 一瞬困惑した業者だったがすぐに平静に戻って対応してきた。最初はクィンシーが、次いでショウゴが麻袋を買取カウンターに置く。


「こりゃまた結構取ってきたな。何階層まで(もぐ)ったんだ?」


「地下2層だ。魔物部屋(モンスターハウス)に2回入ったのさ」


「確かに細かいのばっかりだな。こっちは武器に小道具か。おい、ちょっと来てこいつを鑑定してくれ」


 多数の戦利品を前に業者が近くの同僚へと声をかけた。そうして2人がかりで選別を始める。道具の方はすぐに終わったが、魔石の方は数を数えるところから大変そうだ。


 時間をかけて選別と鑑定をした後は金額の計算となる。同僚から鑑定結果と金額を聞きながら業者が算盤をはじいた。集計が終わるとクィンシーに告げてくる。


「全部で銀貨4枚と銅貨3枚だな」


「思ったよりも少ないな」


「魔石が屑魔石ばっかりだからだよ。ひとつ鉄貨5枚だから数を集めても大した額にはならないんだ。この買い取り価格の大半は道具の方だぞ」


「上層でも割と稼げると思ったんだが、勘違いか」


「相応だと思うぞ。中層や下層と比べると安全だしな。そりゃ魔物部屋(モンスターハウス)は別格だが。それに、たまに宝箱を見かけただろ? あの中にはカネも入ってる。むしろあれが稼ぎの中心だな」


 雇い主と業者の話を聞いていたショウゴはなるほどとうなずいた。通常の部屋でたまに見つかる宝箱の中にも少額ながら硬貨が入っている。腕に自信がない場合は地道にダンジョン内を回らなければならないわけだ。


 業者の話を聞いたクィンシーが質問を続ける。


「そのカネなんだが、ここで両替はやってるのか?」


「両替はしてない。それは城外支所の方でやってくれ。そういえば、さっき魔物部屋(モンスターハウス)に2回入ったって言ってたな。だったら両替しないと重いだろう」


「急ぐほどじゃないけどな」


「で、カウンターの上にあるやつは全部換金するってことでいいのか?」


「ああ、そうしてくれ」


 話がまとまると業者は買い取り金額をクィンシーに手渡した。それから買取カウンターの上を片付け始める。


 それを尻目に2人は買取カウンターから離れた。建物から出る直前にクィンシーがショウゴに声をかける。


「先に宿へ戻ろうか。そこでカネを配分する」


「両替してからじゃないのか?」


「どの程度両替するのかはそいつ次第だからな。金貨に替えると持ち運びは楽になるが、使うときに少し面倒になる。だから、高額の硬貨に替える前に分けておくんだ」


 歩きながらしゃべるクィンシーはまっすぐ宿屋『冬篭もり亭』へと歩いた。ショウゴも後に続く。


 歓楽街の一角にある宿に入ると2人は受付カウンターの前に立った。周辺は閑散としていて物音もしない。そんな中、クィンシーが宿の主人に声をかける。


「主人、今帰った」


「行方不明にならなくて良かったよ。ダンジョンで稼いできたか?」


「それなりにはな。それで、宿泊の延長をしたいんだが」


「帰ってきていきなりだな。こっちは別に構わんがね」


「懐が温かいうちに帰る場所を確保しておくのさ。足元を見られないためにもな」


 肩をすくめて理由を話すクィンシーに宿の主人は苦笑いした。それから宿泊の延長の話に入る。特に揉めることもなく話し合いはあっさりと終わった。


 借りている2人用の相部屋に入るとどちらもまず荷物を下ろす。そして、備え付けの机の上に今回の探索で手に入れた硬貨を置いた。それを山分けする。


「2つに分けるだけでいいから楽だな。端数はどうする?」


「お前が取っておけ。特別賞与だ」


「銅貨1枚の特別賞与(ボーナス)ね」


 にやりと笑ったクィンシーの言葉にショウゴは呆れの混じった苦笑いを返した。もらえるのなら文句はないのでそれ以上は黙っておく。


 計算と山分けが終わると2人は数の多い銀貨と銅貨を自分の麻袋や財布へと移した。それが終わるとクィンシーがショウゴに話しかける。


「昼飯を食いに行こうか」


「そろそろ昼だからな。今日はどの酒場に行くんだ?」


「『天国の酒亭』でいいだろう。情報収集は一段落ついてるしな。何かあるのか?」


「大したことじゃないよ。この前薬を譲った冒険者たちはどうしてるのかなって思って」


「まだ気にしてたのか」


「根に持ってるとかじゃなくて、その後のことが気になったっていうだけだよ。酒場でちょっと話を聞いてわからなかったらすぐに止めるつもり」


「それなら闇雲に聞いて回るより、給仕女に聞いた方がいいな。毎日1日中酒場で働いてるから、店にやって来る客のことはぼんやりとでも覚えてるはずだ」


「いい考えだな。そうするよ」


 話がまとまったところで2人は宿の外に出た。空腹と疲労を抱えながら昼間の酒場街に立ち寄る。食堂も兼ねる店が大半なのでどこも昼時の客で店内は盛況だ。


 そんな状態の酒場『天国の酒亭』に2人は入る。出入口から店内を見回してテーブル席が全滅しているのを確認した。次いでカウンター席へと目を向ける。そのとき、ショウゴはカウンター席の端、店の奥に不思議な雰囲気の人物を見かけた。ローブのフードを目深に被っているので正体はわからないが、何かが引っかかる。何度かこの店に通っているが初めて見かける姿だ。


 じっとその姿を見つめていると、ショウゴは隣のクィンシーから声をかけられる。


「ちょうど席が2つ空いてるぞ。ショウゴ、どうした?」


「え? ああ、カウンター席の端にローブ姿の人がいたから見ていたんだ。なんだか不思議な感じがしたから」


「ローブ姿? どこにいる?」


「どこにって、あそこに。って、あれ?」


 雇い主の方へと顔を向けていたショウゴはカウンター席に目を向けて指を指そうとした。ところが、先程見かけたローブ姿の人物が見当たらない。カウンター席の端どころか店内のどこにもいないのだ。


 呆然とするショウゴにクィンシーが話しかける。


「早速疲れが出てきてるようだな。とりあえず、飯を喰って飢えを満たそうか」


「あ、ああ。あれ、見間違えたのかなぁ」


 しきりに首を傾げながらショウゴはクィンシーの後に続いた。疲れている自覚はあるものの、そこまでだとは思っていなかったので地味に衝撃を受ける。


 その衝撃が抜けきらないままショウゴがカウンター席に座ると給仕女がやって来た。クィンシーが注文をした後にショウゴも続く。そのとき、聞きたいことがあることを思い出した。少し多めに硬貨を手渡すと問いかける。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ」


「何かしら?」


 質問しようとして、相手の名前やパーティ名を知らないことにショウゴは今更ながら思い至った。言葉に詰まった後、何とか相手の特徴を伝える。


「こういう人たちを知らない?」


「うーん、この店じゃ見かけないわね。別の所にいるんじゃない?」


 小首を傾げた給仕女からの返答は残念なものだった。情報収集ではよくあることなので礼を言って話を打ち切る。


 結局、薬を与えた冒険者たちのことは何もわからなかった。知ったところでどうなるわけでもないのでショウゴはすっぱりと諦める。


 注文した料理と酒が届いたのはしばらくしてからだった。

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