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第五話:試練の果てに

今回から節が入ります。

遺跡の出口


長きにわたる試練を乗り越え、アレンたちはようやく遺跡の最深部から地上への道を見つけ出した。古びた石造りの階段を登るたび、彼らの耳には軽やかな風の音が届いてくる。地下の閉ざされた空間とは異なる、新鮮な空気が少しずつ肌に感じられた。


最後の段差を超えたとき、彼らの目の前に広がったのは、鮮やかな森の風景だった。出口から一歩外へ踏み出すと、黄金色の夕陽が森全体を照らし、その光景はまるで絵画のように美しかった。木々の葉が夕陽の光を受けて輝き、足元に広がる草原にはかすかに風が吹き抜けていた。


「やっと外に出られたな」

カイが肩を大きく回しながら、安堵の息を吐いた。彼の声には疲労が滲んでいたが、それ以上に達成感があった。


「空が…こんなに広かったなんて」

リリアが感嘆の声を漏らしながら、空を見上げた。遺跡内の閉塞感に慣れてしまった彼女にとって、空の広がりと風の冷たさは格別だった。


一方、ティアはすぐに腰の短剣を確認し、周囲に目を配った。その鋭い眼差しは警戒心を忘れず、何か異変があればすぐに行動できるよう準備を整えている。

「でも、まだ安心するのは早いわよ。この遺跡に興味を持ってる奴らが近くにいてもおかしくない」


その言葉に、アレンも魔法書を片手に結晶を握り直した。結晶から放たれる微かな光は、不思議と彼らの足元を照らしていた。

「確かに、この結晶がこれほどの試練の果てに手に入るものだと知っていれば、欲しがる者はたくさんいるだろうな」


遺跡の出口に立った四人は、一瞬の静寂を共有した。頭上では太陽がゆっくりと地平線へ沈んでいく。その光景に目を奪われながらも、どこか気を引き締める思いが共通していた。


森の中での休息


遺跡から森の奥へと少し進んだ場所で、彼らは小さな空き地を見つけた。草木が程よく開けたその場所は、夜を過ごすにはちょうど良い広さだった。


リリアはすぐに魔法を発動し、周囲に簡易的なバリアを張った。透明な魔法の壁が空き地を覆い、かすかに光を反射している。

「これで魔物や不審者が近づいても気づけるはずよ」


「助かるよ。それにしても、疲れたな」

カイが地面に腰を下ろし、背中を伸ばすように大きく息を吐いた。彼の顔には疲労が滲んでいたが、それ以上に達成感が浮かんでいた。


アレンは焚き火の準備をしながら結晶をちらりと確認した。その光は依然として安定しており、彼らに不思議な安心感を与えていた。

「この結晶、ただの魔力の塊じゃない。きっと次の試練にも関係しているだろう」


ティアが焚き火の近くに腰を下ろし、肩の荷物を下ろしながら言った。

「遺跡で見た魔法陣との関係が気になるけど、それを解明するのは街に戻ってからね。今はまず体力を回復しないと」


リリアが焚き火を見つめながら静かに微笑む。

「それにしても、この光ってただの魔力じゃない気がする。もっと根本的な…何かの鍵みたいに思えるわ」


カイが焚き火に薪をくべながら言った。

「それでも、この先の試練がもっと厳しいって考えると、素直に喜べないけどな」


夜が更けるにつれ、彼らの会話は次第に静まり、森の静寂だけが周囲を包み込んだ。遠くから聞こえる風の音と焚き火のパチパチと燃える音が、彼らの疲れを癒していく。


街への道中


翌朝、夜明けの光が森を照らし始めると同時に、アレンたちは出発の準備を整えた。夜の休息によって回復したとはいえ、彼らの足取りにはまだ少し疲労が残っていた。それでも、次の目的地を目指すためには街へ戻る必要があった。


森の中は朝霧に包まれ、木々の間から漏れる光が幻想的な雰囲気を醸し出していた。草木は夜露で濡れており、彼らの足音が柔らかく響くたびに小さな水滴が地面へ落ちる。


「ここから街までは半日くらいの道のりか」

カイが地図を見ながら呟いた。


「それでも油断しないほうがいいわね。こういうときに限って何か起こるものよ」

ティアが後ろを振り返りながら警戒を怠らなかった。


森を進むにつれ、木々の間隔が狭まり、道は次第に不明瞭になっていった。リリアはそのたびに小さな炎の魔法を使い、邪魔な草木を焼き払って道を切り開いた。


「こうして見ると、この森も一種の迷路みたいね」

リリアが冗談交じりに言ったが、その表情にはどこか疲労の色が浮かんでいた。


「それでも、これくらいの障害がないと冒険って感じがしないだろ」

カイが笑いながら言ったが、その声には少しだけ緊張感が含まれていた。


街の入り口


森を抜けたとき、彼らの目の前に広がったのは懐かしい街の光景だった。石畳の道と木造の家々が並ぶその風景は、長い旅の果てに帰ってきた者たちに安らぎを与えるものだった。


「やっと戻ってきたな」

カイが肩を大きく回しながら言った。


「まずは宿を取って、しっかり休むのが先ね。その後で装備を整えたり情報を集めたりしましょう」

ティアが現実的な提案をする。


リリアが足を止め、街の喧騒を聞きながら呟いた。

「普通の生活がこんなにもありがたいなんて、冒険をして初めてわかるわね」


アレンは結晶をしっかりとポケットにしまいながら、静かに頷いた。

「次の試練に向けて準備を整えよう。これからが本番だ」


街に戻る安堵と緊張


アレンたちが街の入り口をくぐると、忙しなく動く人々や商人の声が四方から耳に飛び込んできた。市場では野菜や果物が並べられ、パン屋からは焼きたての香ばしい匂いが漂ってくる。旅の疲労を癒やすような、活気ある光景が広がっていた。


「久しぶりの街だな。何だか人の多さに圧倒される」

カイが目を細めて市場を見渡した。長い間遺跡と森にこもりきりだった彼にとって、こうした喧騒は少し非現実的に感じられるようだった。


「でも、こういう普通の景色が見られるのって、平和だからこそよね」

リリアが感慨深げに呟きながら、近くの露店で並ぶ花を見つめた。その目には安堵とどこか羨望の色が浮かんでいる。


一方で、ティアは群衆の中に鋭い視線を走らせていた。街の喧騒に紛れる何者かが、自分たちを見張っているのではないかと疑っているのだ。

「油断は禁物よ。遺跡で得た結晶の価値を知る者がいれば、街中でも安全とは限らない」


アレンはその言葉に軽く頷きながら、ポケットに手を入れて結晶を確かめた。小さな光を放つそれは、彼の手の中で暖かく脈打つように感じられる。

「確かに、この結晶を狙う者がいないとは言い切れない。早めに宿を取って情報を整理しよう」


宿屋での休息


アレンたちは街の中央付近にある常宿へと向かった。木造の二階建ての宿屋は、外から見ても分かるほど清潔に保たれており、旅人たちで賑わっていた。


宿の女将が彼らを見るなり、明るい声で出迎える。

「まあ、アレンさんたちじゃない!しばらく見ない間に、ずいぶん冒険者らしくなったわね」


「お久しぶりです、フローラさん。また世話になります」

アレンが軽く頭を下げると、女将は笑顔で彼らを案内した。


「疲れてるでしょ?お部屋を用意するから、ゆっくり休んでね。お風呂のお湯もすぐに準備するわ」


カイが感嘆の声を漏らす。

「お風呂か…。それだけで天国みたいだな」


「それに、美味しいご飯もね」

リリアが微笑みながら、さっそく部屋に荷物を運び込む。


部屋に入ると、それぞれがベッドに腰を下ろし、一息ついた。カイは体を伸ばしながら布団に倒れ込み、ティアは窓から街の様子をじっと眺めている。


アレンは持ち帰った結晶を取り出し、机の上に置いた。その穏やかな輝きが、部屋の中に不思議な静けさをもたらしている。


「この結晶が次の試練への鍵になるとしたら、私たちが進むべき道も示してくれるはず」

リリアが結晶を見つめながら言った。


「でも、その力が何なのか、まだ何も分かっていないわね」

ティアが短剣を磨きながら冷静に返す。


「まずは情報を集めよう。この街のギルドで、それらしい手がかりが得られるかもしれない」

アレンが決意を込めて言うと、全員が軽く頷いた。


街の冒険者ギルド


翌日、彼らは街の冒険者ギルドを訪れた。ギルドの建物は石造りで頑丈に作られており、入り口には剣と盾の紋章が掲げられている。中へ入ると、酒の匂いや金属の擦れる音が充満しており、賑やかな声が飛び交っていた。


カウンターには中年の男性が立っており、彼らを見ると軽く頷いて挨拶をした。

「おや、見慣れた顔だな。アレンのパーティーか。最近は遺跡調査なんかもやってるって聞いてるぞ」


「お久しぶりです。今日は少し相談したいことがあって来ました」

アレンが丁寧に頭を下げると、男性は椅子を引き寄せて腰を下ろした。


「相談?遺跡で見つけた何かに関することか?」


アレンは結晶についての詳細を話すことは避けながらも、遺跡で見た魔法陣や古代文字のことを話し、何か手がかりがないか尋ねた。


「魔法陣か…。それなら古文書の専門家に聞くのがいいかもしれないな。この街にはルイスって名前の魔法学者がいるんだ。少し気難しいが、腕は確かだ」


「ルイス…覚えておくわ。ありがとう」

リリアが軽く礼を言った。


ギルドを後にした彼らは、さっそくルイスの家を訪ねることにした。


魔法学者ルイスとの出会い


ルイスの住む家は、街の外れにある古びた塔だった。高さこそそれほどではないが、所狭しと積み上げられた本や古い魔導具が窓越しにも見える。


「ここ、少し…怖い感じがするわね」

リリアが扉の前で足を止めて呟いた。


「気難しいって言ってたし、あまり歓迎されないかもしれないな」

カイが苦笑いを浮かべる。


アレンが意を決して扉を叩くと、中から甲高い声が聞こえてきた。

「誰だ!騒がしいぞ!」


しばらくして扉が開き、白髪交じりの老人が顔を出した。その目は鋭く、知識への飢えを感じさせるような光を宿していた。

「何の用だ?」


アレンたちは事情を簡潔に説明し、遺跡で見た魔法陣について相談したいと申し出た。


「ふむ、興味深い話だな。入って来い」

ルイスは彼らを塔の中へ招き入れた。中は本と巻物が山積みされており、歩くたびに埃が舞う。


「遺跡の魔法陣と結晶…それがもし本物だとすれば、非常に貴重な発見だ。特に古代文字が解読できれば、何らかのヒントが得られるかもしれん」


ルイスは机の上に広げた古文書を指さしながら話を続けた。


「ただし、これが解読できるまでには時間がかかる。何日かはここで待つつもりでいろ」


アレンたちは互いに目を合わせ、小さく頷いた。彼らの新たな冒険は、ここからさらに深まっていくことになる――。

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